♡7 怖い夢見ちゃった 3/『お仕置きします』妻はビームを発射した

 妻はトマトお化けに向かってビームを発射した。

『ひぇぇぇぇ』

 トマトお化けはじゅうじゅう焦げながら叫び、最後は地面に溶けて消えたそうだ。


「ビームですか」

「ビームです」


 ばっと両手を伸ばしてビームを再現して見せてくれた。

「こうやって、『かな子ミラクルビーム。びびびびびぃ』って」

「ほうほう」

「そしたら、『や、やられたぁぁぁ』って消えました」

 ムフッとちょっと自慢げな妻。

「すごいですね。かっこいいです」

 パチパチと拍手を送る。ますます妻は胸を張る。

「いいんです、いいんです。ちょっと頑張っただけですから」


 ――と、急に表情がくもった。


「どうしました、かな子さん」

「いえね」と僕を横目で見やり、

「ちょっと残念なことを思い出しただけです」

「な、なんでしょうか」

 緊張した。なんだか嫌な予感がする。

「いえね、ヒロくんがどこにも見当たらなかったなって」


 助けてぇと思ったのに来ないし。見事倒したぞって嬉しくなったのに、見てないし。どっこにもいないんですもの、あなた。


「で、でも夢の中での話でしょう」

 僕は重要な事実を提示したが鼻で笑われてしまった。

「いいんです。わたしの深ーい心の中で、ヒロくんが必要ないって思ったんでしょうから」


 ぐさぐさぐさ。血反吐を吐きそうになる。


「た、たしかにそうかもしれないですけどね」

 と、しどろもどろになりながら訴えた。

「僕にはかな子さんが必要ですよ」


 この必死さは多少、彼女の心に響いたようだ。


 かな子さんは、ちょっと口をすぼめると、

「ほう、わたしが必要ですかな」

 とすまし声。ちらちらとこちらをうかがう視線付きだ。


 僕はここでさらに力を込めて、

「はい、とっても」

 と強い一押し。すると、彼女は、

「ふうん」

 と、上から下へとじろじろと僕を検分しにかかった。

 それから、納得したのか、ぽんぽんを僕の頭を叩く。


「仕方ない子ですね。いいでしょう。たぶん、ヒロくんはわたしよりも先にトマトお化けに出会ってしまい、ジュースになったんでしょう」


「そうかもしれないですね。情けないですのぅ」


 血ジュースになったのか。

 どうやらビームを発射する能力が僕にはなかったらしい。しょぼぼん。


「まぁ、そう落ち込みなさんな、ヒロくん」

 ぱんと肩を叩かれる。

「いつものことです」

「いつものことですか?」


 かな子スマイル炸裂。ははぁ、なるほど。


「そうですね、気にしないでおきます。さて、もう遅いですか

 ら、かな子さん、寝ましょうか」

「寝ましょうか」


 にこっと笑顔。僕はホッとした――その瞬間。


「やっぱり、ちょっと怒ってますね、わたし」

 なんて彼女は言いだした。


「え、どうしてです?」

 どきりとして、横になりかけていた姿勢を戻す。

「だって、このへんがモヤモヤするもの」

 かな子さんは胸のあたりをさする。

「なーんか、このまま寝るには気が収まらないんです」

「そうですか。どうしましょうか?」


 時計に視線をやる。

 うん、二時半が見えてきましたね。寝ましょうよ、かな子さぁん。


「うむ、そうだっ」ぽんっと手をガッテン。

「ヒロくんを罰しましょう」


 ガーン。僕はどうなるのでしょうか。

 怯えていると妻はにやりと笑った。


「ふふふ。悪い子には重石の刑ですぞ」

「な、なにをするんです」


 身構えていると、とりゃぁーとタックルされて、そのまま押し倒された。

 ばうんとベッド上で跳ねる。


「重いです」


 上に乗るかな子さんに直訴する。しかし、

「重くないと罰になりませんからね!」

 とあっさり却下された。それから、


「グッナイ」


 彼女は、僕の上に乗ったまま寝てしまった。即寝。ぐっすり夢の中。

 やれやれ。今度は、いい夢を見て下さいね。僕は彼女の体に腕を回した。

 ……それにしても重いな。

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