神隠しの正体は

桜庭みゆき

神隠しの正体は

 わたしが物心ついた頃からすでに「神隠し」と言われるような出来事が、わたしの住んでる町や近隣で起きていた。


「神隠し」というと、小さな子供がある日忽然と姿を消す、というイメージがあるのだが、わたしの住んでる町やその周辺では、若い女性だけがいなくなるのだ。


 ある日忽然と姿を消し、二度と帰っては来ない。


 何かの事件に巻き込まれたのか?そうかもしれないけれど、未だに解明されていないのだ。


 今でも毎年のように、若い女性が忽然といなくなる。


 段々と、昔の人の言うような神隠しなどとは思えなくなってきた人たちが、この町の中や近くに、殺人鬼がいるのではないか、と噂するようになってきた。


 殺人鬼?そんなものが居るのなら、有能な日本の警察が野放しにするわけがない。


 しかし、神隠し、いや行方不明となった女性は、誰一人、遺体となって見つかることがないのだから、警察も調べようがないのだろうか。


 わたしが知っている限りでも、もう数百人もの行方不明となった女性がいるのである。


 殺人鬼だとすれば、通り魔のように突然襲われるとか、突然拐われてしまうということなのだろうか。


 それ以外に考えられないのは、その行方不明となった女性たちに共通しているのは、そんな怖い人物とは関わった形跡が全くないというところだ。


 交際をしていた相手が殺人鬼なら、すぐに捕まるだろう。


 まるで手掛かりがないのである。



 普通に働いて、普通に高校や大学へ進学し、普通の人と交際をしていただけの人たちが、突然姿を消したのだ。


「また殺人鬼に拐われた」


 行方不明の女性が出る度に、町の人たちはそう言うようになった。


 怖い。


 わたしもまだ若い。いつそんな目に遭うかと思うと、毎日が怖くてたまらない。


 噂は段々とリアルなものになっていく。


 殺人鬼は、殺人鬼とわかる顔をしていない。普通の人間で、ある日突然、豹変し、何処かで殺害してしまうのだ、と。


「怖いよ」


 わたしは今日も彼にそう言う。


「大丈夫だよ。僕が守るからね」


 わたしには優しい彼氏がいる。彼が守ってくれるから安心していいのかもしれない。他の人と関わらなければ、殺人鬼と接触することもないのだから。


「大丈夫だよ。殺人鬼は他にはいないから」


 優しい彼の言葉。


 優しい彼の……。


 完

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