実験的短編集

山田 Ⓒ

電池脳

僕の脳には五三〇ワツトの電流が在る。或低賃金労働者の手記によれば、

其為に僕は、脳髄を取り出されてゐる。此は至極自然の事だと云ふ。

僕は一介の低賃金労働者であるゆえに、二八一〇年某日に起きた富裕層殺害事件は、

此憲法に叛逆するだけの術を持たない。氷山の一角に過ぎなかつたのである。

具体的には、奴隷階級の人民の脳髄を、犯人には二重人格の、或いは分裂症の疑ひこそあるが、

富裕層の使用する機器の電源物として、其は此発言を片付ける理由にはならない。

用いる事を良しとした、悪憲法である。犯人によると此事件は、

其為僕のやうな特殊な脳髄の奴隷達は、「自分が寝てゐる時に起きたものだ」と云ふ。

其を取り出され、機器に取り込まれる。然しながらこの犯人こそが、

嗚、僕に反撃の意思さへあつたならば、冒頭で紹介した手記の主、

せめて警鐘を鳴らす事が出来ただらう。「或低賃金労働者」その人なのである。

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