金がない時…家族

第十四話は用語解説がありません、内容をお楽しみに



「……戻ったか。すぐよう、うたげまであと3時間しかない」


 ヘルメットをはずし、顔もあらわないまま俺はソファーの上で寝た。

 ……


 ……まだねむいけど、夜の支度したくをする時間だ。目覚めざまし時計とけいはいらない、眠気ねむけの相手はタブレット一つで十分、まだ完全かんぜんに動けない肉体にくたいがシャワーをもとめている。


 蛇口じゃぐちから出た水の温度おんどにおいまで意のままに、革ソファーは10人が座っても窮屈きゅうくつに感じない、一流いちりゅう豪華ごうかさをほこ自宅じたく…正直3年ってもいまだれていない。これはまずしい出身しゅっしんの人の最大の限界げんかいかもしれない。例え王様おうさまになって、いつまでも昔の記憶きおくとらわれ、周りの優秀ゆうしゅうな人をくす。俺もそのせいで大きなうつわに成れないかもしれない…でも大丈夫、あっちの世界で英雄に成ればいい、こっちでは肉体を維持いじさえできればそれでいいんだ。


 かるいシャワーをびた後、かがみの中の自分をちゃんと見つめる。小さい頃からの悪い癖だ、今はもうすっかり男になったけど、よく肉体の外見がいけんをチェックすればやはり女のかげが見える、鎖骨さこつあたりとか…でも関係かんけいない、シャツのボタンをめ、ちょうネクタイにつけた後誰も知らないことになる。


 よし!性分しょうぶんわないけど、タキシードくらいは絵本えほん通りちゃんと着込きこんでから自動ドアを通して正式せいしき外出がいしゅつ。ボールの会場はライトウィングのホール、ガーデンをわたればすぐ辿たどく。

 この屋敷やしきのガーデンは向こうのとがあり過ぎたが、結構綺麗だ。中には特にこのサボテンの花が気に入った、花の色は季節きせつとともに変わる、冬でも枯れることは無い。おじさんの作品の一つ、プロジェクトネームは文字通もじどおれない花…


「麗くん、お父様の花を見ていたのですか?」

「お嬢さんっ!あなたも会場かいじょうへ…」

「はい、ご一緒でもよろしいかしら?」

「はい、もちろんです」


 この綺麗きれいなお嬢さんの名前は華礼かれい、俺を養子ようしとした華族かぞく家の一人娘ひとりむすめ。おじさんはまだ何も言ってないけど、彼女を俺の花嫁はなよめてる計画けいかくはもうお見通みとおし。お嬢さんはとてもいい女の子だが、もし俺が向こうで英雄になったら、その時は……


「何のことかしら?麗くんがずっと私の足元あしもとを見つめていて…つばさつきさまは何か知ってますか?」


 翼つきさま、何時からかお嬢さんはその存在そんざいもしない人とった。もし放置ほうちすればそのまま滔々とうとうひとごとを言い続ける、結局けっきょくのところ俺がわりに答えなければ収拾しゅうしゅうがつかない。


「あっ、いえ。あなたのステップ、ステージ上のモデルみたいに一直線いっちょくせんなので、少し不思議ふしぎだと思いました」

「あー、そうでしたか…きっとバーチャル世界でずっとふくらんだスカートを着ていたから、わるくせになったのですね」

「それなら納得なっとくできます。お嬢さんもこのジャンルのゲームをやっていたのですね、流行はやり過ぎると思います」

「はい、麗くんがプレーしていたゲームとっていると思いますよ」

「…もうすぐ階段かいだんがいるので、このステップを維持いじできないと思います、どうか気を付けてください」


 似っている?いや、俺のゲームは特別とくべつだ。いまでもあっちのグラフィック残像ざんぞうが目のかどっすらと浮かぶ。急いで目的もくてき達成たっせいしなければ、強いどくになる……


「ありがとう、麗くん…私はこれからお母さまのところへ行きます……麗くんは来てくれないの?お母さまは私より麗くんを好きなのにな」

「そのようなことは決していません。俺はおじさんに報告ほうこくしに行く、失礼しつれいします」


 20個以上のシャンデリア、相変あいかわらず豪華ごうかな場所だな…おじさんは香水こうすいにおいがもっとい場所にいて、宴会えんかい主役しゅやくとして君臨くんりんする。彼と挨拶あいさつした後、俺の宴会はわる。


「こんばんは、おじさん。麗が来ました」

「おう、よく来たぞ、麗!…皆さん、私の麗のために拍手はくしゅしてくれないか?」


 宝石ほうせきかんざしで髪をたかく持ち上げたレディーたちが白い手袋てぶくろを外し、一斉いっせい拍手はくしゅした、同時におじさんへの道をゆずった。


「私の前に来たまえ、麗…最近さいきんはどうだかな?」

「はい、やすんでいます。世界語せかいご頑張がんばっています」

「そうだ、世界語だ。来月らいげつ試験がいると聞いたぞ」

「はい、試験しけんがあります」

「当然通るだろう?」

「そのつもりです」

「よろしい。パーティーをたのしみたまえ、ただしゲイに気を付けるのだぞ」

「わかりました……」


 挨拶終了しゅうりょうっと……屋上おくじょうに行くか。


 おじさんは俺をごみばこから拾い上げた恩人おんじん、俺のゲームをやりたいわがままも聞いてくれた、とても感謝かんしゃしている。でも彼は俺になんの関心かんしんを持ってなかった、人のDNAにきざんだ才能さいのう見込みこんだだけ…昔のおじさんは遺伝子いでんし学者、個体こたいのジェネティク・マテリアルだけに興味きょうみがあった。


 ……ちっ!いやらしい視線しせんが来た、ボールの定番ていばんだな。あそこのマッチョ男、間違まちがいなく伴侶はんりょ探しに来た。おじさんも昔の愛人あいじんとか、新しい愛人とかと逢引あいびきしたばかり、パーティーというのはこういう場所だ。唯一ゆいいつ、俺の居場所いばしょはお嬢さんと伯母さんのそば…伯母さんは本当に良い人で、やさしく高貴こうきなお方、それに本心ほんしんから俺のことを好きでいてくれた。でも……


 まずはエレベーターに入る……でも伯母さんのことに少し抵抗ていこうがあった、彼女の優しさにれたたびあの人に悪いことをした感じがした…小さい頃、俺のもう一人の恩人は伯母さんより全然まずしくて、世間せけんから見てよごれた人かもしれないけど、確かに俺をすくってくれた…今あの人がまだ世界のどこかで生きていると思うたび、無性むしょうに会いたくなる……


 このあたりの金持ちは全部うちに集まったから今は街の光が一番弱いちばんよわい時、星はかすかでも確かに空に存在そんざいしている。それに屋上おくじょうにも少しの花と植物しょくぶつが居た、ちょっとした雰囲気ふんいきがある場所だ。

 風は強い、俺の体にまとわりつく香水こうすいばしていく…意識いしきが少しえた……


「誰?ダンスパーティーの人?」

「っ!他の人がいるのか?こっち来て、俺はエンゼルストランペットの下に居るよ!」


 初めてだ、何度もここに来たけど、いつも俺一人。みんなシャンデリア下のダンスとゲイを好きだ。

 俺の前に歩いて来たのは一人の女の子、月光げっこうの下でもあんまり目立めだたない、髪もめなくてくろいままだ。


「きみ、初めて見た。名前をおしえてくれませんか?」

「…教えたくはない…私、あなたのことを知ってるわ」

「知ってるのか?俺のこと」

「…そう。良かったわね、あの人の跡継あとつぎになって…昔何物なにものでもないあなたが」

「ああ、俺も良かったと思う…きみは?ここでかくれていたのか?それとも屋上おくじょうほしを気に入ったのか?」

「私は…一人ひとりよ、あそこに居場所いばしょがないわ……あなたも一人?」

「いや、俺は家族かぞくが居た…多分たぶん

「…そうね、綺麗きれいなお嬢さんが居たのね…彼女と一曲いっきょく踊ったらどう?」

残念ざんねん予定表よていひょうにはメイドさんの娘とのロンド。その一項いっこうだけ」

「…ふん、はトラッシュボックスのままね。やっぱ下街したまちの人はろくなものがない」

「いや、ちょっとちかづくがたいというか……それって、いけずというのか?」

「そうよ…よろしくね、いけずさん。そしてバイバイ」

「待って。下街を知ったのならきみもプレーヤーだろ?」

「それが何か?」

「俺の仲間なかまにならないか?」

「っ!どうして!?」

「一人だろう?なら俺の最初さいしょの仲間として丁度ちょうどいいや。約束する、俺は決して仲間を裏切うらぎれない」

「……意味いみわからないわ、何のメリットがあるの?」

理由りゆうはいらない、ただきみを気に入っただけかもしれない。おじさんのことも知っているのだろう、俺はあの人と違う大人おとなになりたいんだ」

「…王様おうさまになるつもり?」

「王様のうつわじゃないと思う。でも、みんながみとめる人になるんだ」

「それは王様だよ!」

「おう!一理いちりあるな。なら俺は王様になる」

「……絶対ぜったいに、裏切れない?」

「ああ、約束やくそくだ。安心あんしんしろ、俺の約束はいつも神が見ていてくれる、やぶることはない」

「……わかった、これからそばて、麗のちからになる」

「おたがさまだよ。俺の力を必要ひつような時遠慮えんりょなく声をけてくれ、全力ぜんりょくで助ける」

「…うん」

「…下に降りないか?中庭なかにわのガーデンでおどりましょう」

「わかった」


 最初さいしょ仲間なかまか……メイドさんの娘は俺を待っていたのか?みんなにみとめてしい願望がんぼうを持つだけで、結局けっきょく誰もこたえてくれないかもしれない…結局おさなごろのように、災難さいなん降臨こうりんした時みんな俺からはなれていくかもしれない……


「ねえ、麗…私、男の子と踊ることははじめて…」

「大丈夫だ。中庭なかにわもりかくれたから、誰も見えない」

「…うん、ありがとう」

「まだ名前を教えてくれないのか?」

「まだだよ、ダンスの後で教える」

「そうか、知ってた。きみの故郷こきょう風習ふうしゅうだな?」

「うん……」


 彼女は俺の前を歩いていた、目指めざすところは多分たぶんあのエレベーター……やっぱり、重量制限じゅうりょうせいげんたった200kgのせまいエレベーター、でもホールをけて外へ出られる、まるで一人ための脱出装置だっしゅつそうち

 彼女は本当に一人だ、だからこの道を知っている、友達ともだちの多い人が知らない道を……


中庭なかにわはこの先だね、入ったことはない」

「そうだな、ここの迷宮めいきゅうは俺が設計せっけいした、下手へたするとすぐ迷子まいごになっちゃう。この先は俺がリードします」

「うん」


 約束の場所までのかれみちは三つ、正しいかぜをフォローすると5分もかからない。ただし一つの道を間違まちがえれば50分になりかねない、通ってきた道を戻るには地図ちずがないと不可能ふかのうだ。


「こっちですよー~麗さま!」

「こんばんは……」


 二人いた!俺との約束をいつもまもってくれた、賓客ひんきゃくの人たちと大違おおちがいだ。


「ありがと!ホメ、ミダル、来てくれてうれしいぜ」

「あっ!麗さまは客人のお嬢さんを連れていたよ!」

「…こんにちは」

「おう、俺のはじめての仲間なかまだぞ、よろしくな」

「あなたはメイドの娘?」

「は、はい、ミダルです…ごめんなさい、賓客ひんきゃくの前でわたしたち…」

堂々どうどうとしなさい、あなた。そのドレス、気合きあいを入れて作ったのでしょう」

「そうですよ、仕事以外しごといがいの時間を全部つぶして作ったのです、彼女。麗さまに見せるためってね~」

「そんな、ことは……」

見事みごとなドレスです。その裁縫さいほうスキル、いさぎよけをみとめました」

「やれやれ、予想通よそうどおりの問題児もんだいじね」

仕方しかたないですよ。麗さまは男の子の友達全然ないから…あーあ、いつこころともができるのかなぁ~麗さまは」

「そのせんはありね。趣味悪しゅみわるくない、あなた」

「もうこのジャンルのマンガをやめようぜ、ホメ…そう言えばミダルはこんなに無口むくちな子だっけ?」

「バーカ、彼女はれないドレスを着て自信じしんないのよ。さっして」


 確かにすっごく綺麗きれいなドレス、あんなにたくさんちょうがら刺繡ししゅうして…ミダルは舞踏会ぶとうかいあこがれ子かぁ、全然知らなかった。俺も初めてタキシードを着た日にはてもってもいられないしな、今もまだ慣れないけど…


「これは、これは…この鈍感どんかん主人公しゅじんこうをおゆるしください、ミダルお嬢さん」


 木のかげかくれていた通信端末つうしんたんまつNo.033を操作そうさくし、音楽おんがくプレイ~、~~、~~~


「では~先ずウオーミングアップということで…」

「何がウオーミングアップよ、フォークダンスじゃない」

「いいですね~田舎いなかでよくおどったのですよ」

「そのとおーり~たきもちゃんとあります」


 子供のおもちゃのたき火も無事ぶじ起動きどう~一応3Dなので、本物に…いや、ゲームをやり過ぎて本物ほんもの偽物にせもの区別くべつできないかもしれない。


「子供のおもちゃね、本物のように見えるけど」


 やれやれ、彼女もコアプレーヤーか……


「何ぼうっとしてるのよ、ちゃんとヒロインの手をにぎって」

「よ、よろしくお願いします」

「よし!みんなでえんになろうぜ」


 ミダルの手は冷たい、やっぱホールの外でそでなしのドレスはキツイ……ってフォークダンスの効果こうか抜群ばつぐんだな、彼女の鼓動こどうがどんどん強くなって、つないだ手から伝わってくる。

 やっぱ彼女たちのことを好きだ、普段田舎いなか勉強べんきょうして、夏休なつやすみの時屋敷やしきへ来てメイドの仕事を手伝てつだい、サボることは一度いちどもなかった、踊る時も本気ほんきたのしんでいた……


「ここでいいよ、麗」

「わかった、そっちの二人はご両親りょうしん?」

「うん…じつのお父さんじゃないけどね」

「そうか。大事だいじにしてね、アンリエッタ」

「タールでいい」

「タール…イタリア人?」

「近い、かわ一つの距離きょりかな」

「タールって、文学少女ぶんがくしょうじょだよな?」

「どうして?」

「だって一人だろう、そう思った」

「うん、そうだよ。バイバイ」

「バイ」


 アンリエッタ、舞踏ぶとうの後教えてくれた彼女の名前…もちろん一人ずつちゃんと2曲相手あいてをした。ミダルはドレスだけじゃなく、ダンスも一杯練習いっぱいれんしゅうした、俺よりずっと上手うまい。アンリエッタはやはり内気うちきな子で、あんまり話題わだいが見つからない。ホメはいつも通りの猪武者いのししぶしゃ


「ちゃんと別れた?麗さま」

「あぁ」

「帰ろう、麗様」

「ああ!」


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