かな子さんモテモテ 編
♡19 アイスよりも甘いもの 1/『ソフトクリプリーズ』夫婦でショッピング
「はぅ、疲れましたなぁ」
どさりとベンチに腰を下ろす妻。両手にはパンパンに膨らんだ買い物袋などなど。今日は夫婦でスーパーにやってきたのですが、なんと特売デイ。ポイントも十倍ということで張り切って買い物をしてしまったのです。
「ちょっとまとめ買いしすぎましたね」
お肉もたんまり。冷凍する予定ですけど、はたして冷蔵庫に入るかどうか不安です。ついセール熱に煽られてしまいました。
「かな子さん。ぼぉっとしてますけど、大丈夫ですか?」
僕は心配になって訊ねた。彼女はすっかり疲れ切ってしまったようで、うつむき加減で肩を落とし、パンプスをはいた足はびろーんと前に投げ出されている。
「ダイジョブですよ。ちょっと休憩してるだけです」
そう言いながらも、はふぅと大きく息を吐き出す。ぐったりしかかっていますね。でも、荷物はたくさんあるので、彼女の手も必要。だから、元気回復してもらわないと、ということで。
「アイス買ってきましょうか。あっちで売っていたはずですよ」
僕は右の方を指さした。洋菓子の店舗が入っていて、アイスもそこで売っている。この提案に、妻はばっと顔を上げると、きりっとした表情で僕を見上げた。
「ソフトクリが食べたいです」
「ソフトクリームですか?」
大きくうなずく。
「ソフトクリの普通のやつがいいです」
「普通……、バニラ味ですか?」
またまた、大きくうなずく妻。
「わかりました。ちょっと待っててくださいね」
立ち上がり背を向けると、くいっとTシャツの裾を引っ張られてつんのめる。
「どうしました?」
ふり向くと妻の真剣な顔がありまして。
「ヒロくん。やっぱり抹茶があれば抹茶味がいいです」
「抹茶味のソフトクリームですか?」
こくりとうなずく妻……と、思ったら首を振り、
「いや、やっぱり普通で。抹茶じゃなくていいです」
「バニラですね」と念押し。すると、くぅとうなりだす。
「や、やっぱり抹茶がいいです。抹茶にします」
苦渋の決断という表情。気の毒に。なので、僕は解決策を提示する。
「僕がバニラにして、かな子さんが抹茶ということでいいですか?」
「と、いうと?」
「半分コにすればいいかと」
ぱあっと笑顔の花が咲く。
「ヒロくん、半分コしましょうね。そうしましょうねっ」
「はい、仲良く食べましょう」
妻はよほど嬉しかったのか、投げ出していた足をぴょんと浮かした。
「さ、買ってきてちょうだい。ここで、おりこうに待ってますからね!」
「はい、すぐに」と、行きかけて僕は振り返った。
「かな子さん。誰かに声をかけられても、ついて行っちゃだめですよ。ここで待っていてくださいね」
「なんですか、ヒロくん。ここで待ってるって言ってるでしょ。この子たちをちゃんと見張っときますから、安心してソフトクリを買ってきてください」
ぽんぽんと大量の荷物を叩く。ごっそりある買い物袋やその他もろもろの荷物に囲まれている彼女は、ちょっとした業者のようだ。
「荷物運んであげましょうかって親切に声をかけられても断ってくださいよ」
「むむっ。分かってますって。早く、ソフトクリ!」
「もし声をかけられたら、『わたしは結婚しています。今、夫を待っているところです。すぐに戻ってきます』って説明するんですよ」
「はいはい。ソフトクリの夫がいるって言えばいいんでしょっ」そして、ドンとこぶしで膝を叩くと、「ソフトクリ!」と強く主張。
「じゃ、買ってきますね」
僕はなんとなーく後ろ髪を引かれつつ、その場を立ち去る。途中で振り返ると、さっそく派手な二人組の男に声をかけられていた。ま、慣れてますけどね。ちょこんと座ってる妻はかわいいですから。
とにかく、急いでアイスを買って戻らないと。
僕は小走りでアイス売り場に向かった。
――2につづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます