第六話 事の始まり。
六月といえば、もう去年になるのか……
遠くアメリカの地から、この学園に数学の先生が来られた。その人の子供である中学生の女の子と男の子も
その決意の名のもとに、リンダさんは、わたしを訪ねて来られた。
その内容は次の通りで、リンダさんが質問してわたしが答えるというものだった。
「お
「は、はい」
「
「一九九〇年三月十六日生まれ。二十五
「日本では
「確か、アメリカでは同じ学年でしたね」
「そうですね。アメリカでは九月が新学期でしたので。……あっ、それから血液型もお願いしますね」
「O型です」
「まあ、主人と同じ血液型なのですね」
「はい。職場では色々お世話になっております」
「そしてご職業は先生。お勤め先は主人と同じ私立
「あっ、それはちょっと違うのです。どちらかといえば、
「では、その特撮ヒーローが大好きなのと同じくらいに長く続けていたこと。または今も続けていることは何でしょうか?」
「ええっと、そうですね。……やっぱり日記ですね」
「いつ
「小学生からだと思いますが、その
「うふふ……
「意外でした?」
「いいえ、思った通りでしたよ。実は、娘と息子の誕生日に
「もし
「ありがとうございます。お言葉に
「あっ、はい」
「先生のご家族について教えて下さい。
「母は現在六十一歳で誕生日が五月三日。血液型はA型。私立大和中学・高等学園の教頭先生でしたが、去年の三月で
「先生は、お母さんと
「はい」
「ご結婚されましたら、お家を出られるのでしょうか?」
「ええ。家を出て、あの人とご両親も
「良かったですね。最高の親孝行だと思いますよ」
「あっ、でも、このことはリンダさんから習ったことですよ。『また家族と一緒に』を読んで、主人公はきっとこうなりたかった。……と、思いましたので」
「そう言ってもらえると、とても
「結果的に……と言いますと?」
「実は、そこまで考えていませんでした。あの物語を書いた時、いいえ、先生たち演劇部の劇を
「……そうでしたか。でも、いずれにしても良かったです。リンダさんがアメリカへお帰りになさらず、日本でお母さんとお
「あの子がそんなことを?」
「はい」
「……では、次の質問に移りますね」
「はい」
「先生のお父さんのことについてもお願いしますね」
「あっ、そうでしたね。パパ……じゃなくて、父は、市立
「あっ、すみません。……訊いてはいけなかったみたいですね」
「いいえ。父もきっと、わたしと同じように喜んでいると思います。リンダさんがこれから書いていく小説を、楽しみにしていると思いますよ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、とても
「ええ、喜んで」
「……あっ、それから、娘と相談しまして、これはやはり先生がお持ちになった方がいいと思いまして……」
「ええっと、中身は見られました?」
「はい、少し……。そのことで、合わせて先生にお願いしたいことがあるのですが、聞いてもらっても宜しいでしょうか?」
リンダさんが、お願いしたこと。
それは
そしてリンダさんが
そんなことがあってから、今日で二回目を
さあ、いよいよと思ったこの時、
「リンダちゃん、いらっしゃい」
「先生、お
「まあ、今日は海里ちゃんも一緒なのね」
「おばちゃん、こんにちは」
「うふふ……今日はね、特製ケーキ作ってみたのよ」
「わあ、おいしそう」
「海里ちゃん、ぜひ食べてみてね」
「うん。おばちゃん、ありがとう」
と、いうことがあって、今この木製机の上にはママの特製ケーキと、紅茶が入った三人分のマグカップも乗っている。それを、わたしたち三人は囲んでいた。
海里さんは、ママのことを「おばちゃん」と呼ぶ。リンダさんは「先生」と呼ぶ。わたしのことも「先生」と呼んでいる。ややこしいと思われるけど、リンダさんにとってママは今でも先生で……と、思いながらも、わたしは
それで、わたしは
「海里さん、そんなに急いで食べなくてもケーキは
「だって、とってもおいしいんだもん」
……とにかくすごい。
すでに三個を
海里さんは、クリームを口の周りに残しながら、
「先生だって、たくさん食べてるもの」
その通りで、わたしも同じく三個、見事に完食していた。
それでも、大きなお皿の上にはケーキが残っていて……って、一体いくつあったのだろう? まるで大きなバースデーケーキを、まるまる使ったみたいだ。
「海里、先生はね、お腹の赤ちゃんの分も食べてるのよ」
リンダさんは左手にケーキフォークを持ちながら、そう言った。この時、初めてリンダさんが左利きだということに気がついた。ちなみに海里さんは右利きだ。
「元気な赤ちゃん、生まれるといいね」
「海里さん、ありがとう」
本当に、海里さんは不思議な子だ。
でも、どう不思議なのかと訊かれたら、きっと説明に困るだろう。正直にいえば、まだまだわからないことばかりだ。それに、リンダさんと海里さんが目の前で横に並んで座っていると、本当によく似ている。う~ん、違いといえば……。
リンダさんの
と、まあ、そんなことを思っているうちに、海里さんはケーキを食べ終えた。それで花より団子と思っていたけど、やっぱり女の子。口元をティシュで
海里さんはきょとんとして、
「どうしたの?」
って、訊いてきた。
どきっとして、わたしは思わず、
「海里さん、ママによく似てるのね」
「よく言われるの」
海里さんはにっこり……というよりも、さっきとは百八十度も違うイメージで、
「先生、そろそろ始めましょうか?」
そうリンダさんが言ったので、
「は~い!」
と、わたしは笑顔で答えた。
リンダさんがお願いしたことは、大まかに二つある。
これから書いていく物語の主人公は、わたしをモデルにしたいということ。そのために週一回の割合で、この部屋でインタビューさせてほしいということ。それが一つ目。
じゃあ、二つ目は?
それは、この玉手箱に
……リンダさんが本当にモデルにしたいのは、もしかして、この日記帳に綴られた瑞希ちゃんなのだろうか? そして、わたしがこの子のことを語るのに、どのような意味があるのだろうか? 二つ目は、わたしの中でこの二つの疑問を浮かばせていた。
ただ、クラスの中ではちょっとおチビちゃんで、おかっぱ……ではなくて、ボブの少しぽっちゃりした女の子が、頭の中で
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