♡21 二人でクッキング 1/『ピラフ盛りつけまーす』妻は陽気に腰振りダンス

 ピーヒャランララァ。


「ヒロくん、炊飯器さんが出来たって言ってます」

「炊けましたか。では、確認をよろしく」

「イエッサーっ」


 ピシッと敬礼ポーズの妻。今日は二人とも休日なので、ランチをクッキング中です。かぱっと炊飯器を開ける音。


「ヒロくん、なんかマズそうです」

「ええっ」僕はしゃもじ片手に近づく。

「大丈夫ですよ。混ぜ混ぜしたらいい感じです」

「ほほう。わたしがやりましょう」


 ビッと手を出すので、「はい」としゃもじを渡す。


「熱いですからね、気を付けて」

「イエッサーっ」


 底からすくって切るように混ぜる。本日は炊飯器でピラフを作ったのです。刻んだ玉ねぎと冷凍のシーフードミックス。それにコンソメスープの素などの味付け。これらを入れて、スイッチ、ぽん。油を使わずにヘルシーピラフの完成です。


「うんうん。ヒロくん、混ぜるといい感じです」ぐっと親指を上げる妻。

「あとはレタスと?」

「チキンソテーですね。もう焼けますよ」


 僕はフライパンをのぞく。こんがりいい焼き色だ。


「皮もパリッと焼けましたよ」

「パリッとパリッと」

 妻は上機嫌で腰振りダンスまで始めた。

「盛り付けはどうしますか」フリフリしている背に声をかける。

「ワンプレートでひとつにします?」

「くまボン! くまボンのお皿にしましょう」


 最近買ったばかりのくまボンの平皿。全体がくまボンの顔になってるんです。これ、いいお値段でした。さすが天下のくまボンですね。割らないように気を付けないと。


「じゃぁ、かな子さん。ピラフをこれに」

「イエッサー」


 妻はダンスをやめると、ぐぐぐと集中して眉間にしわを寄せる。

 慎重にゆっくりと皿にピラフを盛りつけていき……


「ヒロくん、なんか変です」

 肩を落とす。

「どれどれ。うーん……」


 たしかに下手ですね。どうしたものか。

 僕は彼女の背に腕を回して、しゃもじを握る手に自分の手を重ねる。


「こう……、ちょっと山のようにしてですね、片側に寄せて」

「ほうほう」

「で、ここにレタスのスペースとこっちにチキンを」


「ははん、なるほど」くるっと首を回すかな子さん。

「これはわたしのにします。ヒロくんのは、こちらを参考にひとりでやります!」

 やる気満々。

「じゃ、お願いします」


 テーブルにある、くまボンのお皿。これを彼女に渡そうとしたら――


「うわっ。危ない!」

「おふっ。ギリギリセーフです、ヒロくん」

 やれやれ。うっかり割るところでしたよ。

「はい、今度こそ、渡しますよ。どうぞ」

 両手で持って、しっかり手渡す。

「イエスイエス! ピラフ、盛りつけまーす」


 僕の手本を見比べながら、ちょいちょいとしゃもじを動かす。そんな妻の姿を横目で確認しながら、僕はチキンをカットしていった。すると。


「ヒロくん……」

 沈んだ声。

「どうしました?」


 ううっと残念そうに振り向いた手には、あららな一皿が。


「かな子には盛り付けの才能がありませなんだ」

「そう……、ですね」

 がっくり。しょぼぼーん。かな子さんは、お先真っ暗な顔をする。

「おかしいなぁ。カレーやおせちは上手なのになぁ」

「ワンプレートは難しいですね」


 というか、たぶん皿がくまボンだからハードルがあがってる気がしますけど。ただの白いお皿なら、こうも、へんちくりんには……たぶん、ねぇ。


「はぅ」

 暗い顔のかな子さん。僕はそっと彼女の手からお皿をもらう。

「はいはい。これにレタスとチキンを乗せれば完成ですよ」

 ちゃちゃっと仕上げです。

「おお、素敵に見えますね」

 かな子さんは大喜び。元気回復。キラキラした目で僕を見る。


「完成です。わーい」ぱちぱちと手を鳴らして、

「さぁ、食べましょう、食べましょう。わたし、食べるの得意ですよ」


 うきうき。軽い足取りでテーブルに着席です。


 ――2につづく。

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