九月の雨

秋雨町には今日も雨が降る。今日のは、薄く香りのする雨だつた。

その雨がしとしと道の上を打つのに合わせて歩んでいくと、重い灰色の雨雲やら、塗料ペンキ落書きの文字が点々とした歩道橋やらが見えてくる。

それを潜つて暫く行くと、秋雨町の中心街に出る。私は居を郊外に立ててゐるので、者とは滅多に会わない。

其処そこには亜人ヱルフやら猪人オヲクやらが住んでゐて、他の町より僅かばかり人の数が少ない。先ほど私が「者とは滅多に会わない」と記したのは、其為である。

その中心街の西へ行くと商店街が有る。商店街には恐ろしく沢山の物が売つてゐて、それだけ人も溢れている。

私はその中の、ある飲食店レストランの二階の、居候してゐる河童に会いに来た。

河童の家は小ぢんまりしてゐて、あまり立派ではないけれども、そのかわりにきれいだつた。

「僕はminimalsitなのだ」と彼が云つたのを、私は今も覚へてゐる。

さて、私と彼が他愛無い話を続けるうちに、矛先は政治の方へ向いた。

「しかしね、ぼかァ人の政治と云ふものは、どうも信用出来ないね」

それは何故だい、今だつて此町は、上手く回つてゐるやうに見へるが」

そらァ、貴方あんた、貴方が見てゐるのが表のみであるからだよ。

 ちよいと裏の方に回つてみたらわかるがね、貧民街の面積や、核汚染の地域は一向に削減されてゐない。

 現市長がスロヲガンに掲げてゐた話とは、全く逆ぢやないかね」

雨は霧のやうに細かくなり、窓下の商店さへ見えなくなつた。

私は河童の話を聞く度に、嗚、やはり私は人間が嫌いなのだなあ、と思ふ。

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実験的短編集 山田 Ⓒ @yamada_maruc

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