少女は常に願っているー10

 学校から約三十分。スティリエの街から少し外れた森の中の家が彼女の帰る場所。

 日に日に暑さは増していくが、近くの湖から発せられるマイナスイオンがこの場所は心地良い。キラキラの太陽に負けじと輝く水面もリンカは好きだった。

 木々は風に揺らめき、悠然と夏の詩を奏でる。

 春の時とはまた変わったその色彩は、まるで彼等の心の色の変遷のようで。


「ただいま帰りました‼」

「あぁ、おかえり。いやにテンション高いね……」


 夏休みが訪れて嬉しいリンカと少々夏バテ気味のスレイヤ。

 リンカのそのハイテンション。充実していた時間に戻れるのだから嬉しさも一塩というものだろう。


「今日から夏休みかぁ……。どうだった、学校に通ってみて?」

「レイナさんとシャルア様のお陰でそれなりに楽しく過ごせました。ですが……」

「ですが?」

「やっぱり貴方様とお仕事をしている方が私は好きです‼ 今日も『あれ』あるのでしょう⁉」

「何で知ってるし……ま、最近は一緒に行けてなかったしいいか……」


 笑顔のリンカに呆れながらも微笑み返すスレイヤ。

 出会った頃と比べて、彼にも笑顔が増えてきた。ほんの少しではあるが。


「ふふ……楽しみですね……早く見たい……」

「どんどんおかしな方向に行っているような……いや、いつもと変わらないか」


 それは恐らくある種の精神安定剤なのかもしれない。

 あの日見た運命を忘れないように。そしてとてつもない恐怖に負けないように。


「貴方様」

「ん? どうしたのお嬢さん」


 キッチンに向かい、自分用のエプロンを身に付けながらスレイヤに呼びかける。

 呼ばれたスレイヤはリンカの方を向き、首を傾げた。


「私……貴方様に会いに来て良かったです」


 初めて会った時と同じような、それでいて今はどこか危うさが無いその笑顔。

 綺麗だった。それがたとえ、いつか必ず殺される女の子だったとしても美しかった。

「……僕も、感謝はしてるよ。色々な意味でね」


 思うところはたくさんある。まだ受け入れられないとこもある。

 だが、彼女の願いがどうしようもなく本物で、揺るぎようがないのも知っていて。


「そして早く殺されたいです‼ 他でもない貴方様に‼」

「……そうだね。君はそれが一番らしい」


 変わったことはたくさんある。

 二人は再会し、共に暮らし、学校にも通い、新たな交友関係も生まれた。

 それでも変わることがない、たった一つのものが二人にはある。


「……それでも、僕は」


 彼は守り続ける。今はまだ、そこが彼の拠り所で彼の生きる道。


「~~♪」


 そして少女は願い続けるのだろう。あの日見た答えが間違いのはずはないのだから。

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いつか殺されるその日まで 森坂 輝 @kalro1215

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