5にゃんめっ どうやって奪ったらいいものか?
「ゴブリンの魔王が誕生したのか?」
「ああたぶんそうであろう、あのまま調査を続けていれば、ゴブリン共に囲まれた俺達に命はなかった」
事実、調査に向かった冒険者は誰一人として戻ってきていない。と呟く。
えっ、ちょっとソレどういう事!
まさかっ、全滅したって事!?
「慌てるなメメ。まだ、そうだと確定した訳ではない」
「訳ではない、が、相手が魔王なら、ほぼ確定じゃないか」
「ちょっと待ってよ! 魔王って、ついこないだ北のオーガに現れて大戦争があったばかりじゃない!?」
今まで魔王がそんなに頻繁に現れるなんて記録に残されていない。
一つの魔王が滅び、次の魔王が確認されるには、だいたい、百年近い年月があった。
数年前、八十年振りとなる魔王が確認された。
それですら過去最短の魔王の誕生であった。
モンスターの中でも上位種となるオーガに現れた魔王。
たった数年で二つの国が滅び、人類の終末を予想させた。
だが、幸いな事にオーガはモンスターにしては繁殖力が弱い。
戦いに強い喜びを覚える彼等には、戦争をし続けることにより、徐々に数を減らす事に成功した。
多大なる犠牲の末、ようやく討ち取られたオーガの魔王。
気づけば、戦争に参加した軍の約八割が消失していたと言う。
そんな大戦争、その終結がつい三年ほど前の出来事。
「ああ、だからこそギルドもそれほど危険視はしていなかった」
「その結果、最悪の状態になった訳か……」
「最悪はまだ始まっていない。ゴブリンは力こそないにすれ、その繁殖力はとんでもない、一刻も早く魔王を討伐出来なければ……」
その時こそ本当の最悪が訪れる。と重々しい言葉で告げるゼン。
「と、とっととと、とにかく! 一刻も早くここから逃げなきゃ!」
ゴブリンの襲撃なんてとんでもない!
あいつ等は人間の子供の並みの力しか持たないが、恐ろしい繁殖力を持ち、力が無いが故に高度な戦術を使ってくる。
知能の無いゴブリンなど唯の雑魚だが、人並みの知能を持つとなると、これほど恐ろしい相手は居ない。
「そうだな、メメとリィスは避難したほうがいい。奴等は他種族相手にも子供を作る、そして生まれてくる子は必ずゴブリンだ」
「……ゼンはどうするの?」
「特殊緊急依頼が発動された。その依頼は…………魔王からこの街を死守せよ、というものだ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
ぷっは~、いやあ旨かった。
この世にこんなおいしいモノがあるとは。
こりゃアレだな、異世界チート者が来ても、グルメチートは出来そうにないな。
オレは例の姉ちゃんの膝の上に乗り丸くなる。
うん、引き締まっていい太ももだ!
アスリートの脚線美って他には変えられないものがあるよな。
人間達はなにやら深刻そうな表情で話し合っているが、オレには意味がさっぱり分からないのでどうする事もできやしない。
良い太ももに抱かれてその内ウトウトとし始める。
とその時、突如、カンカンカン! と外から鐘の音が響いて来る。
びっくりして飛び起きたオレは、慌てて窓から外を眺めてみる。
慌てた人々がそこら中を走り回っている。
なにやらヤバそうな雰囲気なんですが……
世界の終わりの序章はすでに始まっている。とかだったら嫌だなあ。
いやでも、そんなギリギリな状態で呼び出したりしないよね神様?
しないと言ってください!
おお、勇者よ、お主だけが頼りなのじゃ、じゃ、じゃ、ゃ……
ってまたしても幻聴が聞こえた気がした。
マジかよ神様、これもう詰んでるだろ?
オレは急いで小窓から外に出て行く。
この街で一番高い所に登ったオレは遠くを見渡す。
なにやらウジャウジャと、昔、中華な映画で見たような、黒い絨毯が川の流れようにこっちに向かってきている。
あれ全部モンスターか? うっは、気持ちわるぅ。
人間達の方も鎧を着た騎士っぽいのが集って来てはいるが、正直、向こうの一割にも見たない人数。
勝ち目があるとは到底思えない。
えっ、どうすんの神様?
ちょっとハードモード過ぎない?
いきなり総攻撃とか、レベルを上げる余裕すらないじゃないか!
こうなったらもう逃げるしか……
いやしかし、あの兄ちゃん達見捨てて逃げるのもどうだろうか?
一宿一飯の恩義もあることだし、うむむ……
と、考え込んでいると、何やら黒い絨毯の一箇所が光っている。
普通の光とは違う、こんなに遠いのにはっきりと見える光。
その光は付近を照らしてもいない。
光というよりはゲームの敵を示す光点に近い感じがする。
ふむ……もしかしてあそこに何かあるのか?
あの光ってるところまで行けたら、なんとかなる。のだろうか?
そう思ったオレは街の城壁を超えて外に出てみる。
黒い絨毯はすでに城壁のすぐ近くまで来ていて、街を取り囲もうとしている。
奴等は人間を襲う、ならば猫はどうだ?
腹が減ってたら襲うかもしれないが、今はそれどころじゃないだろう。
恐る恐るその絨毯を構成している子鬼の一匹に近づいてみる。
オレはその子鬼に近づいて、にゃ~ん、と鳴いて見る。
一瞬オレの方を向くが、すぐに興味をなくして城壁へ向かう。
ふむ、これならば、あの光っている場所へ行く事も難しくはないか?
オレは忍び足と隠密を駆使して光が差す場所へ近づいて行く。
城壁の辺りではすでに戦闘が始まっているようで、激しい戦闘音が聞こえる。
そのおかげか少々ぶつかってもオレに注意を払う奴は居ない。
踏まれないようにさえ注意していれば、あの光の下に行く事は難しくなさそうだ。
そんな猫の才能をフルに発揮しながら、黒い絨毯の中心、そこで光っていた場所に辿り付く。
その光の元は、一匹の子鬼が持つ、真っ黒な王笏についていた小さな丸い珠であった。
アレか? アレをなんとかすればいいのか?
オレはソロリ、ソロリとそいつに近寄って行く。
そいつを持っている子鬼はギャッ、ギャと周りになにやら指図をしている。
オレが近づいていることには気づいていないようだ。
どうやって奪ったら良いものかな?
結構しっかり杖の台座にハメ込められている。
少々体当たりしたぐらいじゃ取れそうにない。
そう考えている時だった、何やら近くで悲鳴のような声があがる。
どうやら人間の一団が、ここに居るボスに向かって特攻をかけてきたようだ。
そっちに向かって、ボス子鬼が王笏を向けて何やら呟いている。
チャンスだ!
ボス子鬼の頭を踏み台にして、水平に構えられた王笏に上から体当たりをかます。
王笏の先端が、そのまま重力に従って地面にぶつかる。
するとその先についていた珠がとれた!
コロコロと地面を転がって行くその黒い珠。
するとなんと、オレの体が勝手に珠を追って走って行くではないか!
これはもしかしてオレの体が引き寄せられているのか!?
その珠の前に辿り付く。
思わず手が出て、パシッと珠をはたく。
そしてまた転がる黒い球、さらに追いかけるオレ。
あっ、コレはアレだ、猫の習性だ。丸い玉が転がっているのみちゃあ、追いかけずにはいられねえ!
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