おまけ

♡53 3種のアスパラ王子/『カルボナーラ姫、結婚しましょう』寝起き夫は怖い人

 気持ちよく眠っていると、カタコトと騒がしい音が聞こえてきました。

 なんだろう?

 不思議に思って、そっとそっと忍び足で歩きます。

 カタコト音は、どうやらキッチンから聞こえてくるようですよ。


「ややや!」


 なんということでしょう。

 我が家のキッチンに、アスパラガスがいるではありませんか。

 とっても、とっても大きいのです。

 そうですね、だいたい、冷蔵庫くらいです。

 良い柱になりそうな、立派なアスパラガスです。


 そのアスパラガスさんが言いました。


「見つかってもーたっ」


 どうやら焦っているようです。ブルブルと震えています。

 しなるように震えているのです。


「おやおや、アスパラガスさん。うちのキッチンで何をしているの?」


 すると、アスパラガスさんは、


「料理のしているのだよ」


 と答えました。なので、


「何を作っているの?」と問いますと、


「ベジタボー王国の家庭料理、トマトお化けのスープだよ」


 とのことです。


「ややや。トマトお化けですとっ」


 これは驚いた。ぴょんっと跳びあがってしまいます。

 どれどれ。よーく見ると……

 たしかにヒロくん愛用の丸っこいお鍋に、たっぷり真っ赤なスープが入っています。どろどろしていて、ちょっとマズそうです。


「アスパラガスさんは、トマトお化け、食べるのですか?」

「いえいえ。これは姫に差し上げるのです」

「姫ですとっ」


 あらあらあら。お姫様がいるのね。

 会いたいなって思っていると、アスパラガスさんはベコリと二つに折れると、先っぽをこちらに向けて言いました。


「カルボナーラ姫。お迎えに上がりました。どうか、ベジタボー王国の王子である僕と結婚してください」


 プ、プロポーズです。

 でも、待ってください。


「王子、王子。あなたは間違えていますよ。わたしは」


 と、ここでいきなり新たなアスパラ登場です。

 ドーンと音がして、キッチンに飛び込んできたのは、ホワイトアスパラでした。


「待て待てーい。我こそがベジタボー王国の王子、ホワイトであるぞ。グリーン、貴様はすっこんどれ」


「なにぃぃ。僕こそが正統な後継者、ベジタボー王国の王子、グリーンだ!」

「愚かな。世界の主流はグリーンではなくホワイトである。甘味が違うのである」


「かちーん。世界とは大げさな。お日様たっぷり、グリーンこそがアスパラガスの本領と言うものだ。なんだ、もやし野郎め」


「ぬぬぬ。誰がもやしだーっ」


 アスパラガス二本が激しいバトルを繰り広げ始めました。

 べちーん、ばちーんとキリンのケンカのように、長い体を互いにぶつけあっています。いずれ、ボキリと折れることでしょう。早くとめなくちゃ。


 でも、一番気になるのはカルボナーラ姫のことです。

 彼らは間違っているのです。わたしは、


「おい、グリーン&ホワイト」


 おっと。また新たなアスパラガスの登場です。

 彼(?)はマントを羽織っています。ちょっと他とは違う雰囲気ですよ。


「時代はパープルなのさ。ユーたちは古いんだよ」


 彼はなんと、紫アスパラガスさんでした。

 アントシアニンがたっぷりなんだそうです。


「お、お前は、パープル」


 グリーン&ホワイトが同時に驚きます。


「ちょっと珍しいからって調子に乗るなよ」


 こう言い返したのはグリーンです。


「そうだ。だいたい、お前は茹でると緑になるじゃないか!」


 ずきーんっ。パープルが動揺しています。

 どうやら、気にしていたようです。


「ちょっと、ちょっと。三人とも」


 わたしはやっと説明します。


「かな子ですぞ。カルボナーラ姫はべつの星にいます。ここは地球です!」


 そうなのです。カルボナーラ姫は腹違いの妹の名前なんです。


 でも、「ええーっ」と、アスパラガスさんたちは大騒ぎです。

 間違えたぁ、大変だぁ、と部屋中をぐるぐる回って走ります。


 そんなこんなしていると。


「なんだぁ、うるさいぞー」


 あらまぁ、ヒロくんが起きてきました。

 ヒロくんは、アスパラガスさんたちを見つけると、


「わーい。アスパラガス大好きだ」


 と喜んで、生のままバリボリ食べてしまいました。

 なんと恐ろしい人でしょう。

 かな子は、恐怖で震えたのでした。


「……という、夢を見ました」


 お正月、「初夢は見ましたか」と訊ねると、妻のかな子さんは、とっても怖かったんですと言って、語ってくれたのです。


「そうそう」

「なんです、かな子さん?」

「トマトお化けのスープも、ヒロくん、一気飲みしましたよ」


 うげっ。なんだか胸やけがする情報です。


「それよりも、お雑煮食べましょうね」

「はい、食べましょうね。おもち、二つでお願いします」


 びろーんとおもちが伸びる。

 かな子さんは、怖い夢を見たけれど、とってもゴキゲンです。


「ふぅ、お腹いっぱいね。そういえば、ヒロくんは、どんな初夢でした?」

「ああ、覚えてない……かな?」

「ふぅん。つまんないの」


 本当は覚えているけれど、言いません。

 ミニチュアかな子さんが誕生していて……って、秘密、秘密……

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