第131話 おすすめ「どんでん返し」① 小説『イニシエーション・ラブ』


 小説を書く人、これから書こうという人なら、乾くるみさん作の『イニシエーション・ラブ』は読んでおくべきではないでしょうか。


 やはり、小説で「どんでん返し」といえば本作だと、ぼくは思います。



 あらすじは、こうです。


 主人公は、合コンでマユという女の子に出会い恋に落ちます。二人は付き合い始めるのですが、やがてその心はすれ違い始め……。



 まず、本作は恋愛小説です。推理小説ではありません。で、その恋愛小説としての完成度がかなり高いです。恋愛小説なんか読まないぼくでも、飽きることなくすらすらと楽しめました。

 そんなに厚い本でもないので、するすると読み進み、ラスト40ページほど。もう寝る時間だったし、どうしようかな?と思ったのですが、頑張って読破し、電気を消して寝ました。


 ──…………zzzzzzzzzzzzz。


 あれ? 寝入り前に、おかしなことに気づきました。


 あれ? おかしくないか?


「!!!!!!!!!!!!!!!!」


 飛び起きました。

「え? え? え?」


 あわてて机の上に置いてある『イニシエーション・ラブ』を開きます。

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁーーーー!」




 本作の凄いところは、普通に読めばその通りの話なんです。良質な恋愛小説。


 ところが、ラスト2行目に書かれたことで、話ががらりと変わります。いままで読んできた物語ががらりと変わるんです。

 この手腕は、すごい。




 ──なので、もう一度、頭から読みなおしました(笑)


 もちろん翌朝からですが。

 翌日の仕事は寝不足できつい、かと思いきや、興奮で変なテンションでした、とさ。




 この作品はあちこちに散りばめられた伏線も秀逸です。

 これはぼくの持論ですが、まったく気づかれない伏線は意味がないです。本作は初読の途中でも「ん?」と思う部分がいくつかあり、その伏線はなんと再読されて回収される仕組みです。



 これから読もうとする方は、是非、変な先入観をもったり、疑いの色眼鏡を通したりせず、まずは普通に恋愛小説をお楽しみください。


 ただ、この謎はちょっと複雑なので、おバカな人は気づかないままでいる可能性もありますから、初読後、よーく考えてください。




 ぼくは書き手として、キャラクターの動きを表現する、いわゆる戦闘描写的なものに力を入れて書いてきました。その過程で気づいたことは、面白い戦闘描写は、面白い物語の上にしか存在しないという事実でした。



 「ギャグ小説は、ギャグ抜きでも小説として成り立っていないと面白くない」と聞いたこともあります。



 伏線やギミック、そして「どんでん返し」も同じだと思います。


 そもそも物語として面白くないと、それらをどれほど見事に仕掛けても、作品としては所詮駄作になると思うんです。


 たとえば、映画『シックスセンス』で、あのオチだけを語りたいと思って少年の物語がおろそかに描かれていたら、果たしてそのトリックが明かされたとき観客はあれほどまでに驚いたでしょうか?


 小説『イニシエーション・ラブ』の「どんでん返し」は凄いです。が、それを成り立たせるにはまず、ベースとして恋愛小説の出来が高水準であることが必須です。



 ということでまず、「どんでん返し」の名作として紹介した小説『イニシエーション・ラブ』ですが、最初は恋愛小説として素直にお楽しみください。そこが真の、「どんでん返し」への入口なのではないでしょうか。




 この記事に関しては、近況ノートを書きました。作品の内容に触れるネタバレなコメントに関しては、そちらでお願いします。


https://kakuyomu.jp/users/zannta/news/1177354054922719489



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