3にゃんめっ くっそあのアマァ!!後で覚えてろよ!
ふう、どうにか間に合った。
聴覚探知と嗅覚探知をフル稼働させて、なんとか兄ちゃんの馬車に乗り込む事に成功した。
中にいたのは兄ちゃん含む六人パーティ。内二人は女性だ。
馬車に揺られること数十分。
数軒建っている建物の一つに馬車を預けると、なにやら巨大な洞穴に入って行く。
オオッ! これがダンジョンか!! とテンション高く、荷物の上からキョロキョロと辺りを見渡す。
しかし暗いな。
もろ洞窟って感じで松明とランタンの灯りのみが頼り。
六人パーティのうち、一人がランタンで前方を照らしながら先行する。
一人が後方で松明を掲げて歩く。
で、この後方の人がマッピングと荷物持ちをしている。
オレはその荷物の上で揺られていた。
すいませんねえ、余計な荷物増やしちゃって。
しかしコレ、以外とハードモードなんじゃないか?
ゲームのように綺麗な通路や壁はない。
地面は凸凹だし、上下左右至る所から岩が突き出している。
あんな岩の陰とかに隠れてて、急に襲われたらひとたまりもないような気もする。
まあオレは暗視の能力で、暗くても良く見えるんだけどね。
ほらちょうど、上の方にある穴から弓を構えてる子鬼のような奴も分かるし。
ウェッ!! 弓構えてるよ! ちょっとヤバいよ!
オレは必死でニャー語で危険を伝えるが、むしろ煩い、みたいな感じで頭をはたかれる。
くっ、不味い! このままだとあの姉ちゃんの頭に矢が生える!
オレは弓で狙われている姉ちゃんに向かって飛び掛る。
するとその姉ちゃん、あろう事か、そんなオレを掴んでブン投げる。
そしてそれは、運の悪い事に、ちょうど弓矢の射線に入って……
――ドスン!
「ニッッギャッーーー!」
スローモーションのように飛んでくる矢。
必死で避けようと体を捻じ曲げるがそれすらもスローモーション。
いくら動体視力に優れていようが、空中では見てることしかできやしない。
飛んできた矢がゆっくりとオレの体に吸い込まれて行く。
そしてその矢の威力にオレの小さな体は耐え切れず、矢と共に姉ちゃんに向かって行く。
そしたらその姉ちゃん、矢ごとオレを地面に叩き付けるの。
「プギャッ!」
くっそこのアマァ!! 後で覚えてろよ! てめえの下着掻っ攫ってズタボロにしてくれる!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「何! 待ち伏せだと! モンスターがそんな高度な事を……」
「矢が飛んで来るぞ! 気をつけろ!!」
「おいグライズ、お前、どこ行こうとしてる?」
グライズが矢が刺さった猫を抱えて血相を変えて入り口に向かって走って行く。
「おい、ちょっと待てって! チッ、どっちにしろ撤退だ! 皆、戻るぞ!!」
リーダー格のゼンさんがそう言って、全員が入り口へ向かったグライズを追いかける。
「メメ頼む、うちのアレクサンダーに回復魔法を掛けてくれ!」
洞窟の入り口で待っていたグライズが私にそう頼みこんでくる。
えっ、その……私、猫ダメで……
子供の頃に森で鉢合ったサーベルタイガーに襲われて、猫というか、四足歩行の動物全部が苦手になってしまった。
「頼む……もしアレクサンダーを助けてくれたら、俺はどんな事でもする!」
えっ、……どんな事でも?
本当に? どんな事でも? 絶対に?
グライズが力強く頷く。
じ、じゃあ、ちょっと頑張ってみようかな? 触れなきゃ大丈夫だよね?
「な、なあ、グライズ……」
「来ないでくれ、今はちょっとお前の顔を見て、平静でいられる自信がない」
リィスの奴がグライズにそう言われてちょっと顔が引き攣っている。
あっ、なんかいい気味かも?
これを機会に二人とも別れてくれないかな?
いや別に付き合ってるって訳じゃないんだろうけど、喧嘩友達みたいな感じで二人仲が良いんだよね。
これでこの猫ちゃん死んだらどうなるかな?
きっとグライズはリィスを許さないよね?
そうなると、グライズの傍に居る女性は私だけに……フフフフ……
「メメ?」
「あっ! うん! 何も変な事考えてないよ! うん、手は抜かないからね!」
「メメの奴も一言多いよな」「そうだね」
うるさいぞ、そこの二人。
どうせ私はいらんでいいことばっかり言って婚期を逃してる、行き遅れ娘ですよっ!
いや、まだ大丈夫。まだ慌てる年齢じゃない。うん、冒険者なら二十歳過ぎでも独身はいっぱいいるしね!
……冒険者辞めようかな私。
「チッ、なんだよ、たかか猫じゃねえか?」
あ~あ、またそんな事言って。
リィスもバカだよね。
まあ私とすれば、そっちのほうがありがたいんだけど。
ほんと、この猫ちゃんには感謝しないとね!
「その猫に命を救われたんじゃないのか、お前」
「えっ、何を言って……」
「そうだね、猫が居なければ刺さっていたのはリィス姉さんの頭だったし」
荷物持ちのポー君がそう言う。
突然服を引っ張って暴れだす猫。
急に騒ぎ出したら怒られるよ、と頭をはたいたところ、突如リィス姉さんに飛び掛って行く。
その直後、矢が飛んできた。
今思えば、なんだが矢が飛んできた方角を指差していたような気がする。
きっとこの猫は、ゴブリンが弓を構えているのに気づいて、僕達に教えようとしてくれたのかもしれない。
事実、猫がいなければ、矢は間違いなくリィス姉さんの頭に向かっていた。
「ぐ、偶然だろ? 猫が、そんな事する訳ねえ」
「偶然であれ、命を助けられたのは事実だ。だったら他に言う事があるんじゃねえか?」
「うっ、ゼン、でもさ!」
「デモもクソもねえ、猫だろうが、コイツは立派なオレ達のパーティメンバーだ」
さすがゼンさん。
いい事言う。
うん、この猫ちゃんは立派なパーティメンバーだよね! だからリィス、あんたは要らない。
「うっ、……すまなかった、グライズ」
「俺に謝っても意味がないだろう」
「そうだな……すまなかったアレクサンダー! お前は命の恩人だ!! どうか許して欲しい!」
そう言って猫に土下座するリィス。
ちょっと、猫にそこまでしなくてもいいんじゃない?
リィスも少し捻くれているけど、こんな時は素直なんだよね。
だからグライズも心を許している、ほんと油断のならない奴。
「グライズ、これからこの猫の傷が治るまで私に世話をさせてもらえないだろうか?」
「駄目に決まっているだろ。アレクサンダーの世話は俺がする」
「……お前の部屋、結構広かったよな? もう一人ぐらい増えても大丈夫だろう、あたいも一緒に世話をする!」
えっ、ちょっと何言ってるの!?
グライズもそこで頷かないでよっ!!
えっ、それって二人、同棲するって事?
駄目ダメDAME! 絶対ダメッ!! ほんと、油断のならないどころの話じゃねえですわ!
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