金がない時…都市へ行く

 用語解説


 エル・エスの市民:プレーヤータイトルの一つ。このタイトルを手に入れる方法は、三つある。一つは聖女せいじょ承認しょうにんを得ること。二つはエル・エスへの金銭的きんせんてき貢献こうけん一定値いっていちを超えること。三つはエル・エス文化試験ぶんかしけんを受け、合格点ごうかくてんを取ること。


 静雷軒せいらいけん:エル・エスのパレードストリートのてに位置いちする劇場げきじょう円形えんけいの3階建て、愛称あいしょうスイニービラ。一階と二階はスターたちのりょう、三階以上はエル・エスのレベル2に居る。


 魔法の目薬めぐすり:目玉の視力しりょく広範囲こうはんい操作そうさできる薬、特別とくべつなレシピで暗視あんしなどの効果こうか付与ふよできる。その名前はただの俗称ぞくしょう、薬の原理げんりは必ず魔法にあるわけじゃない。


 吸血鬼きゅうけつき(科学関係):遺伝子いでんしVAMPの永続えいぞくジーンドライブによる変異へんい。変異者は吸血衝動きゅうけつしょうどうと吸血による能力上昇のうりょくじょうしょう、もしくは能力降下のうりょくこうか特性とくせいを得る。


 内容をお楽しみに



地図ちずを持っていない方はみちしてください”、中庭なかにわ入口いりくちで俺がてた看板かんばん。ここまで地形ちけい複雑化ふくざつかしたのは俺の趣味しゅみ、すこしでも迷宮森めいきゅうもり気分きぶんになって時々あそびにくる。


「でも麗さまが賓客ひんきゃくのお嬢さんにすとは初めてかも、どんな気分転換きぶんてんかん?」

「いや、ちょっとな、同じゲームをやったし…何より彼女は一人だ、ほうっておけない」

やさしいねえ~で~~~」

「おっ、くっつくな!迷子まいごになるぞ…」

「麗様、アンリエッタさまは優しい方だけど、外見がいけんはあんまりえないね。ヴァル姉さんの方がずっと綺麗きれいだと思う」

「大丈夫、後3年ミダルはヴァル姉にけない美女びじょになるんだよ~ねえ~~麗さま」

「その通りだ」

「そんな、私はまだまだ……」


 優しい人か、きっとそうにちがいない……そう言えば今日も迷宮めいきゅう挑戦ちょうせんしに来た賓客ひんかくがないのか…ちょっとだけさびしいぜ。


「気を付けて、麗さま。私はあのお嬢さんが優しい人とは思わないね」

「…関係かんけいない。俺は何時でも仲間なかま全力ぜんりょくたすける!それは俺の道だ」

「カッコイイ……」

「ま、カッコイイ人はみんなバカかもね」


 大丈夫だ、少なくとも悪いやつじゃない、絶対ぜったいに……今日のパーティー意外いがい面白おもしろいな、仲間ができたし、ミダルの姿すがたを見たし…ゲームの方もしっかりしないとな。


「着いたね、麗さま。ゲームをほどほどにしてくださいよ」

「あんまり無茶むちゃしない方が…」

心配しんぱいすんな。もうちょっとためしてみる、その価値かちがあるから」


 二人は俺の頬っぺたにキスしてくれた……心配しているんだ、ゲームに夢中むちゅうした俺を……


おくさまを会いに行ってください、麗様。もう2ヶ月会ってないでしょう?」

「ああ、そろそろ手紙てがみを送ってくるだろう、悪いな…次のうたげにきっと会いに行く、約束だ」

才能さいのうあふれたいとしい麗がずっとゲームに没頭ぼっとうし。神様、私は一体いったいどうすればいいのでしょう…聞いていますか?麗さま。奥さんの心苦こころぐるしい祈りを聞いてください」

「麗様にプレッシャーをかけないで、ホメ…じゃあ、私達はこれで失礼しつれいします。おやすみなさい」

「ああ……」


 さびしい、みんな英雄えいゆうはなしを信じてくれない…でも仕方しかたない、この目で見ないと確かに分からないもんな。お休み、二人とも。


 …よし!ゲーム再開さいかいと行き……でも、今は潮時しおどきかもしれない、金も全部無くしたし。お前ならどうする?レオナルド……もう少しよう、起動時間きどうじかんは3時間後に設定せってい

 ……



 戻ったか、このゴージャス過ぎる部屋に…ありがとう、ホウさん。

 …ええいくだらない!いつまでダンスパーティーのせつなさにひたっているんだ?俺は貧乏人びんぼうにんになった、さっさとホウさんを探して仕事相談しごとそうだんをするんだ。俺はホウさんを信じる、きっと彼女は俺の力になる。


「……何処どこにいますか?ホウさん…俺、戻ってきた!」


 ベランダから身を乗り出し、大声おおごえで叫ぶ、感謝かんしゃ気持きもちを込めて……


「で、いつしつもりなんだ?」

「あっ、ホウさんだ。お早う、今そっち行きます!」


 ホウさんはエプロンをつけてガーデンの手入ていれにみ中、植物海しょくぶつかいの中に上手うまかくれていた小さなガーデン。

 ここでつるのエレベーターを使って一気いっきにホウさんのところへ…おっ!体のバランスが…戻ったばかりか、印と体の連結れんけつはまだ不安定ふあんていだ。


「良かった、ホウさんがここにいてとても助かります」

「私はいつも花と一緒いっしょにいるんだ、あっちでやることはない」

「なるほど、ホウさんはニートですね。俺もです」

「知るか、阿呆あほう犯罪はんざいしない限り、何をしたって私の自由じゆうだろう」

「でもあっちの自由って、せつないですよね。本当ほんとう自由じゆうじゃないと思います」

「ふん、哲学てつがくを嫌いだな。私はいま自由だ。それだけで十分じゅうぶんだ…さっさと要件ようけんを言え、これからいそがしんだ」

「…わかりました。オールドタウンのおっさんが俺におど仕事しごとすすめた、ホウさんの意見いけんを聞きたい。早く仕事を見つけて、引っ越ししたいです」

「踊り子?…なるほど、お前なら行けそうだな、かおはいいし、体も柔軟じゅうなんそうだし…やってみ」

「でもどうして踊り子に?よくわかりません」

「アホ、もうかるに決まっているだろ、儲かない仕事をやって何の意味いみがある?」

「踊り子が?具体的ぐたいてきいくらで?」

人気次第にんきしだいだ、最低さいていでも一ヶ月50万じゃく


 そうかだからあのおばさんが踊り子になりたいのか、全然知らなかったぁ…


「50万…確かにけそうだな。よし!ここで凛々りりしい少女のイメージでめよう、きっとすぐ人気にんきものになる~」

勝手かってに決めるな、客人きゃくじんのことはまだ知らないだろう。先ずはユーラシアを探せ、彼女の意見を聞くんだ」

「ユーラシア?ホウさんの昔の友達?」

「そんな友達はいない。言っただろう、連中れんちゅう全員ぜんいんくたばったって…ユーラシアは私の族人ぞくじんだ。王様おうさまみたいな名前だろ、そのぶんおぼえやすい」

「わかった、彼女に会いに行きます。やっぱユーラシアも踊り子?」

「ああ、シアターの名前は『静雷軒せいらいけん』、そこへ行ってやれ」

「でも俺、地図ちずを持ってません。シアターへの直接転送ちょくせつてんそうはないだろ?」

「地図は『エル・エスの市民しみん』になった後手に入れた物だ、今は考えるな。もう一度オールドタウンへ行け、シアターは老城ろうじょう周辺しゅうへんにいる」

「静雷軒…中華ちゅうかみたいな名前だな」

「まあな、持ち主は中華だと聞いた」

「中華かぁ…よし!では行ってくる。なるべく早く引っ越しするので、お願いします」

あんずるな、迷子まいごの時都市としひとに聞け、道くらいは教えてやろう」

「分かりました、では失礼しつれいします」

「待った…これを持ってけ」

「…ホウさんっ!」

「なんだ、気持きもち悪い。ようんだらさっさと消えろ、邪魔じゃまをするな」

「ありがとうございます!」


 今度こんどはゆっくりとすすもう、ホウさんがくれたサンドイッチをかじりながら…いつからか、ゲームをたのしむ心が無くして、ずっとあせっていた…

 目指めざすはオールドタウン周辺しゅうへん都市とし…もっと簡単かんたんなアイデアから出発しゅっぱつすべきだ。世界の真実しんじつを知る、英雄えいゆうすために。


 ここのみどりはやっぱ絶景ぜっけいだな。青いそらうみに浮いていた一個一個の球体きゅうたいは森や花でおおわれて、時々大量たいりょうの緑のきりが花から拡散かくさんし、空へこぼれる。霧は空気くうきより重い、ゆっくりと落下らっか底一面そこいちめんちる、この生態圏せいたいけんは霧の中に姿すがたかくした。


 ……居た!連絡橋れんらくばしの上にガラスボトルを発見はっけん、中身はキノコの水じゃないけど、びんの美しさは相変あいかわらずだ、後で換金かんきんしに行く…つかれた、古い木の下でやすむか。


 今回こんかいも他の奴と会えないのか?…よし、人をさがしてみよう、『魔法の目薬めぐすり』の力をりて……見つけた!あっちの球体に二人の男がじゃれ合っている、やくはどっちだ?…あっ、また霧が……残念ざんねん、あと少しつかめそうなのに…


 ここはひろすぎる、一体いったいどれだけの球体がいたのか?…でもキノコの城はいつも中心ちゅうしんに居て、太陽たいようのように…いや、違う、俺はここの全体像ぜんたいぞうつかめていない。他のジャイアントキノコが存在そんざいする可能性かのうせい十分じゅうぶんある、先の二人も俺と違う場所へ目指めざしていたのか……


 おっ!か?蜻蛉とんぼにも呼べるな…あまい!俺の血は猛毒もうどくがある、このまま墜落ついらくしてねむれ…ていうかこの効果不便ふべんすぎ、もし『吸血鬼きゅうけつき』がいきなりおそってきたら事故じことはいえ死ぬかもしれないのだぞ。一度死んでこの効果こうか解除かいじょした方が身のためだ。


 …よし!そろそろ行くか、キノコの城はすぐ次の球体にいる。今回こんかい沢山たくさんのことに気づき、知った…ありがとう、NPCの子、また会いに来た!


 サヨナラ、ホウさん…ここはフェアリーランド、ホウさんはフェアリーランドの住人じゅうにん、俺は…ここにまよんだ旅人たびびと。でもいつかここの地図ちずく、約束やくそくだ!


 またキノコの中…おっと、マッチョキノコの位置いちはしっかりとおぼえている、視界しかいに入る必要は全然ありません~一度歩いた道の完全かんぜんコピー、楽勝らくしょうすぎ~

 それでも全力ぜんりょくで行く!ゴール時間を前回ぜんかい半分はんぶんにしてもう一回いっかいあの子にビックリさせるんだ~


「ハロー~また来ました!新記録しんきろだぜ、おどろかないか?」

「はい、ランキング上位じょうい記録きろくになりますね。でも驚きません、二度目にどめがあればきっと時間を短縮たんしゅくできますから」

「それは…例外れいがいもあるだろう?」

「ごめんなさい、小金持こかねもちのルラアさま。私はコンピュータ、例外は信じませんよ」


 小金持ち?この子は黄金の銃の商売しょうばいを知っていた?…それとも俺の背中せなかに銃が無くしたからの推理すいり


「…きみは銃のを知っていたのか?」

「はい、一応いちおう知っていますが…」


 そうか、NPCの間情報じょうほう共有きょうゆうしていたのか、これまで全然彼女たちのことを見っていなかった。


「そうか…でもゴール時間の時とだいぶテンションが違う。金に興味きょうみがないのか?」

「さあー、時間以外じかんいがいのことをあんまり知りたくはありませんけど…私、へんでしょうか?」

「いや、それは趣味しゅみと言うんだ…床をともしてくれ、もう一度オールドタウンへ行く」

「かしこまりました。よいたびを…」

「10分だ!黄金の銃を売るには10分で十分だ」

「そうでしたか~ありがとうございます…」


 彼女の七色なないろはねかんから灰色はいいろの羽がちた。これは転送陣のかぎだ、前回の時は赤い色の羽、たぶん今回の転送先てんそうさきは前回と違うだろう…金を使わないとランダムの効果はまぬがれない、これはゲームのルールだ。

 ……


 ついたのか?…あぁ、間違いない。この透明とうめい城壁じょうへきはオールドタウンのものだ…地図がないと不便ふべんだな、前回の城門じょうもんを探すのか、それとも……わかった!先ずは都市とし観光かんこうしよう。

 あっちの街はどうだ?道はひろい、人のにおいもプンプンする。


 なっ、このバイクのれつは?爆走ばくそうチームか!…二輪車にりんしゃだけじゃなく、三輪さんりんタイプも…四輪しりんタイプもいるぞ。三輪タイプのダブルタイヤがかっけー…四輪タイプはがった時に不器用ぶきようすぎるだろおい…見つけた!あいつは隊長たいちょうだな、バイクナンバーを看板かんばんの上書いて背中せなかにぶら下がっていて、酔狂すいきょうな隊長だ……

 なんと!地上ちじょうだけじゃなく、空もにぎやかだぞ。たくさんの風船ふうせんそらいている、ひと時上へと昇り、ひと時下へと降りて、大忙おおいそがし…風船の上に何が書かれていた、ロシア語か?……だめだ、距離きょりとおすぎてよく見えない…いや違う!一人風船じゃないものが中にまぎんでいるぞ!…超丸ちょうまるい男だ。人なのに全身ふくらんで風船群ふうせんぐんとともにあんな高い空で…面妖めんようすぎる。


 かべ一つへだてだけなのにオールドタウンと大違おおちがいだ、この街は…多分たぶんまともな奴は俺だけかもしれない…いや、他の人からみればイレギュラーは俺の方か…とにかく話しかけてみないと何もわからない。


 あっ、一人女の人がいた…ハイヒールをいて、着た服もキラキラだけど、一応足が地面とつながっていた、きっと俺の質問しつもんを答えてくれる人だ。


「こんにちは、俺をたすけてくれませんか?」

「いいわよ、れいはいらない」

「ありがとう、礼はする。道を聞きたい、シアター静雷軒せいらいけんのことを知ってますか?」

「知ってたわ、私お芝居しばい大好きよ…あそこのラウンドドームの建物たてもの、見える?」

「見えた、頂上ちょうじょうにはクレセントのシンボルだよね?」

「そう、立派りっぱな建物だわ、私きよ。静雷軒はそのとなりにいる、お分かり?」

「わかりました。ありがとうございます、お礼はどうしますか?」

「いらないと言ったでしょう。あなたへ大した興味きょうみがないわ、パレードの人じゃないみたいだし」

「すみません、必ずお礼をさせてください。無理むりたのみでも…俺、決めたことを無理やりでもとお性格せいかくです」

「ふーん…面白おもしろいじゃない、名前をめて」


 彼女はいきなりシルクハンカチを谷間たにまから持ち出した、手際てぎわがよくて魔術まじゅつのようだ…俺はその上にルラアの三文字さんもんじをサインした。


へんな名前ね、後で刺繡ししゅうしてあげるわ。で、お礼は?パレード以外いがい興味きょうみないわよ」

了解りょうかい。今は無理だけど、将来しょうらいはここでパレードを開催かいさいします」

「どうやって?たいへんお金かかるわよ」

大丈夫だいじょうぶ!この街の金持かねもちになるつもりで…今は始またばかりだけど」

「あらあなた、地味じみだけど理想屋りそうやね、気に入ったわ!もしあなたのパレードが実現じつげんしたら、この街の掲示板けいじばんでみんなに知らせなさい、かなら招待状しょうたいじょうをせがんでくるわ」

「わっかりましたぁ!必ず実現じつげんして見せます」

「ふふふ~その意気いきだわ…じゃね、男前おとこまえ~」


 …そうか、ここはパレードきの街か……違う…全然違うぞ!ボールよりずっと面白おもしろいじゃないか!めた!俺がキングになる日からボール全面禁止ぜんめんきんし!メイドさんも、メイドさんの娘も、タールも…みんな招待しょうたいしてパレードのハッピーをたのしむのだ!





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