エル・エスを制覇する…第二歩?

用語解説


黄金の石英せきえい一年一度いちねんいちど各個かっこ大陸の地下に出現した希少きしょうな素材。出現してから7日間回収できないと自然消滅しぜんしょうめつする。


荒稼あらかせぎ:ゲームの貨幣かへいサフランを稼いで、リアル世界でドルを大量換金たいりょうかんきんしたプレーヤーへの蔑称べっしょう。実際、彼らの働きぶりはゲーム世界の経済へ大きく貢献こうけんしていた。


同行どうこう:他のプレーヤーと一時的いちじてきにパーティーを組む状態、自分の情報を最低限に公開こうかいする必要がある。同行の最大時限は100時間。


ペナルティ:正確の方法を分からない上で、金銭、権限けんげん、情報を求めた結果、場合によって手に入れることもある。ただし、その後は大きなばつを受ける。


内容をお楽しみに



「…今こうして見ると、君は私がもとつづけた光かもしれないな」


俺とジェントルマン風のおっさんがモザイク柄のテーブルをかこんで水を飲み、街のことを話し、酒友さけとも未満みまん水友みずともになった…で、いきなり気持ち悪いことを言ってどういうつもりだ!?


「やめろ!おっさん。俺はゲイの趣味しゅみはねえ!」

「そうか、誤解ごかいまねいたのか。私はただ感謝の気持ちを伝えたいだけだけどね。私のさそいを受けて、ありがと」

「その言い方が気持ち悪いというんだよ!」

「わかった。じゃ話題わだいを変えよう…君の名前を聞いてもよろしいのかね?」

「そういえばご店主の名前も知ってたな、あんた。おっさんはここの常連じょうれんか?」

「いえ、今日は丁度二度目、マーヤさんの名を知るのは初めて来た時だ。私は初めて会う人の名前を聞く習慣しゅうかんがあります、もちろん気にいらないと拒否きょひしてもかまいません」

暑苦あつくるしい習慣です。俺の名前はルラア、よろしく」

「ありがと!ではこれからルラア君と呼んでもいいのかな?」

「あ、もちろんだ」


なんだ、自分の名前を教えないつもりか、あやしいやつだ。


「ルラア君、早速さっそくですがきみは神を信じない理由りゆうを教えてもらえるのかな?」

「そんな罰当ばちあたりなことはしていない、俺はただ文芸の神を信じないと言った」

「そうか、私のはやとちりか!気にさわることを言って悪かった、ゆるして欲しい…それで君はどこの神を信じるのかな?」

「俺だけの神」

うちなる神の意味、と?」

「そうだ、唯一神ゆいいつかみでもある」

素晴すばらしい!君のような若者わかものが少ない、少な過ぎた!…しかし、何故君はすべての神を否定ひていしないのかな?その方がもっとらくになったはずだ、私はずっとこの問題を抱いたのだ」

「決まっている。大英雄になりたいからだ!」

「つまり神を信じない人は英雄になる資格しかくがない、と?」

「…なにを、何のバカなことを言っている!神が俺をもっとも偉大いだいな英雄にする、それ以外のみちが居るのかよ!?」


なんなんだこいつ?先からずっと俺をあおって…そろそろ頭にきたぞ。


「そうか、よく言った!この答えは真実しんじつの一つに違いない。そのとしでそこまでたどり着けるとは…気に入った、気に入ったぞ!ぜひ君のちからになりたい」

「……なんの力だ?」

「英雄になる力だよ。それ以外君は何も必要ない、違うかね?」

「ふん、すまないが探していたのは物だ、人ではない」

「持っていたよ、君が探していた物が」

「……悪いが初対面しょたいめんの人には信用しんようできない、えんがあったらまた話しかけてくれ」


あれ?もしかして運勢うんせいが俺にかたむいた?…こいつ、どこまで知ってるのか、ためしてもらおうか…


「この機をのがしてはならないぞ、ルラア君。を持っていたのは人だ、神ではない」

「なら問う、刃の名は?」

神殺かみごろしの道具どうぐ

「その飛び道具はなんだ?」

「『黄金の石英せきえい』から造形ぞうけいした道具」

何処どこで手に入れる?」

大都市だいとしのオークション」

「どの値段ねだんで手に入れる?」

「場合による、最低さいていでも500万」


…500万サー、俺の全財産ぜんざいさん大抵たいてい情報じょうほうはあっている、ただ値段の方はわからない。500万は大金、でもとどけるかどうか……


「わかった、あんたを信じる。どう助けるつもりだ?」

「オークションへの案内役あんないやく

入場にゅうじょう条件じょうけんは?」

「知り合いの『同行どうこう』」

「時間は?」

今夜こんや

「何だと?こっちは早朝そうちょう3時だぞ」

「そうか、私は深夜しんや2時、案外あんがい近い地域ちいきに住んでいるかもしれんな」

「ふん、おっさんは閑人ひまじんだな」

「いいえ、オークションのためです、普段ふだんならもうオフした時間だよ。ルラア君の場合はどうかね、徹夜てつやが多いのかね?」

「ああ。でも勘違かんちがいすんな、俺は荒稼あらかせぎじゃないからな」

「はっハハ、英雄が『荒稼ぎ』か、冗談じょうだんとしては悪くない…ではまいろうか?今行けばギリギリ間に合う」

「もちろん行く、言われなくても…」


俺は残した水を一気にし…このおっさんは絶対ぜったい怪しい、ビギナーズラックの可能性かのうせいも低い、とにかく行って確かめるだけだ。


「ありがとう、ルラア君、約束やくそくした通り同行は私がつとめます…マーヤさん、前払まいばらいの金は足りるのかな?ガラスびん水4本になります」

「アイ、あまってるよ、王さん」

「それはよかった。ではルラア君と一緒いっしょに失礼します、今夜の招待しょうたい、ありがとう」

「行ってらっしゃい、王さん、縁があればまたお会いしましょう」

「はい、縁があればきっと」

「じゃ行ってくる!ご店主」

「アイ、お大事に、若き客人。今度来た時額の半分はんぶんおまけします」

「あっ、勘弁かんべんしてください」


半分おまけでもまだ激高げきたかだろう、ご婦人…でもこのまぼろしのガラスショップはすごい、気に入った!そばにおっさんがいなければちょう褒めやりたい。


「こちらへ、ルラア君」

「ああ、案内頼む……」


ジェントルマン風なおっさんの後につけ、店から少し離れた駐車場ちゅしゃじょうに入った。今頃いまごろまだ地上駐車場に使用するとはめずらしい、車の方も時代遅じだいおくれのやつが多い。おっさんの二輪車にりんしゃがそこまでふるくはないが、カラーリングと装飾そうしょくのあたりがビンテージすぎだろ…俺とおっさんは彼の骨董品こっとうひんカーに入って、せきに着き目と目が対峙たいじしたポジションを取った。


「いやー~本当にさしぶりですなぁ。いつも綺麗きれいな女性が向こうで座っていたのでね」

「ち、キモイ野郎やろうだな、あんた」

「なんと!まさかルラア君は女性じゃなく、男性の方に趣味があるとは…」

「だまれ!俺はゲイをだいいいいい…嫌いだああああああ!!!」

「そうか、私の勘違いに過ぎないのか、すまない…そういえば下街では地下ちかの駐車場がいると聞いたのだが、それは本当かな?」

一杯いっぱいいる、動物どうぶつは地下1階、カーは地下2階、それ以下は立ち入り禁止きんし

「やはりそうか、エル・エスには場所が広いのでね、地下駐車場の方が珍しいよ、はっハハハ」


ふん、ドアホが、地上にいた方が余程よほど意味不明つうの…俺はおっさんを無視むしし、頭を半周回転はんしゅうかいてんしてガラスショップの去る姿を覚えた。こうした間カーも勝手かってに動いている、このオートパイロットシステムはハイテクで高い、おおよそ300万サーをかかる…このおっさんは金持ちなら、オークションの話も一層信憑性しんぴょうせいが上がる……


「…気にさわる言葉を使ったのならあやまるよ、ルラア君。どうかね?マーヤさんの店とわかれていたのかな?」

「ああ、また来るとの約束を交わしたところだ」

「むう、ロマンだが難しい約束をしたねえ」

「難しい?なぜだ?もう一度来ただけの話だろ」

「それが難しいところだよ、ルラア君。この街には誘惑ゆうわくがあまりにも多すぎた、人はすぐ昨日のことをわすれるのでね」

「ちっ、くだらない。俺はすべてを記憶きおくする!この目で見たすべてを」

「もちろんさ、君はやりたいことをやればいいんだよ、ルラア君、ここは自由な街だ…でも誘惑は誘惑、意識いしきとは関係ない、否定する必要はないじゃないかな?」

「あたりまえだ、金さえあればな……」

「どうかね、ルラア君?今困ったような表情を作っていたのだよ」

「まあな、持っていた金が足りないと思った…」

「なんだ、そのことか。周りの人から借ればいいだけのことを…はっハハ、心配しんぱいしてそんしたよ」

「なに?金を借りるだと!」

「そうだよ、下街の事情じじょうはしらないが、ここではよくあることだ」

「……考えておく、別に絶対足りないわけじゃないだからな!」

「問題ありません、借りたい時は私に声をかければいい。下街のことをもう忘れたまえ、君は今世界の中心ちゅうしんにいたのだよ」


なんだよ、下町、下町って…悪いのかよ!?ちくしょう!…俺は沈黙ちんもくに落ちった、自分の出身しゅっしん財布さいふさびしさに劣等感れっとうかんを感じたのか、わからない。ただ目を閉じたいだけになった…車も俺の頭と同調どうちょう右往左往うおうさおうを始め、まるで俺の脳電波のうでんぱ受信じゅしんしたみたいだ…ちなみにこの二輪車にりんしゃはいくらかたむきでも倒れはしない、達磨だるまと似た性質せいしつを持っている。およそ2年前この世界にデビューしてからすぐ大人気商品だいにんきしょうひんになった。


……止まった?ついたのか…そういえば先この車は路地裏ろじうらを走ったのだな、ここの道は交通信号こうつうしんごうもないのか?


「…ここだよ、ルラア君。私は降りるつもりだが、君はどうかな?」

「降りるって決まっておろうが!なにバカなことを聞いてんだ」

「あっハハハ、君がぼうっとしていると見てね、ジョークでもしたくなった…さあ、参りましょう、私の会場かいじょうへ」


ビンテージの二輪車は勝手かってに動き出し、俺たちを残して駐車場ちゅしゃじょうでも行った。ちなみに俺の駿馬しゅんめは『魔法動物まほうどうぶつ』だから、オートパイロットは不要だ…会場はどこだ?


「ついてきたまえ、ルラア君。その先の立派りっぱ鉄格子てつごうしの扉は私の屋敷やしきだ」

「ああ…」


確かにいい扉だ、俺の視力しりょくから見れば一目瞭然いちもくりょうぜん…でも場所が高い、階段も多すぎ…もったいぶった野郎だな。


……鉄檻てつおりの大扉、周りは赤い煉瓦れんがの壁、先のビンテージカーと似たセンス、ここはおっさんの住処に間違いないな…でも執事しつじ姿のやからまでもいるとはな、会場という目的地もくてきちはけっこう正式せいしきな場所らしい。


「こんばんは、ハンス君、入場にゅうじょうの時間です。さあ、私の道を開きたまえ」

「入場、でございますか?王さま」

「いかにも、この若者は私と同行どうこうなか、何か不都合ふつごうでもあるのかな?」

「……もちろんございません。今扉を開けるので、少々お待ちを…」

「ご苦労くろう…」


言ったそばからハンスという奴が鉄のロックを開錠かいじょうし、歓迎かんげいの礼を作った…こいつ、NPCのくせに俺を警戒けいかいしていやがる。怪しい、NPCを名前で呼ぶおっさんの方がもっと怪しい…

でも怪しい連中れんちゅうをさて置き、中の屋敷だけは立派りっぱだった、夜の光に照らしてなお美しい…おっさんはこのような場所を慣れている、足取りから自信じしんが溢れ、背筋せすじが真っ直ぐで、黒い礼帽れいぼうを被って、正式な場所を出入りにはその姿と姿勢しせいが必要だ。俺も帽子を用意よういすれば良かった……


「な、おっさん。同行どうこうしなくてもいいのか?いちおうかり身分証明みぶんしょうめいでも必要だろう」

「いえ、そんな形式的けいしきてきなものはいりません、ここは自由の都市です。ただ、他にやってもらえたいことはある」

「どんなことだ?なんでもするとは言わないぞ」


おっさんは門前もんぜんで立ち止まり、帽子を脱ぎ捨てひたいあらわした。俺は考えまでもない警戒信号けいかいしんごを灯した。


「君にちかって欲しい、私たちの秘密ひみつを守るための約束、魔法の盟約めいやくを…」

「悪いがことわる。魔法に関してはけっこう自信じしんがあーる!簡単に誓うことはできない」

「うむ、そうだな、一理いちりあるがこま状況じょうきょうになったのも確かだ」

「悪い、他に入場する方法は?」

「ここで自分の神をあきらめ、文芸の神さまへ敬虔けいけんうつしたことに納得なっとくできるのなら。なんとかなるかもしれないが?」

「ふざけてるのか、てめえ!ぶんなぐるぞ!」

「むー、やはりダメか…それなら一番いちばんリスク大きい方法をためすしかないな」

「どんな方法だ?言っとくけど俺を試す必要はない、『ペナルティ』なんざ覚悟かくごの上だからな」

「わかった。方法は簡単、私の一存いちぞんで君を中へ入れておく。ただし問題が起こした場合、私だけが大きなペナルティを受ける。要するに保証人ほしょうにんのような役割やくわりだ」

「そうか、わかった。悪い、おっさん、世話せわになった、じゃな…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る