第19話『本心』

「はぁあ……」

「デッカいため息だねえ。何かあったの? この和葉さんに相談してみなよ」

内之浦高校女子寮の一つである『翔宙荘』。その一室で、宇田川遥華はため息をついていた。

「決心して幼馴染みに告白したら、勘違いされた。買い物に付き合ってほしいなんて、そんな事でわざわざ呼び出す訳無いじゃん……」

「遥華。いっそのこともう一回買い物に誘って、流れで告白すれば?」

「喧嘩別れしちゃったのよう……」

「それは謝れば済むと思うよ。それとも、フラれるのが怖いの?」

挑発するような笑みを浮かべ、遥華を見据える和葉。遥華はむっとした顔になり、語気を強めて反論する。

「こ、怖くないし! なんていうか、アイツ鈍感だから、また前みたいにはぐらかされるのが怖くて……」

和葉は『ははーん』と何か納得したように笑うと、こう切り出した。

「分かった。遥華。アンタさ、ゴリ押しで告白してみなよ。幼馴染みくんがどういう性格か分かんないけど、やってみる価値あるんじゃない? 案外いけるかもよ?」

「ほんと? 嘘くさいんだけど」

「イケるって! 今までアタシがアンタにウソついたことあった?」

「……たぶん無い」

『じゃあやってみよう!』という和葉の言葉に押され、遥華は部屋を出た。






【話したいことあるから、翔宙荘近くの公園来て】


こんな文面が幼馴染み遥華から送られて来たのが昼前の事。

天田昴は、星天寮の自室で、スマホゲームに勤しんでいた。

「(何だ何だこんな時間に。アイツ今が何時か分かってんのか? 十一時半だぞ? そろそろ昼飯なんだってば)」

気怠げにベッドから起き上がり、ぐっと背伸びをする。

「……まあ、アイツが俺を呼び出すのって、結構重大って事だよな。行ってやりますかあ……」

そのまま部屋を出ると、ちょうど帰って来たらしい葵にでくわした。

「あれ、昴君どこか行くの?」

「ちょっと公園にな。遥華に呼び出された」

「もうお昼だよ?」

「昼飯いらないって榊さんに言っといてくれ」

「ええ!? あっ、ちょっと!」

後に残ったのは、呆然と立ち尽くす葵だけだった。






「よお。何か俺に急ぎの用事でもあったのか?」

昴を呼び出した張本人は、一人ぽつんとブランコに座っていた。

「ああ、来たきた。……そこ座りなよ。ちょっと遊ぼっか」

遥華に誘われるままに、昴はブランコに座り、ゆっくりと漕ぎだす。

「……最後にブランコ乗ったの、いつだったかな。確か、小二か小三だったかなあ」

ギコ……ギコ……と、ブランコの軋む音だけが二人の間を支配する。

「ね、昴」

「何?」

「もしあたしが、アンタのことが……好きだって言ったら、どう思う?」

唐突な質問に困惑する昴。彼はしばらく考えた後、ゆっくりと口を開いた。

「まあ、そりゃ嬉しいよ。え、何。遥華さんもしかしてひょっとしてだけど、俺のこと好きだったりするの?」

はたから見れば完全に勘違い系男子だが、この二人に限っては____________

「…………うん」

________どうやらそうでは無いらしかった。

昴は優しく笑うと、顔を赤らめ俯く遥華の前にしゃがみ込み、優しく言う。

「俺はコミュ障だ」

「否定しないけど、それでも良い」

「俺は頼りないぞ」

「そんなのウソ」

「彼氏らしい事なんか出来ねえけど」

「別に気にしない。昴と一緒なら」

「浮気が怖くないのか?」

「縛ってでもあたしだけを見させる」

彼女の目は真っ直ぐ、昴だけを見つめていた。

「……待って。すげえ良い雰囲気なんだけどさ、俺昼飯食ってないんだよね。寮にはいらないって言ってきちゃったし」

「あたし奢るよ? 食堂行こっか」

「いや待て。最初くらい俺に奢らせてくれよ。彼女の遥華さんは素直に甘えなよ」

遥華の顔が、茹でダコの如く真っ赤に染まった。羞恥心が頂点に達した彼女は、昴をペチペチ叩くが、昴は気にしていないようだった。

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若人は空の彼方を目指す 神楽旭 @kagura-Asahi

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