異界と現世、淡い逢瀬のそのときを

男女のひとときの出会いを描いた、切ない幻想短編です。

ところは町田市小野路町、多摩丘陵。東京郊外の里山の空気感が肌に伝わってくるようなしっとりとした情景描写が素晴らしく、冒頭から作品世界に引き込まれます。

そして語り手のナミが、夜の坂道で出遭った和装の青年。
謎めいた彼との道行きの様子が淡々と描かれていくのですが、果たして彼が言う「鬼」とは何者なのか……。
あるいは彼女がいる側が異界なのか。
それとも彼がいる側が現世なのか。
はっきりした真相が曖昧なままにされているのが、また郷愁と抒情を誘います。切ない。
夢から醒めかけて、まだ微睡のなかにいるような……読後、そんな余韻が残ります。



…………というか、おそらくこれは周到にぼかされた新選組伝奇ものですね、はい。

おススメです!