『幸せの形』
いとり
幸せの形
私は〝幸せ〟というものを求め、神社へと足を運ぶ。
会ったことも、見たことも無い
その不確実な存在に懇願する為に。
軽く一礼をし、大きな鳥居を潜る。
祈りの前に水で手を清める。
いつもなら省略する作法も
何故か、今回は全て行っいた。
いくらかを賽銭箱に投げ込み、
私は見えない〝存在〟を見つめる。
二礼四拍手で手を合わせ
(幸せにしてください……)
と、願う。
――当然、何の返答も無い。
無意味であろう時間をしばらく過ごし、
再び、頭を下げ、閉じていた目を開く。
しかし、そこに映るのは
やはり〝同じ世界〟だった。
少しでも、目を開いたら異世界ファンタジーとか思った自分が
恥ずかしい。
『現実はそんなに甘くない』
そんな、自分の一番嫌悪する言葉が
頭の中を駆け回る。
何を真剣に願ってんだと
期待から現実に戻った私は
帰りの鳥居は素通りをする。
そして、私はその帰りに死んだ。
スマホ運転というただの事故死。
その運転手は、
私の重さを取り去ってくれたかの様に、
高く、そして軽やかに
宙に舞い上げた。
背中に広がっていく生暖かい温度が
とても気持ちが良い。
遠のいていく意識の中、
目に映る晴天を見上げ、
私は初めて、感謝を云う。
(――願いが、叶った……)
と。
『幸せの形』 いとり @tobenaitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます