思い出戦争…プレリュード

 用語解説


 金喰かねくいキノコ:迷宮森三魔獣めいきゅうもりさんまじゅうの一つ、毒攻撃どくこうげき得意とくい。全ての魔獣の中一番弱いちばんよわ存在そんざいだが、その知能ちのうだけが最強さいきょうの魔獣にもおとらない。キノコ最大さいだい弱点じゃくてんは金がまえにいた時なによりも最優先さいゆうせんターゲットとなる。


 フェアランド:ゲーム世界六つの大陸の一つ、いにしえ大陸たいりく別称べっしょう平原へいげんおおく、ゆたかな自然しぜんつつまれ、まるで神話しんわ舞台ぶたいのような大地だいちきたひろ森地域もりちいきには数多かずおおくのモンスターと魔法動物まほうどうぶつ生息せいそくし、中部ちゅうぶの28たい魔獣まじゅう物語ものがたり世界中せかいじゅう冒険者ぼうけんしゃの中で有名ゆうめいみなみ海岸線かいがんせんは、スカイボロウ、ハイファリア、パールダノ、三つのゆたかなポートシティが毎年にぎやかなフェアをを開催かいさいする。


 うず結界けっかい:悪魔島のみなみひがし海域かいいきは、六千六百六十六ろくせんろっぴゃくろくじゅうろくの渦によってまもられている。この渦たちはプレーヤーに対し特別とくべつなアフィニティーを持っている、どんなもの挑戦ちょうせんしてもすぐ海の底までまれておぼぬ、例えそらからでも、だ。


 英雄の推薦状すいせんじょう:プレーヤーには数多のタイトルをることができるが、中には英雄のタイトルだけが推薦状を必要ひつようとする。英雄のタイトルを申請しんせいする時提出ていしゅつした推薦状は三通さんつうまで。そのは英雄でなければならない、そして一人ひとりの英雄が一年書ける推薦状は二通につうまでだ。


 内容をお楽しみに



「まだ半年はんとししかてないけど、もうはるむかし記憶きおくに感じます、戦場せんじょうからはなれた後の倦怠感けんたいかんと言うべきかもしれません…、半年前俺は悪魔遠征軍あくまえんせいぐん参加さんかした、気まぐれの決意けついではない、とっくにめたことだ、このゲームを始めてからずっと俺のこころざしつらぬくため、英雄えいゆうになるために、沢山たくさん時間じかんやした。遠征軍のことも分かるつもりで、決してシーエムがうつったような栄光えいこうみちとか、英雄のかごとか、そんな夢事ゆめごとじゃない、沢山たくさんうそじていたもので……でも!それでも俺は行くんだ!このイベントはあの時の俺にとって一番いちばんのチャンスなんだ…少なくとも悪魔島へ行ける、これはまぎれもないたしかだ。あそこは簡単かんたんにたどり着ける場所じゃない、俺の将来しょうらいの戦場を見る機会きかいるだけで多大ただい価値かちがあった。行くと決めた後すぐじゅうげた、遠征軍参加の資格しかく魔獣まじゅう討伐とうばつ最低さいていでも一匹いっぴき。俺は最弱さいじゃくの魔獣、『金喰かねくいキノコ』をえらんだ……つら選択せんたくだった、普通ふつうを誰よりもにくい俺がこの普通の選択をくだしたには3日かかった。でも本当ほんとうに時間はなかったんだ、最終目的さいしゅうもくてきのため些細ささいなプライドをてるしかない!どんなにくるしいおもいをのこしでも、だ……後のことは簡単かんたん、金喰いキノコを倒し、遠征軍のたびに…」


「ちょっとった!」

「え!?」

「もう我慢がまん限界げんかいよ。何勝手かってあつくなっていたのかしら?質問しつもんやまほどいたのけれど」

「いや、でも俺、こうして一気いっき物語ものがたりすすむのがしょううというか…熱弁ねつべんで場の雰囲気ふんいきがるというか…」

「私は他人たにん与太話よたばなしを聞いてじっとしていられないわ。ごめんなさいね、大人しい淑女しゅくじょじゃなくて」

「あ、いや……質問しつもん大歓迎だいかんげいですよ、どうぞ」

魔獣まじゅうって何?モンスターなら聞いたことはあるけど」

「そうですね、ふるいゲームを少し知ったのならモンスターも知るはずです。簡単かんたんに言うと死物しぶつあつまり、中に数値すうちが高い奴もいるけど、所詮しょせん攻略のパタンで行動こうどうするとかならず倒します」

「分かった、それはモンスターね。で、魔獣はどう違うのかしら?」

「はい!魔獣は超違ちょうちがいますよ!彼らは天災てんさいに近い実力者じつりょくしゃ、その怪獣かいじゅうよりでかい体躯たいくの中なんと思考しこう宿やどっている、おそろしいことはこの上ない!強者と自負じふした冒険者ぼうけんしゃなら絶対ぜったい魔獣をねらう、それでも倒せない魔獣が一杯いっぱいいる!彼らは悪魔にも匹敵ひってきできた…一体誰が倒せるのか?大英雄だいえいゆう以外に考えられない!」

「うん、卑劣ひれつ演技えんぎだけど大体だいたい分かった。でもどうして思考ができるのかしら?NPCじゃないの?」

「……NPCです、でもかくが違う。この世界ののう超凄ちょうすごいものだと知ってますね?魔獣はその脳の一部いちぶを使っています、NPCがその一部の一部。モンスターは何も使っていません、変動へんどうのない数字すうじ百年ひゃくねん経っても何一つ変わることがない」

「そう、学習装置がくしゅうそうちね……」


「ただいまもどりました~ユーラシア」

「来たのね、プリネア。今ルナテッが猿芝居さるしばいをやっていたのよ、見物けんぶつはいかが?」

「あらー~綺麗きれいな人ですね。文芸ぶんげいかみえんむすんだ方がいいと思います」

「え!?…いや俺、神とかにはあんまり…」


 プリネア?この人が?…文芸の神の信者しんじゃだったのか。でも相当そうとう美人びじんだぞ?あのお嬢さんにけないくらい、さすがにおどろいた。


「初めまして、お兄さん。後で洗礼せんれいけましょう、私が案内あんないしますから」

「洗礼?受けるつもりはありませんけど」

「どうして?私たちのダンスパーティーに参加さんかしたいですよね?下心したこころを持つままじゃだめじゃない」

「下心って!…証拠しょうこはありますか?」

「あら?文芸の神を信仰しんこうしないあなたが下心を持つ…たりまえのことじゃないですか。だから洗礼を受けまれわるのですよ」

「これはただの偏見へんけんじゃないですか?」

「いいえ、確かに持っていたわね、中身なかみは分からないけど」

「ユーラシアさん?」「ユーラシア……」


 見抜みぬかれた!?あのお嬢さんにもう一度会うためここではたらくつもりで…そしてこのちいさなおもいを下心にばれた…いや、まだだ!ただのはったりかもしれない!


「すみません!俺、行かないとえらびます!」

自惚うぬぼれのことをおっしゃる、それは聖女せいじょさまがめたことです」

「バカね、選択せんたくなんて最初さいしょからないのよ…踊り子になるために行くしかないの」

「そんな?どうしてですか?ユーラシア」

「君はまだシチズンじゃない、それを決めるのはあのビッチよ」

「また無礼ぶれい発言はつげんをしたわね、ユーラシア。貴女に無限むげんのろいを……今は話の途中とちゅうですね、お邪魔じゃまして失礼しつれいいたしました。抹茶まっちゃをいれます、私にかまわず続けてください」


 抹茶?聖女の洗礼?…受けないとダメか?でも、確かにシチズンになれないと権力けんりょくの方が…また汚いことを考えた、俺は!


「どうした?続けなさいな、それとももうネタ切れ?」

「それが…気になることが……」

「うふふ~本当よ。ルナテッの正体しょうたいは男の子…あたり?」

「あたった…でも下心はただの…」

「大丈夫、私ほどの美女びじょを前に居て下心したこころ当然とうぜんじゃない。私はルナテッよりホウさんの意見いけんしんじる、ただそれだけよ」


 チャンスは二分にぶんいち…そんなことじゃない、確かに見抜みぬいたのだ、彼女が!…まさか踊り子が人の心を能力のうりょくがいたとはな。


「…わかりました。俺は踊り子のバイトで金をかせいで、かねちから大英雄だいえいゆうのタイトルを手に入れて、悪魔あくま戦場せんじょうおうつ!大事だいじ家族かぞくのために……これが俺の本心ほんしんです。下心したこころの方はずかしくて言えないけど…ゆるしてください」

「うむ、いいんじゃない」

「ありがとう。話をつづきます」


金喰かねくいキノコとの一戦いっせん省略しょうりゃくさせていただきます、最弱さいじゃく魔獣まじゅうに使う言葉ことばはありません。おすすめとして奴の写真しゃしん絶対ぜったい見ないでください、そのキモさは100%ユーラシアの想像そうぞうえます。2メートル程のキノコに全身ぜんしんカビが寄生きせいして、触手しょくしゅがぬるぬるして、守銭奴しゅせんどの顔がキノコかさの上に密集みっしゅうして、いくさの後ちょうゲロになった……モンスターよりよわいくせに、超狡猾ちょうこうかつで…あの時の戦力せんりょくはたった三人さんにんあつめパーティー、本来ほんらいなら勝目かちめがあるはずがない。しかし!俺の活躍かつやくのおかげでやっとったのですよ!勝機しょうき戦前せんぜん完璧かんぺき毒対策どくたいさく~~ああ、名誉めいよ負傷ふしょうとして俺は奴の攻撃こうげきらって血が常時猛毒状態じょうじもうどくじょうたいになった、いまでもなおりません、決して俺にはりとか注射器ちゅうしゃきとかをさないでください、危険きけんですから……コホン、とにかく勝利しょうりは勝利です、けして完璧かんぺき毒対策どくたいさくほころびがわけじゃないからな…資格しかくた後悪魔島あくまじまへ向かって出航しゅっこう今回こんかい遠征えんせいに出したふね総計そうけい30せき、俺が居た船でいはいません。ただ一人、金喰いキノコ討伐とうばつの時一緒いっしょに戦った人も来た。あいつのことを普通嫌ふつうきらいで、こえける理由りゆうはありません。船はとてもせまい、とくしんじられないことは、二人ふたり寝室しんしつをシェアすることですよ!俺はベッドきの部屋へやで他の人と一緒いっしょ生活せいかつすることができません。さいわい、元々もともと俺は部屋にこもるつもりはないので、結果けっかとして多大ただい精神傷害せいしんしょうがいを受けなくてみます…俺はボーディングしてからずっとデッキの上に居て、人を待っています。びと船長せんちょう女英雄おんなえいゆうの船長、事前じぜん調しらべによって遠征軍えんせいぐんの英雄は船一隻ふねいっせき一人ひとり指揮官しきかんみたいなものだけです。デッキにおおよそ6時間居続いつづけた、まわりの人と話すことがない、俺は海にかれた。『フェアランド』の海とはぜーんぜん違いますよ!沢山たくさん新しいことを覚えたが今日は時間がない、その後のことがもっと素晴すばらしいだから。6時間後、『うず結界けっかい』がせまってた。この結界は島の周囲しゅうい展開てんかいした渦のことをします、普通ふつうの船ならすぐ渦にまれてうみそこまでしずむ、そらかうでも龍に撃墜げきついされたのがオチ。遠征軍のふねうず突破とっぱすることが出来ます!俺はそれ見たくてずっとデッキに居ました。丁度ちょうどその時、船長せんちょうがやっとあらわれた!それまではずっとオフ状態じょうたいだとデッキの人たちがうわさした。でもどおしい英雄はごく普通ふつう女性じょせいで、なんの魅力みりょく特長とくちょうも感じられません!正直しょうじき、あの時「この人ってマジ英雄!?」とおどろいたが、称号しょうごを見た後渋々納得しぶしぶなっとくした。しかし!不思議ふしぎなことに、船体せんたい無事ぶじに渦のなかとおった、渦が全然えてないのに、船はただ災厄さいやく無視むししてそのまま通った!他の船もみんな同じ、しずむやつは一隻いっせきもない。こうして、俺たちのボロボロの艦隊かんたいうずとおけ悪魔島に急接近きゅうせっきん解釈かいしゃくとしていくつの可能性かのうせいが…」


英雄えいゆう女性じょせい関係かんけいある可能性かのうせいは?」

「あっ、プリネアさん、戻ってきたのですね。俺もそう思います、英雄こそが結界けっかいとお条件じょうけん、それが一番にかなう解釈かいしゃくです。昔他の連中れんちゅう一緒いっしょ潜水艦せんすいかん突破とっぱすることもありますよ、どうためしてもうず接近せっきんすることすらできない、最後さいご船長命令せんちょうめいれいで渦へ突撃とつげきしみんなうみそこしずんで、いきめた」

「結構酔狂すいきょう真似まねをしたわね、潜水艦はかねがかかるでしょうに」

「そのまま海の底で沈んで爆発ばくはつした、何もかもんだ。潜水艦のぬし相当そうとうな酔狂な人で、俺といます」

「でもかなわないのですよ?お兄さん」

「はい、先ずはすわってください、プリネアさん。何でもこたえますから」


 プリネアさんはかえってからトレーを持つまま次々と質問しつもんげてくる、その視線しせんすご真面目まじめで…綺麗と真面目は非常ひじょうめずらしいわせのはず、不思議ふしぎな人だ。


「はい、失礼しつれいしました……もし英雄が通行条件つうこうじょうけんとしたら、最初さいしょ通した方はどうやったのですか?悪魔の島に辿たどり、悪魔をたおさないと、英雄にはれないのです。私のかぎりその悪魔は島からはなれることができないのです」

うれしいです、プリネアさん、俺もおな問題もんだいかんがえたことがあります。俺のこたえはこう…悪魔が島から出ることが可能かのう、最初の英雄はしまそとで悪魔をほろぼし、タイトルをれた」

「もしそれが真実しんじつでしたら、私達が知るはずのではないかと」

「いえ、むずかしいと思います。英雄のタイトルを申請しんせいした時、『英雄の推薦状すいせんじょう』が必要ひつようとします。でも最初の英雄に推薦状を書く英雄は居ません。つまり最初の英雄が口外こうがいしないかぎり、真実しんじつはずっとやみなか

「…まだ納得なっとくできません、他の証拠しょうこはいますか?」

一番いちばん問題もんだいは、悪魔のことにかんしこっちがあんまりにも無知過むちすぎた。気づいたのですか?このゲームの規則きそく全部条件付ぜんぶじょうけんつきのもの、島から出るための条件じょうけんもきっとあります。そんな肝心かんじんなことは知らない、だから俺たちはよわい!無力むりょくのまま真実しんじつつかめない!…俺ができるのはプレーヤー側の履歴りれきから推測すいそくしかありません。今まで悪魔島へ行くことをためすプレーヤーが無数むすういた、酔狂すいきょう潜水艦せんすいかんみたいに、もし英雄以外の条件があれば絶対ぜったいばれると思わない?そういう発想はっそうです」

「…でももし本当ほんとうにそうだとしても、どうして英雄側えいゆうがわがはっきり言わないのですか?」

「よくあることです、英雄側にはかくせる情報じょうほうなら絶対話さないから」

「……なるほど、悪魔あくま英雄えいゆう、あんまり知りませんでした…お兄さんの推測すいそくしたようなかもしれません」

「ありがとうございます」

「なぜ弁論大会べんろんたいかいになったのかしら、続けて…このちゃ美味おいしいわね」

「はい、では続きさせていただく」


うずこうはあたらしい世界!俺は大声おおごえを出し歓声かんせいを上げた、でもデッキの人はこおりのようにつめたくて…特にあの美人びじんではない船長せんちょう三度さんどに声を掛けおれいをしたいのに何の返事へんじもなく一人でキャビンへと戻った。あの一瞬いっしゅんまわりの全てが俺の目にゾンビのようにうつった。彼らも初めて悪魔島あくまじまを見たはずなのに、何も感じないだなんておかしいだろう?俺はあんまりにも失望しつぼうして、キャビンへとりた。そこでホールの人がいわいのパーティーを開けていた、俺は何も考えず仲間なかまれて、おどって、泥酔でいすいしたまでんで、た。めた時もう誰もいなかった、もちろんうばえるものは全部ぬすまれて…俺はやけくそになってデッキから船をりた…上陸地点じょうりくちてんは黒い砂浜すなはま艦隊かんたいの船があちこちななめにかたむいて、遠征軍えんせいぐんのみんながいなくなった。足元あしもとくろすなちかられるとくびまで足がまれて、まるで泥沼どろぬまで…きたない場所に苦手にがてな俺はいそいで海辺うみべからはなれた。そのさき出会であったのはヒインとジョアンナ、二人とも女の人で、俺のような一人ぼっちになった阿呆あほを待っていた。ヒインは中性的ちゅうせいてき外見がいけんを使って、こうさそってきた、「もう一人しいだよ、一緒いっしょに行かない?イケメン~」。俺は少し考えてからこう答えた「もし死んだら、復活ふっかつできますか?」。もう一人ちょういい人のジョアンナが「大丈夫、それは私がパーティーにいたわけですから」とフォローした。こうして、俺たちはかりのチームを結成けっせいしたのです~」

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