第3話

 その男は「委員長」と呼ばれていた。彼は、北朝鮮という国の独裁者であった。

 委員長はある日、側近たちを呼び寄せて言った。

「おい、日本では今、核シェルターが爆発的に売れているらしいじゃないか。これはどういうことだ?」

「さあ……日本でも防衛意識が高まったということでしょうか」側近の一人が答えた。

「そんなわけないだろ! このスピードは明らかにおかしい」委員長はまくしたてる。「きっと日本はアメリカから我々を攻撃するという連絡を受けたんだ。その報復を恐れて核シェルターを用意しているんだろう」

「まさか……我々とアメリカは合意をしたばかりですよ」

「いや、間違いない! アメリカは我々がなかなか核を廃棄しないから業を煮やして攻撃を決意したんだ。やられる前にこちらから攻撃するぞ!」

「おやめください! そんなことをしたら我が国は終わりです」今まで反論しなかった側近たちも慌てて諌めた。

「バカ野郎! こういう時に使わなかったら何のための核だ!」委員長は聞く耳を持たなかった。「攻撃準備! 三沢、横田、横須賀! まずは日本の米軍基地を叩くぞ」

 側近たちは委員長の固い決意に、もはやこれまでと観念した。


 横須賀に向けて発射された核ミサイルは、大きく逸れて東京都心に着弾した。

 近藤翔太こんどうしょうたは無事だった。Jアラートが鳴ってすぐに核シェルターに入ることができた。

 一日ほど経過して、近藤はシェルターから出た。そこには荒廃した街の姿が広がっていた。どこを見ても瓦礫だらけで、人の気配はほとんどしない。いったいどれだけの人間が死んだのだろう。

 ――情弱どもめ、これがお前らの成れの果てだ。

 近藤は清々しい気持ちで粉々に破壊された街の光景を眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

核シェルター 知多山ちいた @cheetah17

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る