4にゃんめっ おおっ、ええおっぱいしとるやないケ!

 まったく部屋に風呂まで付いてるだなんて、かなりのいいとこじゃねえか。

 あたいら冒険者の収入じゃとても借りられないと思うんだが、アイツ、どこに金があるんだ?

 ああそういや、確か、どっかのボンボンだったとか言ってた記憶があるな。


 あたいは風呂の中で疲れた体を癒やす。


 ん~、気持ち良いな。

 しかしコレもあの猫のおかげか……

 あの猫が居なけりゃ、あたいはあそこで終わっていた。


 猫なんて恩知らずで我侭で自分勝手な動物と思っていたのに……


 バシャッと顔に水をかけながら叩く。

 うむ! これからは考えを改めないといけないな!

 なにやら自分も泊まり込むと言ったメメが、回復魔法で猫を癒やしてくれている。


 元気になったらできる限りの恩返しをしていこう。


 そう思って立ち上がる。

 そして風呂から出ると……一匹の猫があたいの下着を咥えて引き摺っているのを見かける。

 ふと、その猫と目が合う。


 猫はピシッと硬直して動かない。


「アレクサンダー! もう、歩けるようになったのか!?」


 あたいはその猫に抱きつく。

 なんだお前、随分嬉しそうな顔をするな。

 そんなにあたいが良いか、そうか、そうか!


 こらこら、胸にむしゃぶりつくな、くすぐったいだろ?


 猫のアレクサンダーは、素っ裸のあたいの胸に抱かれて至福の表情をしている。

 なにやら興奮した感じで尻尾が揺れている。

 そういやこいつもオスだったな?


 お前、こんなあたいの裸で興奮しているのか?


 猫の癖に生意気な奴だな!

 しかし……始めて興奮された相手が猫とは……

 人間相手だと女に見られたことがないからなあ。


 もう猫でも良いかもしれない……


「リィス! そっちにアレクサンダーが居ないか!? 目を離した隙に居なくなったんだ!」


 扉の向こうからグライズの慌てた声が聞こえる。

 あたいはとりあえず、ここにアレクサンダーが居る事を告げて服を着る。

 そして部屋に戻ってみると……なにやらパーティーメンバーが集合していたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 おおっ、ええおっぱいしとるやないケ、この姉ちゃん!

 ただ柔らかいだけではない、むしろ硬いぐらいだ。

 だが、その弾力が堪らない!


 揉みしだくほどに味が出る。

 これがアスリートのおっぱいか!

 こんな素晴らしいものを手にしてもいいのだろうか?


 オレは奴が風呂に入るの見計らって復讐に講じる事にした。


 そう、オレをブン投げて矢鴨ならぬ矢猫にした揚げ句、地面に叩き付けた姉ちゃんの下着を拝借させてもらおうと。

 抜き足差し足忍び足で、他の人間に気づかれないよう風呂場に到着する。

 サッと扉を開けて中に入るオレ。


 すると目の前に脱ぎすてられている下着達。


 クンカクンカしましたよ。

 ええ、猫ですもの、仕方ないですよね?

 十分堪能したオレはその内の一枚を口に咥える。


 さあ、それを持って行こうとしたその時、風呂場の扉が開かれる。

 そして目も前にはあの凶暴な姉ちゃんの姿がっ!

 そしてオレは現在、その凶暴な姉ちゃんの下着を咥えている訳でして……


 そりゃもう蛇に睨まれたカエル状態になる理由ですよ。


 つーか早過ぎだろっ? カラスの行水かよっ!?

 女ってもっとこう、長風呂しろよっ!

 などという心の声を他所に飛び掛ってくその姉ちゃん。


 殺られる! と思ったその瞬間、豊満な胸に抱きかかえられる。


 そしてなにやらオレの頬にスリスリしてくる。

 どうやら下着の事は怒ってない模様。

 むしろ、何時の間にかデレてるご様子。


 一体何が?


 いやそれはいい、いいんだ……ああ、なんたる幸福。

 マッパの姉ちゃんに抱き締められるなんて。

 オレ、猫になって良かったわぁ。


 となると、さっき、折角まっぱだったのにもっと良く見とくんだったなあ。と後悔したり。


 いや、この様子だとこれからもチャンスがあるかも?

 一緒にお風呂に入ったり……

 うん、オイラ元人間だからお風呂に忌避感はありません。


 入ってくれると言うのなら幾らでも!!


 などという想像を膨らませているうちに何時の間にか服を着て部屋に移動している。

 しまった、もっと良く着替えシーンを見て置くんだった!

 と、後悔していると、ゴツイおっさんが何やら金色の猫缶を差し出してくる。


 蓋を開けられたその場所からは、とても良い匂いが漂ってくる。


 オレはその猫缶を一舐めする。

 うっひょ~っ!!

 なんだこれ、スゲーうめぇえええ!


 さっきまでのピンクシーンはどこへやら、夢中で猫缶をむさぼるオレであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 マグロ鳥の猫缶……だって!? あの幻の! いったいどこで!? というよりかなりの値段だったのでは?

 俺はこれを持ってきたゼンに問いかける。


「ああ、ちょっとつてがあってな。まあ金額は気にすんな、それだけの働きをこの猫はしてくれんたんだからな」


 そう前置きをしてゼンが説明してくれる。

 どうやらこの猫は、リィスだけではなく、俺達全員の命を救ってくれたのだとか。


「どういうことだ?」

「グライズ、お前の連れてきた猫が居なければ、たぶん俺達は全滅していただろう」

「それに、クエスト失敗の違約金どころか、情報提供としてかなりの金額が入ってくることになりました」


 ポーの奴がゼンに続いて興奮した面持ちで、ギルドからもらえる報酬の額を伝えてくれる。

 それは目玉が飛び出るほどの額。

 クエスト成功時の十倍ほどの金額だった。


「……あのけち臭いギルドがそんな金額を出すということは」

「ああ、たぶんおめえの思っている通りだ」


 知能の低いゴブリンが待ち伏せなんかするはずがない。

 唯一つの条件を除いて。

 それは、


「魔王の誕生……」


 モンスターの中には突然変異的な形で、素晴らしく高い知能を持った存在が生まれてくる事が稀にある。

 一般的に、各モンスターは群れる事がない。

 大きな群れでも五匹を超える事は少ない。


 そのおかげで人類はモンスターに支配されずに暮らしていける。


 それが、だ。万が一群れるようになったら……

 モンスターの繁殖力は人とは比べようもなく強い。

 一回で出産される数は少ないが、数日もすれば自分の足で立って行動している。


 一ヶ月もすれば成人となり、次の子を作る。妊娠期間も非常に短い。


 そんなモンスターが計画的に子を作り、人と同じ知能を持てばどうなるか?

 そしてその突然変異のモンスターはなぜか、同種のモンスターを従える能力を持つと言う。

 誰もが恐れるその事態、それを引き起こすモンスターを、人は『魔王』と呼んだ。

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