6にゃんめっ なんだビビッて損したな。
「魔王だ! ゴブリンの魔王を討ち取ったぞぉおおお!」
俺がそう叫んだとたん、これまで統率のとれていたゴブリン達が散り散りになって逃げ出し始める。
突然始まったゴブリン達の襲撃。
たぶん俺達のパーティが逃げ帰った事を知った奴等は、防備を整えられる前にと攻め込んで来たのだろう。
その数もかなりのものにのぼる。
正直、一日さえ持ちこたえられそうに無かった。
奴等はすでに繁殖をおえ、この街に侵攻する体勢を整えていたのだ。
だからこそ、調査に向かった冒険者を全滅させた。
それでも俺達のパーティが戻った事により多少歯車は狂わせられた。
普通なら堂々と正面から攻めてこずに夜闇に紛れて攻めてくるだろう。
そうなっていれば、もう手の打ち様も無い。
アレクサンダーは俺達だけじゃなく、この街の人々をも救ったのかもしれない。
しかし、今、そのアレクサンダーの姿が見つからない!
「グライズ、もう時間だ、行くぞ」
「大丈夫だ。アレクサンダーは賢い、一人でも生きていける。あたい達はただ、アレクサンダーが逃げ出すまで時間を稼げれば良い」
街にゴブリンの襲撃を知らす鐘がなった瞬間、ソレに驚いたのか家から飛び出したアレクサンダー。
すぐに外に出たが、すでに姿は見当たらない。
あちこち探して回ったが影も形も存在しない。
「そうだな、アレクサンダーの為にも、一匹でも多くあのゴブリン共を屠るしかない」
「メメはどうする? なんだったら城主の所へ避難していてもいいぞ」
「うう~、どうせどこで居たってもう一緒でしょ。じゃあ少しでも皆の傍にいようと思う」
そう言って俺の方をチラチラと見てくるメメ。
「皆のねえ……あねさん、最後ぐらい素直になってもいいんじゃないですか?」
うるさいわねぇ、と言ってポーの頭をつつくメメ。
結局、俺達パーティは誰一人欠けることなく城壁に集る。
少し偏屈だが、頼れるリーダー格のゼン。
寡黙なスナイパー、ウルト。
乱暴だが素直なところもあるリィス。
動物ぎらいなのに冒険者をしているメメ。
才能には恵まれていないが努力家のポー。
そして愛想の無さでいつも不機嫌に見られている俺。
俺達はみな、社会のつまはじき者だった。
普通のパーティには入れてもらえず、ソロで実力を磨いてきた。
そんな奴らが集ったパーティ。
思えば、俺達は出合うべくして集ったのかもしれない。
「それは勇者の物語の一説に出てくる言葉ですね」
物知りのポーがそう答える。
その昔、強大な力を持った魔王が誕生した。
魔王の所為で人類は絶滅の危機に瀕したと言う。
その時に神より遣わされた勇者が降り立つ。
そしてその勇者の元に仲間達が集る。
剣聖と呼ばれる剣士、魔術を極めし賢者、死者すらも癒やす聖女。
それらに向かって勇者が言った言葉。
「レベルは明らかに違うな」
「そうですよね、今ここに勇者が居れば良かったのに……」
「居ないものに頼っても仕方ない、俺達は俺達のできる事をするまでだ」
「ねえ、アレ、アレクサンダーじゃない?」
ふとメメがゴブリン達の集団の一部を指差す。
そこには素早い動きでスススと音も立てず、ゴブリン達に這い寄っているアレクサンダーの姿が見える。
「あ、アレクサンダー!」
思わずそこに駆け出してしまう。
「お、おい待て! 待てって! 突っ込むんじゃない! チッ、どうせ終わりなら華々しく散ってやるか……」
「アレクサンダーを見殺しには出来ない! あたいも行くぞ!」
「えっ、行くの? マジで……もうちょっと心の準備が……って待ってよ!」
俺の後を追ってゼン達も駆け出して来る。
それと同時、他の兵達も声を上げてゴブリンに突撃して行く。
「メメを守れ! それが最優先だ! メメは俺達に回復魔法を頼む!」
アレクサンダーを追って俺達はゴブリン達の中心部へ向かって行く。
もしかすれば、アレクサンダーは魔王の居場所へ俺達を誘導しているのではないか?
ふと、そんな突拍子も無い事を思いつく。
この戦いに勝利する条件は唯一つ!
この群れのボスであるゴブリンの魔王を叩くこと!
だが、闇雲に突っ込んで行っても魔王の元へは辿り付けない。
そんな中心に向かって外れればただ死を待つだけだ。
しかし、この先に魔王が居るのならば……
魔王と戦うなど正気の沙汰ではないかもしれない。
近づいた途端、魔法で粉々にされるかもしれない。
だが、どちらにしろ死ぬのならそれに賭けてみるのも悪くは無い。
そんなアレクサンダーが向かった場所には、杖を持ったゴブリンが居た。
その杖を掲げるゴブリン、それは俺達の方を向く。
まずい! 魔法が飛んでくる。
と思った瞬間だった。
アレクサンダーがその杖の上に飛び乗る。
すると地面にブチあった杖から丸い珠のようなものが転がった。
それを追ってアレクサンダーが駆ける。
杖を持っていたゴブリンも慌ててアレクサンダーへ駆け寄ろうとする。
「アレクサンダーには指一本触れさせない!」
俺はそのゴブリンに駆け寄り首を一閃!
ポンと舞い上がるゴブリンの頭。
次の瞬間、周りのゴブリン達がギャッギャッと騒ぎ出して逃げ始める。
もしかしてこのゴブリンは……
俺はその頭を高々と掲げ、ゴブリン達に良く見えるように叫ぶのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ふむ、なにやら珠と戯れてるうちに終わったな。
辺りを見渡すと子鬼達が散り散りになって逃げ出している。
所詮は子鬼、人間様の敵ではなかったわけか。
なんだビビッて損したな。
というか珠、どこに行ったのだろう?
気づいたら無かったんだが……
猫の習性って恐ろしいな、今度から気をつけねば。
その時オレは気づく事が出来なかった、自分の右目の中に珠と同じ光が灯っていた事を。
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