エル・エスへ行く…予定通り

 入境許可にゅうきょうきょか世界最古せかいさいこの樹の領域りょういきに入る時必要とした文書ぶんしょ、電子バージョンはみなコピー、オリジナルは……


 エル・エス:世界最古の樹に位置する都市とし、ゲーム世界の経済中心けいざいちゅうしん。何故かこの街には冒険者のコミュニティはない。


 下町したまち初心者しょしんしゃ情報交換じょうほうこうかん、トレード、冒険者志願しがんなどに使われた場所。もう一つの特徴とくちょうは必ず大砂海だいさかいへの転送陣てんそうじんがあること。下街はエル・エスの市民しみんが使用した錯語さくご


 MP:魔法の習得しゅうとく発動はつどうのための数値すうち。プレーヤー以外いがい、物にもMPをめる、性質せいしつは同じ。MPの成長せいちょうは色んな手がある。


 魔法動物まほうどうぶつ:MPを注入した後、行動こうどう劇的げきてき変化へんか発生はっせいした生物せいぶつ種類しゅるいが多い、その一部いちぶがよくモンスターと勘違かんちがいしている。


 オアシス:大砂海に存在そんざいした中継地点ちゅうけいちてん総計そうけい0999個。金を持つプレーヤーはここでエル・エスへ向かうことができる。0999個の中、0333個にモノレールのストップが設置せっちされていた。


 ドック:金を持たないプレーヤーは大砂海のドックに集め、蒸気船じょうきせんを乗ってエル・エスへ向かう。無料むりょうですが、人混ひとごみがはげしい。


 モノレール:大砂海の観光列車かんこうれっしゃ線路せんろ環状かんじょう始発しはつ終点しゅうてんはエル・エス。途中とちゅう海岸かいがんを通る、しおの時とてもロマンチック。


 内容をお楽しみに。



「やー、本当にたすかったよ~ルーちゃん~~~」

「どういたしまして。これくらい、全然ぜんぜんちょろちょろです」

今頃いまごろおばさんを助ける若者わかものがどこにいるのよぅ?ルーちゃんは本当にいい子いい子……あれー、ルーちゃんの名前ってなんだっけ?」

「ル、ラ、ア、で!もう四度目よんどめですよ、おばさん」

「えええ!そうなの?やだ、ホントにへんな名前だわ、ルアア?…ルーちゃんっていいよ、ルーちゃんって。これから一杯いっぱい飲みに行かない?勝利しょうりのおいわいを口実こうじつに…なんちゃって~~」

「いいえ、結構けっこうです。これからデートあるので」

「やだ、あっさりとられちゃった…どうしよう?おばさんも早く病院びょういんに行ってかおを変えるかしら、このままじゃ誰もれないよ」

「はい、もう少し金をめればすぐできますよ。顔を買うのが激安げきやすですから!」

「本当~身長しんちょうびたいけど、できる?」

造作ぞうさもないことです、ここの整容せいようかりありません」

「本当の本当~~…おばさんはね、これのためこのゲームをやっていたのよ、酒場さかばの踊り子になって、おばさんは小さいころからね……」

「あ、わかりました!でもあんまり恋人こいびとを待たせないので、もう行きます!」

「やだ、もうー~色男いろおとこなんだから~~今度おばさんと一杯飲むのよ、約束ね」

「はい、また今度こんどで。じゃな、おばさん」

「じゃあね~本当にありがとう、ルーちゃん~~~」


 最近何故なぜかおばさん、おじさんのプレーヤーがえた、理由りゆう不明ふめい一応いちおうこのゲームは金持かねもちのポケットだけねらうので、なにか新しい拡張戦略かくちょうせんりゃくかもしれない…俺はつい先まであのおばさんに究極簡単きゅうきょくかんたん任務にんむ手助てたすけをした。この世界に来て、つえなのか、じゅうなのかをえらんだあとのファストミッション。おばさんは杖を選んで最初さいしょの敵、チロプテラ.ブルメンバチとたたかった。もちろんミッション放棄ほうきでも全然ぜんぜんオッケー。しかし、もし挑戦ちょうせんする場合、杖を選んだ初心者しょしんしゃ失敗率しっぱいりつは決してひくくない。相手の体はもろい、初期魔法しょきまほうの【ファイアショット】に一撃いちげき仕留しとめられる。しかし!蝙蝠こうもりあし相当そうとう早い、無暗むやみに撃てば、すぐ魔力切まりょくぎ任務失敗にんむしっぱいとなる。銃を選ぶ人は初期金しょききんを使ってたまを買うとまだチャンスがあるが、杖を選ぶ場合は『MP』切れイコール失敗しっぱい。この任務にんむのコツはつまり、新生児しんせいじを狙う!生まればかりの生物せいぶつは攻撃がよわい、ベイビー蝙蝠の縄張なわばりに侵入しんにゅうした後先制攻撃せんせいこうげきはしない、わざと彼らの注意ちゅういを引き起こしてから少しずつ後退こうたいおびえているように見せかけ、向こうの攻撃こうげきさそう。ベイビー蝙蝠の攻撃はまよいが多い、軌道きどう直線的ちょくせんてきすぎ、そこを狙えば簡単かんたん命中めいちゅう出来る。重要じゅうようなのは怯えない心、多少の攻撃を受けても無駄弾むだたまは絶対撃たない、タイミングを見計みはからって敵の直線攻撃ちょくせんこうげきに合わせて撃つ!…そしてベイビーへの案内役あんないやくは地図を持った俺。


 もちろんこのちょうつまらない任務を助けるには目的もくてきがあった、すべてはこの『入境許可にゅうきょうきょか』をゆずってもらうため。初任務はつにんむ報酬ほうしゅうもらった後、受付うけつけの近く更に15分をつづければ、かくしイベントが発生はっせい!通りかかるピエロの姿すがたをしたNPCはこの世界の首都しゅと、『エル・エス』のことを紹介しょうかいしてくれる、そしてこの入境許可を無料むりょうおくる!有効期限ゆうこうきげんは24時間。もちろんマーケットで買うこともできるけど、期限きげんの方は保証ほしょうなし。こうして新しいものを確保かくほできれば一番いちばん


 よし!入境許可にゅうきょうきょか無事ぶじに手に入ったし、次は『下町』の…あれ、下街だっけ?ま、どうでもいいか。無数むすうにある、初心者の集会場しゅうかいじょにすぎない、ほしよりも多いものには興味きょうみがない。ただしこんなよわい場所でも、エル・エスへの伝送装置でんそうそうちがいる。ここから徒歩とほで5分、一年前いちねんまえ、俺が一度訪いちどたずねた場所だ。


「こんにちは、ルラア様……二度目にどめお目にかかりますね、おしぶりです。転送装置てんそうそうちをご利用りようしますか?」

「イエス、まだMPはのこっているのか?」

「はい、まんタンです。実はこの二日間ふつかかん、利用した方はいませんでした、さびしいです……」


 寂しい?うそだろ、嘘に違いない。


「ご利用した場合は費用ひよう1000サーになります。どうしますか?ルラア様」

「……あっ、すまん。1000サーをあげる、装置そうち起動きどうしてくれ」

「わかりました、えんの中へどうぞ。起動した後、青い水晶すいしょからはなれないでくださいね。離れた場合、転送の成功せいこう保証ほしょうできません」

「わかった。『オアシス』の方へたのむ」

「『ドック』の方じゃないですね、かしこまりました。少し目眩めまいするので、予めご了承りょうしょうください。では……」


 俺の承諾しょうだくを得て、ルラアの口座こうざから1000サーをいた。この世界の電子財布でんしさいふ設定せっていしたがくを越えないかぎり、パスワードは必要ない、ちなみに俺の額は1万サー、小金持こかねもちなんだぁ~


 床の水晶すいしょう点灯てんとうされた。この水晶は太陽たいようの光をあつめてMPをめる、要するに太陽光電池たいようこうでんちみたいのもの。MPの保存量ほぞんりょうは水晶のしつにかかる、この程度ていど安物やすものはたぶん100が限界げんかい、一度伝送できる人は最大さいだい10人。


 …でもNPCはやっぱこわい。二度目お目にかかりますね~、はまだしも。2ヶ月15日3時間20分ぶりだとか聞いた時、まるでずっと見張みはられていたような感じ…洋服ようふくのセンスは一応いちおう悪くないけど…ていうかこの円盤えんばんで3人はやっとだよな、10人は有り得ないしょ……



 空間くうかん曖昧あいまいに始めた、前に居た場所と違う輪郭りんかくが俺のまわりからたけのこのように空へとびて、新しい記憶きおくつくろうとしている……世界が少しずつ明晰めいせきになった様をはっきりと見える、砂漠さばくつぶ地平ちへいの向こうへと無限むげんに広がりまたたく間にうみとなった…伝送でんそうの光とは何の関係かんけいもない、これは電磁波でんじは幻覚げんかくが見せてくれた世界、俺が大好きなゆめの世界だ。


「オアシス0177へようこそ、ルラア様…この中継ちゅうけいステーションの地図をもうアップロードしたはずです、ご確認かくにんください」

「……確認済かくにんずみ、ありがとう、きみ」

「どういたしまして。では、い旅を…」


 ドレスのれいを見せたNPCを無視むしし、俺は『モノレール』の方へいそがせた…場所は噴水広場ふんすいひろば左側ひだりがわ、俺の地図読ちずよみは1メートルの誤差ごさもない、これは間違いなく才能さいのうです~……着いた!思ったよりふるいな、さすが年代ねんだいもの。


「すいません、次の列車れっしゃまで後どれくらい?」

「はい、お客様、後一時間かかります。ごめんなさい、ここ数年すうねん列車の運行回数うんこうかいすうってしまいまして…」

「いや、大丈夫だ」

「ご理解りかい、ありがとうございます。精確せいかく到着時間とうちゃくじかんはあそこの時計とけい確認かくにんできます」

「お!噴水ふんすいそこ時計とけいがいるぞ。でもおかしい、はり一本いっほんだけ、数字すうじばんもない」

「はい、カウントダウンだけに使用しようした時計ですから。遠いむかしエル・エスさまが設計せっけいされた骨董品こっとうひんです」

「…そうか、わかった。では行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 またNPCがドレスの礼を披露ひろうする前に、俺は早足はやあしで去った……エル・エスさまか、やっぱこの大陸たいりくに来てエル・エス関係の骨董品こっとうひん一気いっきえるだろうな……で、ここまでは予想通よそうどおり、列車の回数かいすうが減ったことはもう知っている。俺に残された選択肢せんたくし飛行器ひこうきか、『魔法動物まほうどうぶつ』かだ。そして俺はラクダを使うと決めた、やすい方を決めた…言っとくけど、俺は小金持こかねもちだからな!


 路傍ろぼの樹、大きくて綺麗きれいだな。この樹も年代物ねんだいものか、先のモノレールのとしは60以上…この世界、俺が生まれたずっと前にもう生きていた、まるで歴史小説れきししょうせつのページだ……


 馬屋うまやだ!ココナッツが栽培さいばいされていて、ちょっとした雰囲気ふんいきがあるな……げ!NPCは黒いスカーフをみみまでかくしたオヤジかよ…勘弁かんべんだぜ、マジ苦手にがてなタイプ、向こうの言葉を待つ方がいい……


「キャメル目当めあての旅人たびびとか、レベル10に超えたのか?」

「はい、レベル100です」

「ならいい、料金りょうきん3000サーだ」

「3000サー、承認しょうにんします」

「…確かにもらった、MP注入ちゅうにゅう上限じょうげんは100、好きなやつをえらべ」

「ではナンバー001にします」

「いくぞ」


 オヤジのふくは真っ白なローブ、何のがらもない、でもいくつ古い畳目たたみめがついていて、ちょっとだけカッコイイ…彼はマスターキーを使っておりを開け、一匹いっぴきのラクダを解放かいほうした、毛色けいろは砂漠の色と大差たいさない、俺のファッションとわない。


「こいつが001だ、目的地もくてきちについたらそのままてればいい、あそこの兄弟きょうだい回収かいしゅうしてやる」

「わかった、では行きます!」

おそれることはない、砂漠の神はキャメルの上おめえを見ている」


 オヤジの恐ろしい目つきをかくし、俺はてのひらから魔法のかがやきをラクダに見せた。【粒子りゅうし】、基本きほん光魔法ひかりまほう…このたくましい生き物がいきなりひざった!…実は俺、ラクダははじめてで、どうやってるには分からない…魔法のおかげで俺はこの小山こやまみたいな背中せなかを登って、前へ急行きゅうこうしNPCのおっさんとバイバイした…


 わかい少女の姿すがたはまだしも、おっさんの姿をしたNPCはまじでこわい、俺はいまだこの設定に納得なっとくいかない。そのあんまりにもリアルなひげ幻想げんそう欠片かけらもない、ファンタジーじゃない…ま、とにかく先ずはMP注入ちゅうにゅうっと。


 自分じぶんのMPを精確せいかくにコントロールし、ラクダへ100を分ける。どの原理げんりかは知らないが、この世界の動物どうぶつはみなMPを吸収きゅうしゅうし、そしてあばれる!このとおり、俺が乗っていたラクダは突然暴走ぼうそうし始め、砂漠のやわらかさをかまわず駿馬しゅんめ並みの速度そくど移動いどうし始めた、不思議ふしぎなことこの上ない!


「おおお!いいぞ、いいぞこのパッション!この調子ちょうしで行け!!!」


 ああ!思い出した、俺は小さいころからずっと砂漠さばくへ行きたかった。大自然だいしぜんあつさと立ち向かい、最後この絶対的ぜったいてき荒野こうやを勝つ、俺一人の力で!この世界はいつも俺の夢をかなえてくれる…いやこの世界自体は夢だ、俺はここで英雄えいゆうになる!

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