2 赤と紺

電車が止まったので外を見ると、駅のホームがほとんど堤防に接している。

その向こうはもう海だ。

ずいぶん海に近い駅があるものだ。

少年が二人、乗ってきた。

12,3歳ぐらいかと見える。

紺シャツと赤シャツを着た二人の少年は、なぜか二手に別れ、赤シャツのほうが私の斜向かいに座った。

赤シャツから通路を隔てた、向こう側のボックス席に、紺シャツが座った。


私はいささか、不愉快になった。

通路の向こうのボックス席は4人分空いているのだから、そこに二人とも腰かければいいのに。

赤シャツが私の目の前の席に荷物を置いた。

そのせいで、私はその席に足を上げたいと思っていたのに、できなくなった。

先ほどから、長旅に疲れた足がむくんできていた。

赤シャツは坊主頭で、全体に肌が荒れている。

何か、知性か、体のどこかに問題を抱えているように見える。


「いったい何をしているのだ、こいつらは」

二人を見ていると、通路の向こうの席に座った紺シャツが、赤シャツをしきりにつついては、ヒソヒソと話しかけている。

そのたびに赤シャツは耳に突っ込んだイヤホンを抜いて耳を傾け、何か相槌を打っている。

どうも、嫌な感じだ。

通路の向こうの紺シャツは、素朴と言えば聞こえはいいが、どちらかというと粗野な印象だ。

常に落ち着きなく体を動かしたり、何かを思いついたように赤シャツの耳元にささやいたりしている。

赤シャツはあまり体や表情を動かさないが、それは落ち着いているというよりも、単に鈍いだけに見えた。

二人とも、しつけが行き届いているとはとても言えない。


私が想像するに、おそらく赤シャツが、精神か知性に何か問題を抱えているのだろう。

それで隣同士に座ると世話をしなくてはいけないから、紺シャツが面倒で、こちらの席に押しやったのだろう。

ただ、放っておくと赤シャツが暴れたりしかねないから、頻繁に声をかけているのだろう。

そういう説明で、私は納得することにした。

もっと悪い想像も頭をよぎらなかったと言えば、嘘になる。

しきりにヒソヒソ話をされると、ふたりがかりで息を合わせてこちらを襲ってくるのではないかという不安が湧いてくる。

襲われたら、おそらく今の私ではかなわないだろう。

二人にそのような知性が無いだろうことを祈って、私は前述の説明で納得することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ここは地の果て kc_kc_ @ndounganye

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る