♡25 いっしょにバスタイム 1/『いやん、ひどいです』泡で仲良く遊びましょう

 パシャパシャ。

 水をはね飛ばす音。その音にルンルンふんふんと鼻歌が重なる。


「ツーン、ツーン、ツーン。わーい、デーモンです、デーモン」

 大はしゃぎしているのは、妻のかな子さんです。

「ヒロくん。『悪い子はいねーか。いたら皮剥いで食っちまうぞ』って言ってちょうだい」


 こわいな、デーモン。


「そんなおっかないこと言いませんよ。もう……」

 僕はシャンプーが目に染みて、さっきから何も見えません。

「ちぇっ。じゃ、こんどはねぇ、じゃじゃーん。モヒカンっ」

 ぷぷぷっと笑い出す。楽しそうで何よりだけど、そろそろ終了してほしいです。

「ぐいぐい。はいっ、オールバック。あ、七三にしてみようかな」


 ああ、もう、どうぞご自由に。

 今夜は一緒にお風呂へGOだったんですけどね。僕、遊ばれてます。


「ヒロくん、めめ開けてよ。見てよ、七三。かしこそうよ」

「目、開かないですよ。泡あわですもん」


 顔を洗っても洗っても、だらって泡がすぐ垂れてきます。ううっ。ゆっくりお風呂に入りたいです。手足を伸ばしたい。僕はちんまりした格好で大人しくしているしかなく、とっても窮屈で嫌なのです。


「かな子さん、もう上がろうよ。ふやけちゃいますよ」

「なんで? まだ、指がしわしわになってませんぞ」

「もうじき、しわしわになりますって」


 やだもーん、と妻。

 それから、ぐいぐい僕の頭から泡をとっているようすで。


「見て、ブラジャー」

 えっと、何やってんの。

 まぁ、だいたいイメージできますよ。お胸に泡のっけたんでしょ。

「もう、なにふざけてんですか」

「ちょいちょい。見て、目玉焼き!」


 ……え? なにやってんの。


「あの、変なことしてないでしょうね。ダメですよ、かな子さん。清楚に生きて行こうよ」

「反対も目玉焼き!」

 ええっ。何やってんの。僕は痛いのも我慢して、目を開ける。

「あ、ひざね」どこだと思ったかは沈黙を貫く。

「うん、おひざで目玉焼きぃ」


 僕はがばっと湯船に身を沈めた。それから浮上。


「もう、おしまい。シャワーで流して終わり」

「ええっ、まだ泡プリーズ」

「もうダメです。ほら、出た出た」


 だいたい二人は狭いですよ、このお風呂は。のびのび入りたい。足伸ばしたいし、背伸びしたい。だらぁ……て、死んだみたいに入浴したい。


「はうぅ、つまんないのぅ。ヒロくんはノリが悪い。しんちゃんは――」

「ああ、知らない名前ださないで」


 誰やねん、しんちゃん。男か。男なのか。僕は深呼吸してから、シャワーを浴びる。ついでに、まだ浴槽で丸まっているかな子さんの上にもシャワーをかけた。


「ぶへっ。いやん、ひどいです、ヒロくんっ」

「泡を落としてあげたんでしょ。ほら、もう出てください」


 ぶふぅと文句たらたらながら、かな子さんは立ち上がる。

 と、つるん。


「ぎゃっ」

「ちょっと!」シャワーヘッドぶん投げて、手を伸ばす。で。


「ヒロくん、壁ドンですか!」

 きゃはっと笑う妻。

 そんな場合ですか。危うく頭をタイルに打ちつけるところでしたよ。

「もう、危ないんだから」


 はぁと、ほっとしてため息。

 すると、ついっと彼女の指が僕の鼻にさわる。


「ふふっ。ヒロくん、かっこいい」


 こんな体勢で言わないでほしいな。

 僕は目をそらして、はぁと、再度ため息。


「もっさり度が下がってますからね、水に濡れると」


 おおっ、とかな子さんはパチンと手を打ち鳴らす。


「ぺちゃんこね、髪。ぺっちゃんこ。でも、もふもふヒロくんも素敵よ」

 そんな、もふってますか。そろそろ、髪切りに行こうかな。

「さ、冷える前にあがりましょうね」


 ざぁと残りの泡を流す。

 妻の手が伸びてきて、シャワーを掴もうとするが渡さない。


「ぶぅ、貸してよ」

「ダメですよ、遊ぶから」

 ケチですのぅ。ゆうくんは、と言い出すので、脇腹を触る。

「ぎゃう、くすぐったいです」

「ほら、流し終えましたからね。さっさと出る出る」


 ――2につづく。

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