第二章 転転猫

7にゃんめ 生涯の金づるを見つけよう。

『魔王により世界は支配されてしまいました。どうか私達を魔王の手から救ってください』


 なにこれ?

 やばいわね、なにかウィルスにでも感染したのかしら?

 なにやら変なメッセージがでて、ウンともスンとも言わなくなった私のスマホ。


 心当たりは……そういや昨日、新作ゲームのテスターに応募したわね。

 それの導入画面かしら?

 それにしてはタイトルも何も無いわね。


 ブラックスクリーンにホワイトな文字が一行だけ。

 これも演出の一つかもしら。

 電源を切るか、このまま進めるか迷ったけど、いざとなったら初期化すればいいかと思い画面をタップする。


 すると画面が切り変わる。


『種族を選んでください』


 ヒューマン    SP10 ☆ 魔法・直接攻撃、共にそこそこの性能を誇る。誰にでもオススメ。

 エルフ      SP8  ☆ 魔法職特化型、魔法以外が非力なためソロプレイには不向き。援護職好きな人にオススメ。

 ドワーフ     SP12 ☆ 力が強く魔法も多少は使える。序盤からサクサク進めることが可能。攻撃職好きな人にオススメ。

 デミ・ヒューマン SP5  ☆ 直接攻撃特化型、魔法は一切使えないが強力な攻撃力は魅力的。ゴリ押し好きな人にオススメ。


 ん~、これと言って特別なものもないわね。

 なんか怪しげなソフトだし、このまま削除しちゃいましょ。

 と思って終了させようとしたところ、△も□も反応しない。


 仕方ないので、電源ボタンを長押ししてみるも画面が消えない。


 やっべ、これ確実にウィルスだわ。

 最近のスマホってバッテリーが外せないから、充電が切れるまでこのままかな?

 大丈夫かな私のスマホ。


 と思いながらも画面を色々タップしていると……


『スキルを選択してください』


 SP1 ☆ 暗視:暗いところでも良く見える、目だって光ります。

 SP1 ☆ 嗅覚探知:人間の数十万倍といわれる性能を誇る、弱点にもなりえるので注意。

 SP1 ☆ 聴覚探知:ただ耳がいいだけはなく、音で方角や距離まで判断できる謎性能。

 SP1 ☆ 忍び足:音を立てずに忍び寄る。その技術に猫の右に出る動物はいないといわれるほど。

 SP1 ☆ 隠密:忍び足とセットで気配を殺せば、猫の存在に気づける人間はいない。

 SP1 ☆ 気配察知:猫はハンター、獲物の気配は逃がしません。

 SP1 ☆ 敏捷:猫科の走るスピードは世界最速。

 SP1 ☆ 爪術:獲物を切り裂く鋭い鉤爪。

 SP1 ☆ 柔軟:お城の頂上から落ちても生き残るほどの柔軟性を持つ。

 SP1 ☆ 生命力向上:どんな時でもしぶとく生き延びる。怪我をしてもすぐに回復する。

 SP1 ☆ 動体視力向上:視力はそんなによくないが、世界がゆっくり動いて見えるという。

 SP1 ☆ 魅力:その愛くるしさは誰もが認めるレベル。

 SP8 ☆ 復活(9):猫には9つの命があるといわれています。


 デミ・ヒューマンの選択肢の下あたりをタップしたら、そう画面が切り替わる。


 おや、隠し種族かな?


 なんだろこれ、随分性能が良さそうね。所々、猫と比較しているのが気になるけど。

 どうせバッテリー切れるまで点けとくしかないし。

 進めれば終了できるようになるかもしれない。


 そう思い、そのまま画面を進めてみる。


『性別を選択してください』


 オス ・ メス


 オス? メス? 動物かな?

 なんだろこの種族。

 とりあえずメスを選択。


『ようこそ我等が世界へ、貴方を歓迎いたします』


 そう画面に文字が表示された瞬間だった。

 スマホの画面から黒い手が伸びてきた気がした。

 思わず目をつぶる。


 そして再び瞼を開いたとき、世界は、変わってしまっていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 えっ、何……? どこ、ここ……?


 いつの間にか硬い地面に横たわっていた。

 いや、横たわってはいない? 私は今、普通に地面に座っている……はずなのに、なぜか地面がもの凄く近い。

 嫌な予感がして、自分の手を目の前に差し出して見る。


 そこにはプニッとした肉球が!


「えっ! なんで肉球がッ!!」


 ウェッ! 何? 何が起こったの!?

 慌てて全身を見てみる。


 真っ白なフサフサした毛並み。が体中を支配している。

 二本足で立ってみようとする。

 プルプルしていくばも持たない。


 歩くなんてもってのほか……これは……猫! 私、猫になっちゃったの!


 見渡す私の体は、正真正銘の猫、そのものであった。

 夢……きっとこれは悪い夢に違いない!

 そう思った私は近場の板壁に突撃してみる。


「いった~い!」


 なんで覚めないのこの夢!!

 夢、夢だよね!?

 誰か夢だと言ってよ!


「おう、姉ちゃん、何やってんだよ。早く行かねえと集会が始まっちまうぞ」


 そんな私に奇異な物を見る目でそう言ってくる…………一匹の猫。

 えっ、猫がしゃべっている?

 いや、私が猫の言葉を理解していの?


 えっ、でも――――日本語にしか聞こえないんだけど。


 なにやら猫の集会があるらしいので、その子に付いて行く。

 猫の集会、噂ではよく聞くけど、ほんとにあったんだ。

 いったどんな事を話しているんだろう、ちょっと興味あるかも。


 ワクワクして向かったその先で待っていたのは――――


◇◆◇◆◇◆◇◆


「我々は遂に、この世界の支配を成し遂げた!」


 オレがそう高々と宣言する。

 すると周りの猫連中から歓声が上がる。


 あの小鬼達との戦闘が終わった後、なにやら豪勢な家に引っ越しされた。

 どうも、うちの飼い主達が随分な出世を果たした模様。

 まあ、ボスを打ち取っていたしね。


 そんな訳で毎日、うんめえ餌食って、ゴロゴロしていた時だった。


「おいてめえ、人間の癖に大きな顔してんじゃねえぜ」

「そうだそうだ、どうするコイツ、食ってやろうか!」


 なにやら外から声が聞こえる。しかも日本語の。


 えっ、日本語!?

 もしかして新たな召喚者なのか!

 急いで窓から外を見渡したところ、複数の猫が、一人の子供を取り囲んでいる。


 猫? いや、あの子供か?


「オラオラ、何か言ったらどうなんだよぉ」


 やっぱり猫が喋っている。なんで、どうして?

 猫が日本語を話している。

 オラオラ言いながら子供を威嚇している。


 おまえはどこのチンピラだよ。


「こらお前達、やめねえか」


 あれ、オレも日本語が喋れてる。

 そんな馬鹿な、こないだまではニャーとしか言えなかったのに。

 するとその猫達、驚いてこっちを見たかと思うと、急にかしこまって平伏してくる。


「おお、王よ、何か気に障る事を致しましたでしょうか?」

「もしかして、この人間が気にいらねえのですか。ならばすぐにでも始末しましょう」


 なんなのお前達?

 だれが王様?

 えっ、いったい、どういう事だってばよ?


 キョロキョロ辺りを見回してみたが、オレ以外に誰もいない。


 もしかしてオレが猫の王様になったの?

 とりあえず人間の子供を逃がした後、その猫達に詳しい事を聞いてみる。

 どうも最近、急に自我が芽生えたとの事で、言葉もその時に話せるようになったとか。


 えっ、だから、どういう事だってばよ?


 彼らはオレの事を王様と呼び、人間どもを殲滅して猫の王国を築こうなどと言ってくる。

 そういや最近、人間達の言葉を学ぼうとしてたのだが、その時に、猫や凶暴などと言った単語が多く使われてた気がする。

 猫が凶暴化して人々を襲っていたのか?


 もしかしてあの時の珠ぁ……オレに取り憑いたとでも?

 まさかオレが、猫の魔王にでもなったというのか。

 こいつら、オレの言う事なら聞くみたいだし。


 やっべぇ! と言う事は、ほっとくとオレもあの小鬼達みたいに討伐されんじゃね。


 これはやばいと思って猫達の説得にかかる。


「いいかおめえら、何も相手を殺すことだけが世界を支配する手段じゃねえ」


 猫には猫にしかできない支配の方法がある。

 そもそもだ、人間を殺したら、オレたちゃどうやってこの先、うんめぇもんを食っていくんだ?

 今更、生肉なんて食えねえだろ。


 お前らの手を見てみろ、その肉球で料理なんて出来ると思うか? 無理だろ。


「人間を奴隷にして作らせりゃいいじゃありませんか」

「分かってないなおめえ、強制的に作らせてうまいもんが出来上がるか?」


 どうせ作ってもらうなら、気持ちよく作ってくれた方がうめえもんが出来る。

 さらに気持ちよく作っていれば、今よりうめえもんが出来てくるかもしれん。

 えっ、どうやったら奴隷にせずに作らせる事が出来るかって。


 オレたちゃ猫では、どんなに凶暴になったとしても底が知れている。


 その牙で、その爪で、いったいどれだけの事が出来ると思っているのだ。

 暴力で支配する時代はもう終わりだ。

 これからは支配されている事に気づかせないほど、裏で奴らを牛耳ればいい。


 その為のスキルをオレ達は持っている。


 それは過去現在、全ての高名な支配者が持っていたもの。

 それがあれば、全てを支配することが可能なもの。

 そのスキルの名は――――魅力。


 人間達に、媚を売って売って、売りまくるのだ!


 悲しそうな時は、そっと傍に寄り添ってやればいい。

 寂しそうな時は、そっと布団に入り込んで暖めてやればいい。

 楽しそうな時は、一緒になって踊ってやればいい。


 ただ、それをするだけで、お前達は一生の金づるを手にする事が出来るのだぞ!

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異世界に行った。そして猫になった。 ぬこぬっくぬこ @nukonukkunuko

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