エル・エスへ行く…邪魔をするな

 用語解説


 SOS信号しんごう未知みちな地図で遭難そうなんする時、このアイコンを点灯てんとうできる。半径はんけい5km以内のプレーヤーはSOSを気付きづき、たすけが来る。


 幻覚げんかく:ゲーム世界の幻覚は全て催眠系統さいみんけいとうの魔法によるもの、大砂海だいさかいにはとりわけ幻覚の地図が多い。


 モンスター:むかしのゲームからパクリしたもの、種類しゅるいが多い。戦うと、普通ふつう面白おもしろい。


 法外地域ほうがいちいき:ここのゲーム履歴りれき映像えいぞうたいし、プレーヤーにはチェックする権限けんげんがない。つまりここで発生はっせいした強奪ごうだつ類似るいじな事件は証拠映像しょうこえいぞうのこさない。


 いん一寸いっすんの虫にも五分ごふんの魂、いんはプレーヤーと悪魔の存在そんざいあかし。どんな弱い奴の印でも、決して破壊はかいされることはない。


 個人空間こじんくうかん:メモリーカードにたもの、ただ保存ほぞんされたデータは実態化じったいかできる。スペースはかぎられている、拡張かくちょうには相当そうとうな金が必要。


 内容をお楽しみに。



 ……

 あははははははは!!!…え?これは俺のわらごえなのか?


「いいぞ、いいぞ、ラクダ1号!ここまま走り続けろ!一緒いっしょ砂漠さばく征服せいふくしていくぞおおお!!」


 暴走ぼうそうしていたのはラクダじゃない、この俺?……でも気分きぶんがいい、砂の海はもうたおした、小さい時の夢がかなった。俺は地図だけじゃない、魔法の才能さいのうも…っ!


 なんだ!?目が真っぎゃくに…ラクダ1号はどこだ?


 …あ、なんだ、事故じこか。本物ほんもの修羅場しゅらばくぐけた俺はこの程度ていどの事故にあわてはずがなく、周りの風をラフに計算けいさんし、あやつって、ダメージを最小限さいしょうげんおさえた同時に着地ちゃくち、決めポーズを取った。大事なのは方向ほうこう計算けいさん、方向さえ合ってすれば、魔法の加減かげん大差たいさない……そういえば、ラクダはどこだ?


 ああ~あそこか!よこたわっていて、もしかして死んだ?カッコ悪いなー、ラクダよ。待ってね、身体検査してやる……


 よし、身体検査しんたいけんさっと…黒い目玉めだま光沢こうたくなし。パーツ、無欠むけつ。左側の前足まえあし骨折こっせつしたがまだつながっている。よだれ、血がぜっている。涎?なるほど、ラクダって結構きたない動物どうぶつだな……


 結論けつろん死亡しぼう死因不明しいんふめい…そうかぁ~やはりラクダを千里馬ちょんりまのように走らせるには無理むりがあったのか~…これじゃ仕方しかたないなぁ~成仏じょうぶつしてください。


 これからどうする?他のやつのたすけはいらないだろう。俺はもうここをせいした、つまりどうやっても勝つのは俺だ、適当てきとうに歩けば抜けるさ。


 ……なんで俺は徒歩とほで砂漠に歩いていたのかい?ばっかじゃない?…『SOS信号』を点灯てんとうすべきだ、打開策だかいさくはなんだ?俺は何をしている?


 ……何なんだこの果てのない砂原すなはら!俺をむつもりか?苛烈かれつな自然の分際ぶんざいで!…違う!ここまでめられた原因げんいんは俺が調子ちょうしに乗ってラクダへ過剰かじょうなMPを注入ちゅうにゅうしてから死なせたことじゃない!この砂原が俺と敵対てきたいすることが根本的こんぽんてきな原因なんだ!


「おい君、どうしたんだい?しっかりしたまえ」

「誰だ、貴様きさま!俺の才能を嫉妬しっとし、仕掛しかけるつもりか?かかってこい!俺がけるはずがない!このジャケット野郎やろうごときに!」

「……分かった、ではいくぞ!君」


 やるつもりか!…銃は、俺様おれさまの銃はどこだ?…ていうかこいつだれ


「なっ!待って、てめえ…俺の銃はまだ……なにこれ、あめ?」


 何だこいつの魔法?小さな雷雲らいうんを作って、人の頭の上に雨をらせた。なんだかとても…ねむい……


「じっとしてて…後は私にまかせてもらおう……」


 …………いつの間にか、俺はジャケット野郎やろうひざの上寝込ねこんでしまった……うおおお!気持きもち悪い!くたばりやがれ!


「くたばれ!!!この野郎」

「や、大袈裟おおげさだね、君…どうだい?正気しょうきに戻ったのかな?」

「てめえは何者なにものだ?そのヘンテコな姿と紳士的しんしてき口調くちょうは合わないぞ」

「やっぱり中身なかみは若い少年しょうねんか…まだ私のファッションを理解りかいできないみたいだね。私はジェントルマンだよ」


 この自称じしょうジェントルマンのヘンテコ野郎は異常いじょうにあやしい、モヒカンりとそでなしの黒いジャケット、テーマはドクロのがら胸元むねもとにぶら下がった銀飾ぎんしょくぎゃく十字架じゅうじか。ロックバンド浪人ろうにん外見がいけんしながら、口調くちょう紳士しんし的、たぶん趣味しゅみはあっちの方向ほうこう不味まずいな、あの膝枕ひざまくらはたぶん俺のことを……


「…で、その雷雲らいうんの魔法はなんだ?俺を助けるためか?」

「いかにも、気をつけた方がいいよ、君。このあたりは砂のよどみからあふれた魔力がい、このあつさに加えてよく『幻覚げんかく』を見たのね」

「そうか、幻覚だったのか…すまない、おんに着る」


 ちぇっ、かかわりたくないが、一応いちおう助けられた…少し相手あいていをしてやるか。


「いいさ、感謝かんしゃならこの衛星えいせいカメラ同等どうとう視力しりょくを感謝したまえ、2万メートルはなれても少年の姿を見逃みのがさない程にね。おほほほ~」

「別に…でも膝枕ひざまくらは気持ち悪すぎる、やめろ」

「なんだ、ジェントルマンのロマンを分からないのか。さびしいね…」

「そいつは悪かったな…そういえば、お前の足元あしもとの砂がながれているぞ?どういうことなんだ?」

「今さら気づいたのかい?ここは砂の海だ、何時でも流れていたのさ」

「もしかしてこの砂原すなはらには『モンスター』でも存在そんざいするのか?」

残念ざんねんだがそんなゴミはないよ…もっとやばい奴だ」

「なんだと!?」

「そう、気をつけたほうがいい、私は本気ほんきよ…でも君はラッキーだね、丁度ちょうど私がこの砂原の地図を持っていたのね。でないと君に発見はっけんすることも難しいかな」

「すごいぞ、こんな広い地図を持っていて。いつもこのあたりに飛んでいたのか?」

「そうそう、飛行愛好者ひこうあいこしゃだからね、私。プライベート飛行器ひこうきも持ってたよ、ほらあそこ、ごらんになって~」


 げっ、やっぱ飛行器はそのUFOみたいなやつか…やっぱこいつはやばい、早く口実こうじつを作って逃げろうぜ。


「UFOみたいだな、変哲へんてつ趣味しゅみのようだが、一応いちおう口を出さないとする。で、そいつに二人を入れるのか?」

「…いやぁー、ホント失礼しつれいね、君。あいにく一人しか乗らないものってね。どうする?ここで待つのなら助けを呼ぶに行くけど、おおよそ1時間かかるかな」

「いや、お前を信用しんようできない。仲間をれ、俺を強奪ごうだつしに来るかもしれない、ここは完全かんぜんな『法外地域ほうがいちいき』だからな」

「む……どうかな。君は下街から来たものに見えるけど、大した金は持たないと思うがね」

「金じゃなく俺目当おれめあてでもありだろ。洗脳せんのうして奴隷どれいとしてあつかうとか。お前ってゲイに見えるだろ?」

「うん、このせんはありあり~確か兄ちゃんは結構可愛い顔の持ち主だね、ゲイのこのみに似合にあいそう…どうする?私をって、飛行器ひこうきうばおうか?」

「なんだと!?その言葉をせ、俺はそんな下衆げす仕業しわざをやるわけがあるか!?今すぐ取り消せ!」


 こいつ!俺のこころざしを何一つ分かっていない…だからゲイをきらいだ、大嫌い!


「な!……なんだよ、いきなり大声おおごえ出して…撤回てっかいするわよ、悪かっ……」

「…おう、雨のことはありがとう、じゃな」

「待て!…助言じょげんくらいおくるよ、わびとして…ね?」

「聞いている」

「君はラクダを乗って来たのね、私から見れば彼を復活ふっかつしかないかな。他の通客つうきゃく期待きたいするのは難しいし、飛行器なら私が今日の最期さいごだと思う、この後砂嵐すなあらしがあったからね」

「砂嵐?空まで届くのか?地上ちじょうの人はどうなる?」

「ラクダがいれば大丈夫。でないとミイラ、になるかな」

「…でも他の奴は来るはずだ。俺たちは今エル・エスへの途中とちゅうじゃないのか?」

「忘れたの?君は幻覚げんかくを見ていたから、ここは最短さいたんルートからかなりはなれていた場所よ」

「そうか…君はこれからどうする?砂嵐に引っ張られ墜落ついらくしたのか?」

「私の飛行器はくもの上に行けるから、大丈夫だよ。全く、また失礼しつれいなことを言うね。そろそろ怒ってもいいのかな?」

「わかった、このラクダを復活ふっかつする。助言じょげんありがとう、じゃな」

「…ねぇ、君。もしミイラになったら、このメアドに連絡れんらくして、ひろって上げるから」

「わかった、サンキュー」


 メアドを俺の服にって、ヘンテコ野郎は去った。空へのぼっていくのは確かにつばさもプロペラもない円盤状えんばんじょう機械きかい…最近あっちの先端技術せんたんぎじゅつ輸入ゆにゅうしてくるマッドサイエンティストがどんどん増えていく、背後はいごにはきっと巨大な陰謀いんぼうが……ま、先ずはこっちの仕事しごとだ、24時間切れになったらわらばなしになるからな。


 でもあいつ、UFOのことにうそをついた。丁度いい、最初さいしょから一人でやるつもりだ。ラクダを死なせたのは俺だ、責任せきにんがある。


 先ずは水を生成せいせいし、補充ほじゅうする。先の幻覚げんかく水分すいぶんがマイナス数値すうちになったとも関係あるかもしれない。次は100の知力ちりょく活用かつようし、頭をフル回転かいてんさせ……よし、活動開始かつどうかいし


 ラクダの死体したいすでに5分以上存在そんざいした、つまりこいつは『印』がない、印のない生命せいめいは本当の復活ふっかつがない……選択せんたく1、偽物にせものの印をあたえ、ラクダを復活させる。多分この方法は死亡しぼうした対象たいしょうへは無効むこうかり有効ゆうこうとしても、ラクダ相手に貴重きちょうな偽物を浪費ろうひするわけもない…選択2、ラクダをなおして、奇跡きせきを待つ。骨折こっせつ血管けっかん破損はそん脳細胞のうさいぼう復旧ふっきゅうと、再生さいせい…やれることはもうすべて把握済はあくずみ、パーツさえ修復しゅうふくできれば後は命のをつけるだけ…


 よし、行くぞ!砂嵐すなあらしはもうあばはじめた、俺の身体機能しんたいきのうから計算けいさんすれば30分くらいはつ…赤外線せきがいせんスキャナーを装着そうちゃく内部ないぶスキャン、生体せいたいパーツの90%以上まだねつがある、タフな生き物だ。次は修復材料しゅうふくざいりょう準備じゅんび、『個人空間』からスーパータンパク質濃縮物のうしゅくぶつ、ビタミンパウダー、葡萄糖結晶物ぶどうとうけっしょうぶつ、イーストエクストラクションを取り出し、ラフな割合わりあいでグラスウェアの中でミックスし、水をそそぐ。超純水ちょうじゅんすい生成せいせい、俺に与えられた唯一の特権とっけん水専門みずせんもんの魔法使いから見れば造作ぞうさくもないことだが、俺はこの特権をとても感謝かんしゃしている。

 材料はすぐ溶解ようかいした。今日も感謝にささげる!超純水。溶液ようえき注射器ちゅうしゃきにロード、針をフィルターに装着そうちゃく、太い血管けっかんからして一気にぶち込む…注射器をそのまま残し、くことは許されない。


 …オッケー、ここまでは簡単かんたん。次は停止ていしした血液けつえき循環じゅんかんさせ、栄養えいよう破損箇所はそんかしょとどく。溶液の成分せいぶんはシンプルすぎたが、いま手元てもとゆるされた材料ざいりょうはこれしかない、スーパータンパク質濃縮物に命をけるしかない!…もう一度赤外線スキャナーにスイッチオン、ハイピクセルモードとえ、心臓しんぞうらしきものを照準しょうじゅん目的もくてきはこのポンプを人工的じんこうてき作動さどうすること……俺の方法ほうほう風系統かぜけいとうの魔法だけ、意識いしき集中しゅうちゅうするんだ!

 心臓内部しんぞうないぶ周辺しゅうへんわずかな空気くうき操作そうさし、ライフサイクルをシミュレーションするつもりで…イメージは、エアポンプと同じ……うごいた!栄養物質えいようぶっしつはマーキングされたから、その動きをはっきりととらえる…問題ない、血流けつりゅうの方向さえ正確せいかくすれば、加減かげんは大丈夫だ。


 ……およそ30分間、俺は賢者けんじゃなみの集中力しゅうちゅうりょく発揮はっきし続け、こまかい作業さぎょう維持いじした。やはり俺はまだ死んでいない、口の中もう砂が一杯いっぱいだけど、魔法の精度せいどは全然落ちていない。

 血管のあなはもうふさいだ、機体きたいが死んだ脳細胞のうさいぼう分解ぶんかいし大量の新しい奴をコピーして、骨折こっせつはさすがにまだいやせないが…予想以上よそういじょうに簡単、生物は簡単かんたんすればするほど生命力せいめいりょくが強い……でも命の火は戻ってこない、ラクダの目にはひかりがない。


 俺はやれることをやって、うちなる神をしんつづけ、神も俺のねがいをこたえてくれた。魔法は成功せいこうしたはず、でも奇跡きせきは起こらなかった……砂はもう周りのすべてを支配しはいした。俺の耳もふさがれて何もこえない、目視もくしできるのはラクダだけだ…みとめたくはないが、死はもう俺の目の前でせまってきた。


 …ここで死んだら、すぐ復活ふっかつ無理むりだ、入境許可にゅうきょうきょか時効じこうるだろう。またやりなおさなきゃならないのか、俺はこの砂の大地だいちぎた、だからやぶれた……でもあのモヒカン野郎はちがった、彼は俺の死を予見よけんしていた、それでも見殺みごろしにした。あのUFOのサイズは間違いなく二人以上乗れる。彼は……彼?そうか!中身なかみは女の人か!だから俺と閉鎖空間へいさくうかん同居どうきょしたくはなかった…俺もつくづく鈍感どんかんな奴だな、ここでラクダと心中しんちゅうするしか……


 ラクダは立った!?俺は何も考えずその浮上ふじょうした小山こやまいた、どういうことだ?


 ……まさかかえった?関係かんけいない、まずは自分の柔軟じゅうなんな体を利用りよう安全あんぜん体位たいいまで調整ちょうせいする、考えことはその後だ。


 …声を聞いた、みみの中の砂はこぼれちていく…砂嵐もおそってこない、ラクダはまた走り始めた…もう大丈夫だ。


 目的地もくてきちは一つのみ、こいつはエル・エスとオアシス以外の場所によしもない、安心あんしんできる。

 …ま、まだ時間かかりそうだが、少しやすもう。

 …………

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