第十六話 もう二学期なの。
心地よい風が流れて、
それはそれはとても優しくて、子守歌みたいだったの。
夏が終わり、秋へと変わる夜、すやすや
でもね、
「お兄ちゃん、ごめんね……」
「気にするなって」
まだ夏休みが続いているような青空の下。
「
「う、うん……」
とはいっても、まだ返事も泣き声だった。
いつの間にか正門を
「
「あっ、
という具合に、元気な声も聞こえて……と、思っていたら、
「瑞希さん」と。目の前には、その智美先生の顔があったの。
「おはよう。どうして泣いてるのかな?」
わたしは手で
「ママに
「お
「ちゃんと起きたよ。でもね、お兄ちゃんも怒られたの。瑞希のせいなの……」
「瑞希、そうじゃないだろ」
と、お兄ちゃんが口を
「ううん、瑞希が悪いの」
「
それで、「えっ、えっ?」と、
「どういうことなの?」
と、さっきまでにっこりだった智美先生が、困った顔になっちゃったから、
「あのね……」
とっても
「おねしょしちゃったの。お兄ちゃんと同じお
「ごめんな。瑞希が夜中『おしっこ』って言ってたのに、どうしようもなく眠たくて、トイレに一緒に行ってあげなかったからなんだ。だからな、瑞希は悪くないんだよ」
と、お兄ちゃんは言ったけど、そんなこと言ったっけ? って感じなの。……あっ、でもね、夢の中で「おしっこ」って言っちゃった気がする。それでね、そのままおしっこしっちゃった……みたいなの。という具合に
「あなたたち、本当に仲いいのね」
と、智美先生が、くすくす笑っちゃって、
「瑞希さん
「ほんと? お兄ちゃんのことも?」
「もちろん。今ごろママは学校で『うちの息子と
まだ
「それね、お兄ちゃんの誕生日にプレゼントするんだよ」
「まあ、
「えへっ」
もうすっかり笑顔だ。
「それからね、お兄ちゃんの読書感想文、とても良かったって校長先生が褒めててね、今度の『読書感想文コンクール』で発表することになったの」
「どくしょ……こんくうる?」
「夏休みの宿題に読書感想文があったでしょ?」
「う、うん。瑞希はまだだけど……」
「あっ、そうか。三年生になってからだったね。それでね、三年生から六年生までの読書感想文の中から各学年から一人ずつ
読書感想文って、とっても楽しそう。
でも、それよりも、もっと
「お兄ちゃん、すごいね」
「いや、すごいのは瑞希だよ」
「どうして?」
「僕はただ、瑞希が言った通りに、
するとね、智美先生が、またくすっと笑って、
「瑞希さん、お兄ちゃんが大好きだから手伝ってあげたのよね」
「うん!」
「満君、来年が楽しみだね」
「はい」
お空には、まるで編んだセーターみたいな
わたしには、そう見えたの。
それはね、きっと
わたしの編んだセーターは、他の子たちが夏休みの宿題で作ったものと一緒に、体育館に展示されている。この間テレビで見たホテルの式場みたいに、白くて長いテーブルが並んでいて、その上に
その子は女の子で、わたしと同じクラスの子で、わたしと席が
わたしは、その子のことを、
「
って、呼んでいるの。
身長はわたしより高くてスマート。背中まである長い
「あっ、瑞希さん」
それでもね、
「瑞希が編んだセーター、見てくれてたのね」
「うん、とっても素敵。お母さんと一緒に編んだの?」
って、
それでね、わたしは「ママ」って呼ぶけど、聡子さんは「お母さん」って呼ぶみたいなの。同じ二年生だけど、何か、わたしよりお姉さんって感じがするの。
「ううん、瑞希が一人で編んだの」
「瑞希さん、すごいね」
「えへへ……」
褒められて、とっても嬉しかった。
するとね、お洋服と身長、それに顔までお
「あっ、本当だ。まるで虹みたい」
「ねっ、素敵でしょ」
「でも、……希? って子が一人で編んだのかな?」
「そうねえ、これを二年生の子が一人で編むのって、やっぱり難しいよねえ。きっとお母さんに手伝ってもらったのよ」
とか言っているの。
やっぱりそう思うのかな? と、ちょっと悲しくなっていたら、
「
と、大きな声が、この体育館にこだました。
さっきまで聞こえていた
「この子が一人で編んだの」
「えっ?」
びっくりした。
でも、びっくりしたのはわたしだけではなくて、上級生……やっぱり
「ねっ、瑞希さん」
と、わたしと一緒に持ち上げていた手を下した。
「う、うん……」
わたしは顔が熱くなって、目が
それでね、
「まあ、
「み、ず、き、ちゃんっていうのね」
お姉ちゃんたちは、プレートの『
元気で大きな文字だけど、見事に丸っこい。……少しだけ
「瑞希ちゃん、すごいね」
「
えっ? と、またまたびっくり。
お姉ちゃんたちだけではなくて、そこにいるお兄ちゃんたちにも褒められちゃったの。
「それだけじゃないのよ」
聡子さんは、さらに続けて、
「この子ね、お兄ちゃんにプレゼントするために、このセーターを編んだんだって」
とまで言っちゃったの。
「いい子だなあ、
「ほんと、持ち帰りたいよなあ」
なんて聞こえてくるの。褒めてくれるのは嬉しいけど、わたしの大好きなお兄ちゃんはね、たった一人なの。……って、あれ?
「聡子さん、何で知ってるの?」
「
「う、うん」
あっ、そうか。二年生の下駄箱は校舎の中になくて、一年生と同じで中庭に面した小屋みたいな場所だから……う~ん、確かに見えちゃうね。
それに何だか、聡子さんの顔、にっこりというよりも、にんまりで、
「それでね、『瑞希ね、ママに怒られたの。お兄ちゃんと一緒のお布団だったのに、おねしょしちゃったの……』って、めそめそ泣いてたでしょ」
って、はっきりと、声を大にして言っちゃったの。
それも、わたしのものまねまでして……
そばにいるお姉ちゃんたちだけではなくて、わたしのことを褒めてくれたお兄ちゃんたちも……
「と、いうことで瑞希さん、
その言葉を残して、聡子さんは帰っちゃった。「あははは」って笑いながら。
……ひどい。聡子さんの意地悪。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます