エル・エスを制覇する…第一歩!

 用語解説


 蛍光けいこう:石の素、もしくは魔法の塵のような小さな欠片が外からの光を吸収きゅうしゅうし、違う色の光を放出ほうしゅつする。この射出された光のたばは蛍光。


 魔術師の帽子:黒い、高い、つば広い帽子。もう一つの特徴とくちょうは深いバイオレットのリボン。文芸の神の三つの象徴しょうちょうの一つ、聖女派せいじょはの信者はこの帽子をシンボルとして身につける。


 マンダラゲ:いつもうなだれていた花、エンゼルストランペットの異名いめいを持つ。文芸の神の信者の一部はこの花をシンボルとして使っている。


 飛行機:エル・エスの人が飛行機を言う時、必ずつばさのない機械のことを指す。また、飛行愛好者は自分のマシンを飛行器と呼ぶことが多い。


 大樹の血液:世界最古の樹の血液は場所によって赤、青、緑、三つの色が存在する。血液は樹の命を維持いじするだけじゃなく、樹の住人じゅうにんたちの体へも大きな影響えいきょうを与える。


 ほどこしの泉:聖女の住処すみかを出で、東へ300メートル先にあった噴水ふんすい、大きさは半径10メートル。ここの水は信仰と関係なく誰でも飲むことができる。


 内容をお楽しみに



 俺は今、文化ぶんか経済けいざい中心ちゅうしん―エル・エスの街に歩いていた。昔、大英雄エル・エスが己の全てを燃焼ねんしょうして作った都市、自分の名前なまえさえこの地にゆずった…もう六十年以上の昔話むかしばなし、中に色々な歴史れきし陰謀いんぼうが混ざったみたいで、詳しいまでは知らない、俺は歴史に大した興味きょうみがない。エル・エス本人に興味があるけど、あくまで俺の目標もくひょうとしての話、彼を崇拝すうはいするわけじゃない。俺は神を信じるけど、アイドルを信じない、アイドルは神の代わりにもならない。


 しかし、何というか…世界一せかいいちの街は俺の想像そうぞうした画像がぞうとは全然違う、几帳面きちょうめんなスカイスクレイパーはまだ一軒いっけんも見つからず…ただただうつくしくて、一目からずっと見とれたままの美しさ。男と女の彫刻ちょうこく、ビル全体に覆う落書らくがきの、テラスから身を乗り出し俺を見下ろした美女びじょ…空に飾ったのは『蛍光けいこう』を放つ虹色にじいろの星、どうやら蛍光はこの古い樹の光源こうげんだったらしい。

 俺はかぞえ切れない程の美女と星を背景はいけいとして、一人で夜のハビーラを観光かんこうした。最初はビンテージのエリア、次はモダンな区画くか…俺を引き寄せるいい雰囲気ふんいきな女性がないため、足が止まることもなかった……


「きゃ…」

「あっ!……君は?」


 しまった!人をぶつかったのか?…ずっと2階の美女と目が合ったせいだ…俺はまだまだ未熟みじゅくだな。


「すみません!大丈夫ですか?」

「…いいえ、私は人を探しています」


 人探ひとさがし?尻餅しりもちをついた人の発言はつげん似合にあわないな…でも、この人も凄く綺麗だ…悪いことをした。


「すみません。俺の方がずっとレベルが高いみたいで…立てますか?お詫びさせてください」

「いいえ、詫びは要りません。あなたは私が探している方かもしれない…」


 彼女は立った、服装の色と柄は素朴そぼだが、決して安いものじゃない。怪我はないみたいで、安心した。


「いいえ。俺は初めてこの街に来た風来坊ふうらいぼうです、探されることはないでしょう」

「初めて?関係ないかもしれませんね。私が探していたのは神の信者しんじゃですから」

「ごめんなさい。俺が信じる神はあなたの神ではありません」

「そうでしたか。残念ざんねんでした、またお会いことを祈りましょう」

「さよなら」


 彼女は去った、ローブの背後はいごには『魔術師まじゅつしの帽子』《ぼうし》が描かれた…やはり文芸の神の信者か、綺麗な人だな…


 小さな出会いの後、俺は次の場所へと邁進した…お、これはぴんときた!『マンダラゲ』の外見をした街燈がいとう、俺は似ていたモデルを持っている。石建いしだての、ミステリー風な一軒家が俺は包囲ほういされた、その石の壁はとても儚げに見える……夜の散歩もそろそろ終えるか。


 先の街はにぎやかだけど、外を歩いていた人が少ない。みんな露天ろてんのテーブルをかこんで言葉を交わし、立派りっぱな建物の中に隠れてカーテンの隙間すきまから俺を観察かんさつし、ガーデンの植物しょくぶつに寄り添って悩み事を思考しこうし……みんな自分以外じぶんいがいのことを気にしている、まず彼らをまなび必要があった、俺はまだこの街について何も知らないから。それに俺の服装ふくそうはここの人と差別さべつがあって、このまま街頭がいとうに回すのも目立つ一方、建物の中に隠すべし!


 ……正直しょうじきに言うと、俺はやはりその街燈を気にいった。ぜひこの店を見てみたい!


「すみません、ご店主、勝手かってに入っても大丈夫ですか?」

「もちろん。いらっしゃい、わか客人きゃくじんさん」


 店主てんしゅはミステリーな格好かっこうをしていた女性です。けむりを立てたイヤリングとガラスの仮面かめんにつけた、プロポーションは小太こふとりけど、年を取ったせいだろう。あっ、相手が芸術品げいじゅつひんの仮面をつけたので、語気ごきの中に敬意けいい勝手かってに入って来た。


「すみません、初めてこの街に来たのです。わからない場所が沢山たくさんあって、失礼なところにはお許しください」

「いいえ、好きなせきを選んで座ってください」


 店内てんないせまいだが、客人が俺一人なので広くのつもりで使える、居心地いここちがいい。


「『飛行機ひこうき』を乗って来たのですか?客人さん」

「いえ、ラクダを乗って来たのです。でもラクダ1号を死なせた…悲しいです」

「そうですか、優しい方ですね、お客さん。きっとゲイをお嫌いでしょう」

「えええ!どうして分かるの?」

「ま、お客さんは結構可愛かわいい方なので、そうだったと思ったよ」

「その通りだ!ご店主。俺はゲイを、大、大、大嫌いだ!!!」

「うふふ…ま、そう言わずに水を飲んだらどうですか?」

「あ、いいですか?じゃあいただきます」

「……はい、どうぞし上がれ」


 店主は陳列棚ちんれつだなからガラスボトルを一つ取り上げ、石のトレーに載せて俺の前に置いた。ボトルは赤い色のガラス、信じられない…俺は今までこんなに綺麗きれいなガラスを見たことは一度もない。宝石ほうせきよりも透き通った、柔らかい光をまといながら緋色ひいろかがやきが舞い散る、その輝は実態じったいがあった、ちりより少しでかい粒子りゅうし、触れると微熱びねつが手のひらを焼く。


「ご店主、このボトルは間違まちがいなく傾城けいせいです。でも中には水が見えません、飲めることはできません」

「ありがと、でもそう言わずに飲んでごらん」


 コップがない、ガラス瓶と口付くちつけでも文句もんくないよな……あった!味があわいけど、内容は複雑ふくざつ、レモンの香り、シュワシュワなバブル、草の生臭なまくさい、とても美味い…やはりこのご婦人ふじんのことを信用しんようできる。


「…お客さん、ガラス瓶と口付けの感想かんそうはどうですか?」

「はい、おっしゃる通りです。本当に水がいて、冷たくて美味しい。でもなぜ見えないのですか?」

「うふふ。さあ、ガラス細工さいくにかけた魔法かしら」

「あっ、わかった、この店はガラス屋ですね?ここまで精緻せいちなガラスを見たのは生まれて初めてです」

「ええ、それは大好きですよ、この陳列棚ちんれつだなに置いた瓶はほんの一部いちぶだけ…えんがあれば6月の時また来ておくれ、この街で展覧会てんらんかい予定よていがあります」

「わかった、6月ですね…でもこのトレーは石だな?ご店主てんしゅ

「はい、石は私の出身しゅっしん、ガラスは私の趣味しゅみ、ガラスもまた石から生み出すもの、ただそれだけなこと」

「はい、勉強べんきょうになりました。そういえば、この水は植物しょくぶつから汲んだものですか?」

「ええ、『大樹の血液けつえき』を色だけ破壊はかいした後の」

「なるほど、水の正体しょうたいは色のない。これは命を支えるものだな」

「アイ、大樹の血液が800種類しゅるい野菜やさいを支えたのですよ」

「800種類!?」

「アイ、本当に不思議ふしぎな樹。私の第二の故郷こきょうですよ、ここは…お客さんは料理を好きなのですか?」

「はい、何でもできますよ!俺、タレントですから」

「やっぱり、そうだと思った、うらやましいお方」

「でもここの街、本当に綺麗です、ぜひ高い場所から見てみたい」

「それなら、空に上がればいいのでは。私は行ったことはないのですが、聞いたことはあります」

「え?空に歩いての意味?飛翔ひしょうじゃなく」

「はい、空も樹の一部いちぶですから」


「空かぁ…それはそれは美しくて天国てんごくみたいな場所だよ、少年しょうねん。ねえ、聞きたいかにゃ?」

「おっ、びっくりした…」


 いつの間にか猫娘ねこむすめが俺たちの会話かいわに混じった。背がとても低い、猫の部分はその髪型かみがたと猫のつめ手袋てぶくろ、とそのわざとらしい接尾語せつびご。 


「ふふー~吾輩わがはい花旅はなたび物語ものがたり…聞きたいだにゃ?」

「いや、自分の目で確かめに行くつもりです。問題ありません」

「わかった、少年はツンデレかにゃ…ツンデレはいけないなぁ……」

「彼はいい子ですよ、小さなレディちゃん」

「こんばんにゃ~おばさん。水の大盛おおもりでお願いしまーす!」

「はいよ、少々待っておくれ」


 反論はんろんする前に、彼女が持ち出したガラス瓶に目をうばわれた…俺の瓶と同じ色で、でも輝は何倍なんばいも増す。きっとここの工芸品こうげいひんに違いない……でも、何故その形の手袋でガラス瓶を持ち上げることができるのか?…なぞだな。


「これからどうするつもりかにゃ?少年。吾輩が案内あんないしようか?」

「大丈夫です。俺には目的もくてきがあります」

「そうか。道理どうりでプレッシャーを感じたかにゃ…」


 え?俺の肩にマッサージを……この猫の爪、本当に器用きようだな。


「目的を忘れてはいけないけど、緊張きんちょうすぎるのもいけないだぞ…」

「あ…ありがと……」


「お待たせ。大盛りに入れたよ、小さなレディちゃん」

「…おう、来たかにゃ。2500さーでいいかにゃ?」

「アイ、毎度まいどあり」


 2500?……信じたくはないけど、これはたぶん水の値段ねだん…どうする!?ルラア。


「…ありがと~おばさん。金は今度こんどでいいかにゃ?」

「もちろん」

「じゃ行ってくるにゃ~友達が待っていたので…」

「さよなら……」


 あに!?金を今度でもいいのか…これを突破口とっぱこうとしてディスカウントを要求ようきゅうする!


「…少年もばいばい~目的を頑張がんばってにゃ~」

「ああ、俺もそろそろさよならの時だ」

「…どうですか、お客さん。会計かいけいしますか?」

「そのつもりです、金は今度でいいですか?」

「それは常連さんへのサービスです」

「新入りと常連を区別くべつするのか?」

「アイ……」


 店主は俺から離れ、カウンターの下から樹の枝を持ち出し、ガラスナイフで新しいきずきざんだ。ガラスナイフは魔術まじゅつのようにいつの間にかもう彼女の右手でにぎられて、枝の傷は総計そうけい10箇所かしょ


「彼女は大方毎日おおがたまいにちうちに来た常連さんです。この枝は彼女の会計、機嫌きげんがよい時は支払しはらいます、約束やくそくやぶることは一度もありません」

「…俺の枝はありません」

「アイ」

「……わかりました、会計お願い」

「水一本は500さーです」

たかいです」

「ごめんなさい。この街にはこういう値段ねだんです」

「それじゃあ、水を飲むだけで貧乏びんぼうになりますよ?」

「そうかしら?水に困った方は『ほどこしのいずみ』に行くと思います」

「施し…何かの信仰しんこうか?」

「はい、文芸の神さまの施しです」

「文芸の神…やはりここにはこの神が流行はやっていた」


「流行っていたとは正解せいかい。ただし信じるかどうかは別の問題と認識にんしきすべきじゃないかな?」

「…誰だ!声が見えない場所から流れて来る?」


 いきなり暑苦あつくるしい紳士しんしの声が伝わってきた……上!一人の男がちゅうに浮いたようにゆっくりと降りてくる、あそこに階段があったことは全然気付きなかった…おかしいぞ、この店は2階でもあるのかよ?外から見れば1階建かいたて、間違いなく…わかった!1階はガラスの錯覚さっかく利用りようした、実は地面より低い、2階へ空間をまわすために。


「すまない、青年せいねん、盗み聞きような真似まねをした。丁度帰るつもりだが、文芸の神の話を聞いて黙っていられないのでね。結果として無礼ぶれい真似まねをした、謝罪しゃざいする」

「いえ、大丈夫です。俺、文芸の神を信じないから」

「あらあら、信者しんじゃの私を悲しませる言葉をおっしゃる」

「マーヤさんの気持きもちちがわかります。でも彼の発言はつげんは問題ありません、ここは自由じゆうの都市です」

「す、すみません、ご店主。俺、いつも無鉄砲むてっぽうで…」

「大丈夫、お客さんらしいと思います」

興味深きょうみぶかい話です、青年。良かったら水一杯みずいっぱい奢ってやりたい、いかが?」

「いいことを言った!おっさん。ここの水が高すぎ!丁度この水半分はんぶんしか飲んでいません、半額はんがくでいかがですか?ご店主」

「む、困ったお客さんだね。飲まれた水はもう売れないだよ」

「そういわずにはじめにきた客人にサービスしようよ、な?」

「そうか!君は初めて来たのか、なら問題ない。私はこの街にもう10年在住ざいじゅうした、初めての旅人に1びんや2びんをおごるのも当たり前のことだ」

「ま、王さんがそういうのならおごってやりましょうか、お客さん」

「王さんがね……」


 まだ迷ったところ、ご婦人が新しい水を2瓶開けた。ガラス瓶を封じたのはスカートのすそみたいなフイルム、このフイルムもガラスだ。そしてご婦人は俺たちから離れ、たなのガラスを拭き始めた…俺の邪魔じゃまをしないように気を使ったのだ。


「すまないね、君。不本意ふほんいながら強引ごういんなシチュエーションを作った。しかし先の話をぜひ聞きたいものだ」

「…わかった、付き合う」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る