ディバイドマン

ばね

ディバイドマン

これは友人の友人から聞いた話なんですが…。


ディバイドマン、てご存知ですか?

あぁいや、別に何かのヒーローとかじゃないんです。


ここ最近、何かと対立煽りみたいなのがひどいと感じたことはありませんか?


「平成生まれと昭和生まれ」とか。

「文系と理系」とか。

「地方と都会」とか。

「男と女」とか。


あれ、実は全部ディバイドマンのせいなんです。


確かにご指摘の通り、こういう対立煽りってマスコミが仕掛けてるように見えます。

いや、実際表面上はそうでしょう。

理屈は簡単で、その方が視聴率を取れるからなんです。

次から次へとこういった番組が作られ放送されていますよね。

しかしよく思いつくもんだな、と思いませんか。

ろくでもない企画会議をしてるんですかねぇ?


違うんです。裏でディバイドマンが暗躍してるんですよ。


ディバイドマンは、50代くらいの太った男性だとも、小学生くらいの女の子だともいわれています。

明確な形がないんですよ。


彼(もしくは彼女)は、人々に忍び寄り、争いの種を蒔きます。


「これだから平成生まれはモノを知らないよな?」

「やっぱり文系は理屈でモノが考えられないよな?」

「田舎者にはこんなことわからないよな?」

「男って本当に女を理解してないよな?」


ディバイドマンに囁かれた人の反応は二つ。

「そんなことはない!」と反発するか「その通りだ!」と同調するか。

どちらも憤っているという点は同じです。


ディバイドマンの厄介なところは、この怒りの感情を誰かに伝えたくさせるという点です。

怒りは伝染し、同じ怒り、反発する怒りを誘発し、更なる大きな怒りによって争いが生み出されます。

これらの争いは、大きくなっていくうちに本質を見失い、その対立構造のみが争う意義となってしまうのです。


自らの蒔いた争いの種が十分に成長し、花開いた頃には、もうディバイドマンは影も形もありません。

争いの発端に確かに存在したこの無貌の怪人は、次なる争いを求めて彷徨いだしているからです。


ディバイドマンはいつから存在するのか、その正確なところは誰にもわかりませんが、一説には人間が言葉と文明を獲得したころから存在しているといわれています。

写真が発明され、映像的な記録が残るようになってからは、大戦を生きた時の為政者たちの傍らに、あとで振り返ると何者だったのかわからない人物が頻繁に映っていることが指摘されました。

そういった人物は、その国で戦争が起き、激化する頃になると決まってどんな資料でも存在を確認できなくなってしまいます。


こういった点から、歴史的な戦争の背景にはディバイドマンの暗躍があったとする人もいます。


なぜ、ディバイドマンは人々を対立させ、争わせるのか。それも誰にもわかりません。

ただ、私の想像を述べさせてもらうと、奴は人間の感情を食らって生きるモンスターなのではないかと思います。

人々の怒りや憎しみの感情が、奴にとってのご馳走なのではないでしょうか。


本質を見失った争いの後の喪失感を想像してみてください。

何一つ得るものはなく、残るのは虚しさと徒労感。

この喪失感こそ、我々の感情が奴に食われているということの証拠ではないでしょうか。


怒りはとても原始的な感情で、何かに怒りを感じることは本来健全な精神だと言えます。

しかし、ディバイドマンはこの本能的な情動を扇動する力がある。

我々に取れる対策は、怒っても本質を見失わないようにする自制心を磨くことなんでしょうかねぇ。


ただ、ひとつ問題がありまして…。



ディバイドマンの存在を知ってしまうと、どうあってもディバイドマンの煽る怒りの感情に抵抗できなくなってしまうそうなんです。

奴は、自分の存在を知った者の心に強く自分を刻み付けることで、その支配をより強固なものにできるそうなんですね。


だから、この話を聞いてしまったあなたも、もしかするととんでもない争いの引き金になってしまうかもしれませんね…。なんとも恐ろしい。



え?

じゃあなぜそんな話をしたか、ですって?


決まってるじゃないですか。








私がディバイドマンだからですよ。








…なーんちゃって!

どうです?ちょっとびっくりしました?そうでもない?

いやぁそんなワケないですよねぇ。


対立を煽る怪人、人の感情を食うなんてのは、やりすぎでしたかね?

陰謀論は世界中にあるし、面白いかなぁと思ったんですが。

理想はここで「ぎゃ~」ってあなたが飛びあがってくれれば完璧でしたよ。

つまらない話しちゃったかなぁ。

しかしまぁ即興の作り話としては悪くなかったでしょ?

碌な準備もなしで急に話を振るから結構頭ひねったんですよぉ?


いやぁ、私も話すってわかってればもうちょっと練ってきたんですがね。


でもなかなか面白いものですね。また是非誘ってください。

今度はもうちょっと面白い話を用意してきますから。


しかしなんですね、こういう不思議というか理解しがたいというか、都市伝説みたいな話はワクワクしますよねぇ。

こういう趣を理解できない感性の鈍い人ってのは、カワイソウな人ですよ。ねぇ?

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