ハイスペック園児 まさや君 其の5

あきらさん

第1話

 今は、お絵描きの時間。

 園児達が4人1組で机を並べて、夢中になりながら絵を描いている。

 私は、絵を描くのが苦手な子に声を描けたり、お絵描き道具を口に入れたりしないか注意しながら、皆の描く絵を見ていた。

 今回のお絵描きテーマは「動物」。園児達は各々に好きな動物の絵を描いている。


「ゆうき君は、何の動物を描いているの?」

「ボクはライオン! ライオン大好きなんだ!」

「あら、そうなの! 上手に描けてるわね! みどりちゃんは何を描いているの?」

「私もライオン! より子先生は、何が好き?」

「私もライオン大好きよ」


 そう言えば先日、ゆうき君とみどりちゃんは、家族と一緒に動物園に行ったという話をしていた。

 2人共、その時のライオンの印象が強かったのだろう。


「まさや君は何を描いてるの?」

「ボクはダンデライオン」

「ダ……ダンデライオン?」

「まさや君、ダンデライオンって何? みどり、そんなライオン見た事ないけど、普通のより大きいの?」

「より子先生、みどりちゃんに教えてあげてよ」

「ダ……ダンデライオンっていうのは、た……確か英語でタンポポの事よ。タンポポの花びらがライオンのたてがみみたいだから、そういう名前がついたらしいわ」

「へぇ~そうなんだ! より子先生もまさや君も物知り~!!」


 あまりにも意表をつかれたので、危うく恥をかきそうになった……

 まさや君恐るべし……彼には何時何時いつなんどきでも油断してはいけない……


「より子先生、違うよ。ボクが教えてあげてって言ったのは、そういう事じゃないんだよ」

「ど……どういう事? まさや君」

「全くしょうがないなぁ、より子先生は。ゆうき君とみどりちゃんもちゃんと聞くんだよ」


 一体何の事かしら……?

 ダンデライオンは間違ってないと思うんだけど……?


「良いかい! 今のはね、って言うんだ」

「「三段オチ!?」」

「そう。ゆうき君がライオン、みどりちゃんもライオンっていう同じ流れが二度続いたでしょ? その二つを振りにして三段目で落とすのが三段オチ。より子先生、これは笑いの基本中の基本だよ。天丼やスカシと同じくらい、笑いを表現する上で重要な技術なんだ。こんな事も教えられないようじゃ、より子先生はまだまだ勉強不足だね」

「すご〜い、まさや君!! 何かまさや君が先生みたい!! みどり、大きくなったらまさや君のお嫁さんになる!!」

「みどりちゃん。将来、ボクのお嫁さんになるには、IQ150以上は必要だからそのつもりでね。何か別に卓越したものがあるなら、その時にまた考えてあげても良いけど、ライバルは多いからとにかく自分磨きを怠らない事だね」

「わかった! みどり、いっぱい勉強する!!」

「みどりちゃん。勉強はバカな人間がする事なんだよ。だから勉強はしない方が良い。生きるって事は、もっと大事な事がある事を知るんだ」

「わかった! みどり知る! いろんな事たくさん知る!!」


 私も勉強させていただきます、まさや先生……

 小松崎 より子24歳。

 まだまだ未熟な保育士ですが、勉強より大事なものがある事を、まさや君を通じて知っていきたいと思います……

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ハイスペック園児 まさや君 其の5 あきらさん @akiraojichan

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