エル・エスを制覇する…第三……

 用語解説


 文芸騎士ぶんげいきし:エル・エスの重要時刻じゅうようじこくを大いに貢献こうけんした市民にさずけたタイトル。三つの名誉めいよの一つ。毎年のわくは1人と2人の間で変動へんどうする。騎士の任命権にんめいけんは聖女が持つ。


 オークション:金さえ持ってすればほしも買えられる、これはエル・エスの一般論いっぱんろん。ここではオークションの存在意味そんざいいみはない、だが一つだけ例外れいがいはあった。神殺しの兵器だけがオークション以外の売り場はない。


 フリーズ:プレーヤーは生理せいり急用きゅうよう自己じこのせいで一時ゲームから離れた時、フリーズのコマンドを使える。この状態で体は消えない、赤と緑のモザイク彫刻ちょうこくに残し、銃弾と魔法の干渉かんしょも受けない。


 サウンド妨害ぼうがい:プレーヤーを中心ちゅうしんとして半径はんけい5メートル以外のプレーヤーの会話を聞くことはできない。でも方法を使うとその半径を変えることはできる。


 神殺かみごろしの兵器へいき:黄金の石英で作られた兵器へいき、英雄の象徴しょうちょうとでも言える。悪魔との正式戦せいしきせんでは、神殺しの兵器だけが下級悪魔以上の存在にダメージを与えることができる。


 内容をお楽しみに



 なんなんだ?このおっさん!怪しい、怪しい限界げんかいさえ突破とっぱした……破談はだんだ、俺は他人にこんな大きなりを作るわけがない。


「待って、ルラア君。私は君に助けたい傾向けいこうが強い、して欲しい」

「待たない!何故知らない人にそこまですくう?怪しいじゃないのか?おっさん」

「なんと!気づいてないのか?私は騎士きしなんだよ、人を助けることは騎士の余興よきょう、違うかね?」

「騎士だと!?…何に使う?」


 またでたらめなことを言ったな?こんなゲイみたいなおっさんが騎士のわけがあるか!?…彼の発言はつげんに俺は思わず止まった。


「町の『文芸騎士ぶんげいきし』、町の民に使う」

「俺は下町の野郎やろう関係かんけいないはずだ」

「もちろん下街とはなんの関係もありません、これは肯定こうていだ。しかし君は可能性かのうせいを持っている、この町の民になる可能性が、それだけで十分じゅうぶんではないのかね?」

「俺がここの民だと!…うまほねもわからない奴に対し勝手かってすぎるじゃないか、おっさん!何故俺を信じる?」

「はっハハ、関係ないと言ったではないか、信じるかどうかは私の一存いちぞんだよ……どうかね!ルラア君。私の質問しつもんに答える覚悟かくごがいるのかね?」

「なんだ?話してみろ!」

「君は自分の神を信じると言った、その代償だいしょうはなんだ?ゲームの全て?それとも現実げんじつの全て?」

「どっちも同じだろうが!俺自身おれじしんの全て、俺のしるしだ!」

「印か…確かに大事だいじなものだ。でもその価値かちは人によって大きく変わる、無価値むかちの印も山ほどあった、その場合はどうする?」

「違うに決まっておろうが!印より大事なものがあるのかよ!?どんなによわい奴でも印だけは砕けない、それは絶対ぜったいだ!」

「よく言った、ルラア君!間違いない、きみには英雄の可能性を持っている、私はきみをけたい!ついてくれたまえ…」


 …英雄?なんかおっさんが言っていた英雄は甘美かんびな声が……


 …そうか、騎士を好きなのか?…確かにメイドさんの娘たちはみんな騎士の物語ものがたりを好きだな…礼帽れいぼうに着いた勲章くんしょうはおっさんの功績こうせきをもの語っていた…信じてもよしでしょうか……そうだな、騎士なら信じよう…


「……世話になった、おっさん」


 扉はおっさんの手が触れた瞬間しゅんかんに光となって消散しょうさんした、ミスティック主義者しゅぎしゃの屋敷がこう々しい空気が……世界が一瞬静寂せいじゃくのように聞こえる、屋敷の冷気れいきが私の熱くなった思考回路しこうかいろ冷却れいきゃくしまして……でも光がまぶしくて、視界しかいがぼやけて…はっきり見えるのは銀の燭台しょくだい…と上層じょうそうにつながる階段…いえ俺……私はおっさんと、屋敷の中に……


 え……絵?盾と剣を持つ女の人…ぎんいろと綺麗な紋章もんしょうが盾の中央ちゅうおうに……


「…この絵を好きか?ルラア君」

「…分からない、盾が綺麗……」

「その通りだ。残念ですが今日は時間がありません。今度あった時絵のことを教えます、よいのかね?」

「もちろんでございます」

約束やくそくした…では前へ進みましょう」


 ……前は階段、上へ昇るのか?下へ降りるのか?…どうすればいいのか?


「ルラア君、この階段には特別とくべつなルールがあったのでね、普段通ふだんどおり歩くことでは前へ進めません。体を半周回転はんしゅうかいてんし、階段の螺旋らせんに沿って後退するのが正解せいかい。覚えたまえ、床などまぼろしに過ぎません、私達の目的地もくてきちは下の方だ、上ではありません。では、私を真似まねしながら行きましょう」

「…わかったわ」


 床をすり抜け?…できるの?でもおじ様がそういうのなら……階段の先は長い回廊かいろう壁紙かべがみが綺麗で…おじ様の言葉を聞いてどこまでも行ける……


「すまない、ルラア君。面倒めんどうな道をえらぶのも秘密ひみつのためでね…理解りかいできるのかな?」

「…はい、大丈夫だわ」

「ありがと、一緒いっしょに入場しよう」

「……」


 私たちはくさり障子しょうじを分け、会場に入った……

 暗い場所…覆面ふくめんの女性が二名、チンピラ風の男性が三名居た…ゲイなのかな?…私はおじ様のとなりに座りたい……


「おう、来たか、ブラザー!隣はおれさんかい?可愛いじゃないか」

「新しい恋人こいびとだろ~あーははは!!」

「こんばんは、みなさん。彼は私の一存いちぞんで連れてきた参加者さんかしゃです、迷惑めいわくをかけてすまない」

「王さんの一存なら、部外者ぶがいしゃの俺たちは口に出さないぜ。なぁ?レーディたちよ」

「まぁ~可愛い坊くんじゃない、来週らいしゅう一緒にお茶でもいかがかしら?」

「……」


 スタイルのいい姉さん二人いた…でもどう対応たいおうするのかわからない…とてつもなく…ねむい……


「はははっ…すまないね、ルラア君は少し内気うちき部分ぶぶんがあるのでな、仲間なかまとして入れて欲しい」

「ルラア君?いい名前じゃなぇか、気に入ったぜ!来いよ!今度綺麗な姉さんのところに行こうや、メールするわ」

「王さん、ちょうムカつくだけど、もうかえってもいいですか?」

同感どうかん最初さいしょからずっとイライラしたわ、あのとげとげ頭に…不愉快ふゆかいですわね」

「おう、帰れ帰れ!てめえらの香水こうすい俺様おれさまのゴージャスなセンスには合わないや、いなくなったらスッキリしたわ」

「申し訳ありません、皆さん。人数にんずうが足りないと『オークション』が成り立てません。今夜こんや目的もくてきを忘れてはいけません」

「お、オークションか。待ちすぎて忘れたところだわ。でぇじょうぶ、任せてくだせえ」

「ちぇ!こんなつまらない茶番ちゃばんに付き合ってたまるかよ。俺は『フリーズ』するぜ、人数さえそろえればいいだろう…悪いな……」


 何言ってるの?この人…おじ様の前にいながら……


「……大丈夫です。私達はいつも王さまの傍におともしますわ、ご遠慮えんりょなしに」

「ありがとう、みなさん。今すぐ始めよう、もう少しの辛抱しんぼうをお願いします」

「はーい~わっかりました。でもルラア君の傍に移籍いせきしまーす~こいつらに一秒いちびょうも耐えられなぁい」

名案めいあんだわ、じゃ私は左手ひだりての席へ……失礼しつれいしましたわね」

「よっしゃ!邪魔者じゃまものは消えたぜ。始まるか!王さん」

「くくく、商品しょうひんは男の手に落ちるか、それとも女の手に落ちるか…刮目かつもくの時というべきか」


 スタイルのいい姉さんたちが俺を…男から離れた場所へと誘導ゆうどうし……チンピラたちの言葉を聞こえなくなった…おじ様の声は『サウンド妨害ぼうがい』はない、助かった……香水のにおいが強烈きょうれつすぎて、眠りたくても眠れない……


諸君しょくん…今夜私のため集めてくれて、ありがとう。目的もくてき至極単純しごくたんじゅん、商品一つだけのオークションです。ただし、本当に商品を気に入った方だけが値段ねだんを出して欲しい。見ての通りルラア君は下町から来た若者わかものだ、あんまり彼を困らせないで欲しい」


 …オークション?…大丈夫、おじ様は私の味方みかたです。


「大丈夫だよー~ルラア君。どんどん値段ねだんを出して!足りない金はあたしが貸してあげるね」

「下街来ただなんて、可哀想かわいそうに…ルラア君は都市に似合にあう人なのに……」

「ご覧になりなさい!みなさん。商品はこちらです」


 商品は、黄金の銃…情報じょうほうは見えない……チンピラ男がおじ様と何かが…気になります。


「すまない、モッモトくん。商品の情報は持ち主の意見いけん尊重そんちょうし全部秘密にしておいた、買うかどうかは商品の外見がいけんだけで決めて欲しい……」

「だめだよ、ルラア君。この銃ブサくない、買うわけないっしょ?」

「私もきらいですわね、センス悪すぎたもの。やめよう、ルラア君」


 何言ってるの?…私が値段を出さないとおじ様は困るじゃない…だめだ、聞こえない。女の人が私の耳元みみもとあまい言葉をささやいておじ様の声も……


「おや、欲しい客はいないのかな?困るねえ、英雄になる機会きかいはすぐここに居たというのに。実に惜しいものだ、ルラア君はどう思うかな?」


 おじ様は来た!…やっと私を見っていた。


「ああ、ルラア君は英雄になりたいんだ?なら買うしかないっしょ、チャンスはチャンスだし」

「ごめんなさいね、てっきりあそびのために来たと思いまして……買うのですよ、ルラア君、このような機会きかい一年一回いちねんいっかいかも」


 ……そうだね、私は兵器へいきと英雄のためこの町に来たのですね。


「おじ様!…私は……」

「静かに…静かに!皆さん。ルラア君は言葉をしたいのです」

「……お金を出します」

「おーう!やはりルラア君か、君しかいないと思った!スタートラインは500万。さあ、君の数字すうじとなえたまえ!」

「500万…それしか持ってなくて……」

「わかった!では500万1っ回…2っ回…3っ回……落札らくさつ!これでオークションが成立せいりつした」

「おめでとう!これで英雄になった資格しかくを手に入れたね、ルー君」

「資格なんかじゃありません、明日からあなたは私の英雄ですわ、ルラア君」


 …そうだ、私は英雄になるんだ。そのためにここまで来た、それだけのために……


「誰が信じるのか、たった一回いっかい値付ねつけでこのような正式せいしきなオークションが成立することを……実に素晴すばらしい、宝物を手に入れた張本人ちょうほんにん有望ゆうぼうな若者。初めてです、星のような輝いた若者が私の生命せいめいの中にあらわれたことが、きっと彼は英雄になるでしょう……どうかね、ルラア君?今すぐ500万をわたしに口約束くちやくそくし、『神殺かみごろしの兵器へいき』を連れていくかね?」

「…口約束、どうしたらいいの?」

「私に譲渡じょうとすればいい、私の名前は王炎おうえん

「王炎さんに…私の全財産ぜんざいさん500万を譲渡します、承認しょうにんしてください……」

「あっ、パスワード入力するのね、私たち退避たいひした方がいいかも」

「…そうですね、でもゆっくり考えてもいいですわよ、ルラア君」


 美女が傍から離れた?……パスワードを入力しなきゃ、経済けいざいの8位パスワードを…私一人でも……


「……おめでとうございます。王炎さまへの譲渡、確かに成功せいこうしました。残念ですがこれであなたは一文銭いちもんせんなしになりました。でも心配はいりません、ルラアさまの力を持ってすれば、いつかきっと大富豪だいふごうになります。ではその時までまたお会いしましょう」


「よろしい、代償のあかし、確かに受け取った。ではルラア君、君だけのものを取って欲しい」

「ええ?王さん、俺様おれさまのビッグステージがこれで終了しゅうりょうだぁ?あっけないわー」

「ありがとう、モッモトくん、本当にたすかりました」

「なぁに、問題もんだいないって……じゃ行くぜ!お前ら」

「行ってくるのね~ル、ラ、ア、君~」

「では、私達も行きますわね。サヨナラ、王さま…ルラア君もさそってきてね、きっとこたえて見せますから……」


 応える?……わからない。私は銃を手に入れたの?英雄になったの?……


「ルラア君、みんな去ってしまったね」

「…はい」

「どうかね、時計とけいはもう遅い。私の伝送陣てんそうじんおくってやろうか?」

「…伝送陣?」

「いいものです。私の気に入りの宿やど直行ちょっこうします」

「…わかったわ、おじ様の言う通りにします」

「よろしい、ではこちらへ…」


 …また暗い廊下ろうかに戻った。でも大丈夫、おじ様は私のお星さまなの…黄金の銃もきっと私の背中せなかに輝いていた……


「…ここだよ、ルラア君、はいりたまえ」

「…はい」

「今日は本当にありがとう、ルラア君。またお会ことを心から祈りましょう」

「…はい、かならず」


 光の粒子りゅうしが目の前に……どうした?体は見える数字の破片はへんへと変換へんかんしていく…ようやく頭がえた、でもこれは明らかにいままでの転送とは違うぞ!俺をどこへ?って……

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