第十七話 意地悪な子。
……本当にそうなの。給食の時間、わたしがトマトを残していたら、
「こら、暴れないの」と、聡子さんは言うけど、
「やだやだ」と、泣いても、
「
結局そのまま食べさせられて、お洋服も
その他にも、図工の時間は「うんち」と言って、
という具合に、聡子さんの意地悪はまだまだあるの。
……でもね、こんなこともあったの。算数の時間だった。上の空で、苦手なお勉強だけど
そしたらね、
「どうしたの?」
って、聡子さんが声をかけてきたの。
いつもと違って、ちょっと優しいの。それで、ちょっと出そうになって、
「おしっこ」
「もれそうなの?」
と、聡子さんが心配そうに
「駄目でしょ、先生に言わなきゃ」
と言って、聡子さんは「は~い」と手を上げた。
チョークを持って黒板を前に立っていた
「聡子さん、どうしたの?」
「
と、いつもより大きな声で、はっきりと。これこそ『元気な小学生の見本』みたいな感じで、聡子さんが言った。
「何だ? おもらしか?」
「やだ、おまた押さえちゃって」
「ほんと
という話し声から「くすくす」ではなくて「あははは」と、笑い声に変わった。
そんな中で、ばん! と、机を
「笑っちゃ駄目でしょ!」
と、聡子さんが
びっくりして、あっ、もれちゃった。……と思った。
ピタッという表現が似合うように、騒がしかった教室が静かになって、みんなの視線が聡子さんに向いた。どの子も顔が固まっちゃって、智美先生が、
「今日の宿題よ。一問目、聡子さんがみんなに、どうして『笑っちゃ駄目』って怒ったのでしょう? 二問目、瑞希さんみたいにお勉強中、おしっこ我慢できなくなったら、みんなならどうしますか? この二つの答えを考えてみてね」
と言って、にっこり笑った。
「は~い」
と、みんな元気よく返事をした。
「じゃあ、聡子さん、瑞希さんと
「うん……」
あっ、ずる~い、わたしばっか……と思いかけたけど、
「やだ、もれちゃうよお」
今それどころではなくて、本当に下まで泣きそうなの。
その思いが伝わったのか、聡子さんは、
「そうだったね、瑞希さん、行こっ」
「うん」
教室を一緒に出て、
とはいっても、トイレまですぐだけど、
「瑞希さん、
って、聡子さんが声をかけてくれるの。
何だかとても
「み、瑞希さん?」
って、びっくりしちゃったの。
足元には大きな
「半ズボンに、パンツまで
と、いうことなの。
「おしっこで、
学校ではそうなの。……でもね、脱ぐのはいつも個室の中なの。今は脱いだ半ズボンとパンツをぎゅっと
「とにかく、しよっ」
「うん」
それぞれの個室に入った。
しゃがんだらすぐで、ちょうどすっきりした
「ねえ、瑞希さん」
「なあに?」
「学校のトイレって、和式だからしにくいよね」
「うん、そうなの」
「みんなには内緒なんだけど、二年生になるまでは、わたしもそうだったの。でもね、お母さんが教えてくれたの」
いいなあ……って思った。
ママはお仕事が
「瑞希さん、今度ね……」
「えっ?」
「下がはだかんぼにならなくていいように、教えてあげるね」
「うん、ありがとう」
よく意地悪するのに……何でだろう? とっても優しかったの。
そして気がつけば、この体育館に広がる笑い声は治まっていて、
「まあ、
「瑞希ちゃんなら、おねしょしたってオッケーよ」
えっ? 抱っこされちゃった。
お姉ちゃんたちは、
「お目目ぱっちり、
「可愛いお手々、あはっ、笑ってる笑ってる」
とか言いながら、色んな所を
そして男の子女の子と、色んな声が交わる中で、
「瑞希!」
と、真っ直ぐな線を
「お兄ちゃん!」
と、その声に向かって、大きく手を振った。
するとね、光の中のシルエットが、だんだん近づいてくるの。
ポニーテールのお姉ちゃんが、
「瑞希ちゃんのお兄ちゃんって、
「うん、そうだよ」
「まあ
やっぱりお兄ちゃんには好きな女の子がいた。とっても嬉しかったの。でもね、やっぱり、瑞希のことだけを見てほしいの。……ぼんやりと、それでもはっきりと、泣いちゃいそうなくらい、そんな思いが
「わたしはね、満君と同じクラスなの。この子と同じで、わたしも満君とお友達……」
と言って、ポニーテールのお姉ちゃんが、こくりと頷いてから続けて、
「それでね、瑞希ちゃんも、わたしたちの可愛いお友達だよ」
と、満面な笑顔で言ったの。
パパが言っていた通り、瑞希にもお友達ができた。嬉しさいっぱいだ。ちょうどそこにお兄ちゃんがいて、「やった、やった」という思いの中で、
「お兄ちゃん、お姉ちゃんたちね、瑞希が編んだセーターいっぱい褒めてくれたよ。それでね、いっぱい遊んでくれてね、瑞希とお友達になったんだよ」
と言ったら、お兄ちゃんの笑顔が
「良かったな、瑞希」
「うん!」
そして、くしゃっと、わたしの髪を
「君たち、瑞希がお世話になったみたいで、本当にありがとう」
と、お姉ちゃんたちに一礼した。くすっと、ツインテールのお姉ちゃんが笑って、
「やだ、満君、
「そうだよ、お兄ちゃん、硬すぎだよ」
って、
「こ~ら、調子に乗るんじゃない」
「
ポニーテールのお姉ちゃんが、
「満君、せっかく瑞希ちゃんが素敵なセーター編んでくれたんだから、わたしたちと一緒にお友達も
「う~ん、そうだな……」
お兄ちゃん、考えこんじゃった。
「ねえねえ、瑞希いい子にするからいいでしょ?」
まるで欲しい
「瑞希ちゃん、本当に可愛いね」
「そうだね」
と、お姉ちゃんたちがくすくす笑う中で、
「じゃあ、甘えたさんの瑞希のために、お誕生日会するか」
「わあ、お兄ちゃん、ありがとう」
わたしは嬉しくて、お兄ちゃんに抱きついた。
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