2016年 6月

第8話 一生の思い出

「さーて、そろそろ文化祭と体育祭だからなー合唱なに歌うか決めて、練習しないと間に合わないからなー。二組なんてもう練習始めてるぞーー?四組も早く決めて練習始めましょう。じゃーお前らーなんか歌いたい歌あるかー?」

 先生が促す。

「なんでもいいぞーないなら班で話合って、黒板に書きに来るという形で決めるぞーー」

 誰もなにも言わなかった。

「じゃー班で五分ほど話し合ってー。」

 結局班で決めることになった。

「はっきりしないクラスだなー」

 思ってたことが口に出てしまった。

「このクラスのトップはあんたでしょ」

「おっと、そうでしたーー…先が思いやられるわー」裕希菜に聞こえていたらしい。痛いとこを突かれた。

「しゃーなに歌うか決めようぜ!!なんかいい歌ないかー?」後ろを向いて班のみんなに問いかける。

「んーーーーー…合唱曲だろー?あれはどうや!拝見〜この手紙〜って歌詞のやつ、なんだっけ」

「俊佑ーーそれ卒業ソングじゃないのー?…あれ?違ったっけ?」蒼が不思議そうな顔をしながら言った。その曲が卒業ソングか卒業ソングではないのか、が分からなかった俺は何も言わずに黙っていた。

 すると裕希菜が俺の肩をポンポンと叩いて言った。

「うち、セカオワが歌ってるプレゼントって曲がいいなーいい歌詞なんだよね。どうかな!」

「裕希菜がセカオワのプレゼントって曲がいいんらしいんだけどどう?」

 班のみんなに聞いた。

「いいんじゃない?」

「いいやん!」

「ゆーちゃんがそれがいいなら!!」

 みんな賛成らしい。

「じゃー俺らの班はこれで決定なー!」

 他の班も続々決まったらしい。それに気づいた先生が話し合いをやめさせ各班に聞いていく。そして出た意見を黒板に書きはじめた。


 一班→COSMOS

 二班→プレゼント

 三班→虹

 ………


 ここで先生の手が止まった。

「残りの三班はドラえもんとか校歌とかふざけてるから書かきません。ではー今書いた三つの中から多数決で決めたいと思いまーす。」先生はめんどくさそうに話す。クラス中からクスクス笑い声が聞こえてきた。

 多数決の結果は途中でクラスのみんなに裕希菜が説得したこともあり、裕希菜が選んだプレゼントを歌うことで決まった。裕希菜は四組で唯一ピアノを弾けるので、裕希菜がピアノを弾くことになった。

 裕希菜は「いぇーーーーい」と笑いながら喜んでいた。

 あまりにも嬉しそうだったので、「よかったな!がんばれーーー」と、一言声をかけておいた。この日は決めただけで時間がなくなってしまったので練習は出来なかった。


 それから合唱練習は毎日、クラスメイト全員が朝早く学校に登校し、朝の会までの十分間で練習したり、学校終わりに少し残って練習した。中学校最後の文化祭だけにみんな本気だった。

 ホームルームの時間では先生が動画サイトを使って他校の合唱の様子を見せたり。自分たちが歌っているところを動画で撮り、後で見せたり。時には音楽室を借りて、みんなで床に仰向けで寝転んで、お腹に手を置き、呼吸を意識しながら歌ったりした。普段めんどくさがりな先生だが、この時は先生も本気になり支えてくれた。クラスがまとまってる気がして俺は嬉しさを感じていた。そして練習が楽しかった。みんなも練習になるとたくさんの笑顔が見える。一人一人が頑張っていた。裕希菜は毎回の練習でミスをすることなく完璧にピアノを弾いた。


 この中学校では文化祭の次の日に体育祭が行われる。つまり、合唱の練習と合わせて体育祭の練習もしなければならないということだ。俺たちのクラス四組は全てにおいて優勝という目標を持って毎日練習をした。




 文化祭と体育祭まで残り一週間となったある日、五時間目のホームルームは校庭で体育祭のクラス対抗合戦の[挑戦]という競技の練習をした。


 この競技は全員一脚に始まる。全員一脚とはクラスメイト全員が横一列ならび、隣の人と脚を結んで笛の合図で前に数十メートル移動するという競技だ。一人でもタイミングを間違えると転んでしまう。そして一人が転ぶと全員が転んでしまう。まさにクラス一丸にならなければ前に進めないという団結力が試される競技だ。

 全員一脚で走り終えた後は男子、女子の順でムカデ競争をする。縦一列に並び、脚を結ばれ、校庭のトラックを半分回って帰ってくるという競技だ。

 女子が走り終わったあとはクラス全員で長縄跳びをし、長縄をどのくらい跳べたかを競う。全員一脚とムカデ競争と長縄跳び。すべてを15分以内で行う。全員一脚とムカデ競争はスピード勝負。長縄跳びは跳べれば飛んだだけ点数が入り、体力勝負になる。


 この日はみんなで長縄跳びの練習をすることにした。早速クラスメイト全員で飛んでみるが全く跳べなかった。多くて三回。

 体育祭まで残り一週間。俺たちは焦っていた。

「みんな声出そうぜー!」委員長である俺がみんなにを声をかける。

「いくぞ。せーーーの」

「一、二、三、四、五、六、七、八…」

 八回跳べた。

「いぇーーーーい」とみんな喜んでいた。

 だが隣で練習していた三組は、

「二十、二十一、二十二、二十二…あーーくそーーー」なんと二十回を超えていた。

「おいおいおいやべーーーじゃん!!やべーやべーーーーー」宏人が焦った声で笑いながら言った。

「しゃぁぁぁあ俺らの目標は五十回だ!五十回目標で飛ぶぞ!」

「よっしゃぁぁぁああ」

 三組を見てた全員が燃えた。

「真ん中詰めてー全員声出して飛ぶぞぉぉお!!いくぞーーーーー!」

「せーーの」全員が声を出す。

「一、二、三、四、五、六、七、八、九…」

 数分後には

「三十、三十一、三十二、三十三…いぇぇぇぇぇぇいいいいいいいい!!」クラス全員叫んで喜んだ。五十回という目標は超えることはできなかったが三組を上回った。

「お前たち二回目の練習で三十超えはすごいなー」

 先生も感心したようだ。

 この日は本番で必ず五十回飛ぼうと全員で約束して解散になった。

 次の日の練習ではクラス全員参加で校庭のトラックを回る全員リレーや、挑戦のムカデ競争、全員一脚の練習をしたが、いい成績は得られなかった。だが毎日練習して日に日に記録は伸びていった。合唱、体育祭の競技共に上達していった。


 そして一周間がたち。文化祭当日になった。

 

 朝、ショートホームルームまでの時間、声出しや最後の確認をする。最後に裕希菜から「指揮者に合わせて、落ち着いて、楽しく歌おう!」と呼びかけがあった。その言葉にみんな「おぉぉう」とか「やっしゃ!」と声を出して答えた。

 事前の抽選で俺たち四組は黄色団になり、ステージ発表は一年生から行われ、二年生が終了後、十分間休憩をし、四組は三番目に歌うことになった。

 体育館に移動する。生徒会である裕希菜がステージに立ち開会宣言をする。

 かっこよかった。俺は、リーダーになるのは嫌いではないが全校の前に立つのには流石に抵抗があった。だから会長や副会長にはならずに委員長や副委員長をやってきた。

 俺は好きという感情より、尊敬の目で裕希菜を見ていた。そして裕希菜の「開会を宣言します」という言葉で文化祭が始まった。

 一年生と二年生の発表は順調に終わり十分間の休みに入った。

「全員中庭行こう。最後の合わせしようぜ。」俺の言葉にみんな背を向けることなくついてきてくれた。そして校舎の中庭にある池を囲んで全員並び、歌う。

 裕希菜はみんなの歌声を聴き、最後にアドバイスを言った。

「みんな声出てるし、歌声も綺麗だと思う。うちも全力でピアノ弾くから。みんなも全力で歌って!」

「よっしゃー最後にみんな手を重ねようぜ〜」俺が手を差し出すとみんながその上に手を重ねていった。

「三年四組優勝するぞぉぉぉおおお!」

「オオォォォ!!!」全員の声がその場に響き渡った。

 十分間はあっという間に終わり、体育館にに戻った。二組、一組と終わり四組の番になった。ステージのひな壇に各配置に着く。

「それでは四組の皆さんお願いします。」

 指揮者が手を振り上げ。息を整える。そして。指揮者が手を振り下ろし裕希菜の伴奏とともに始まった。

 ……

 歌いきったが手応えはなかった。途中で指揮が早くなってしまい、テンポがズレてしまったのだ。

 誰も責めなかった。ただ重苦しい空気が、誰もがその場にいづらい雰囲気が流れていた。


 三年生の合唱がすべて終わった。


 結果は優勝にも、準優勝にも入っていなかった。重苦しい空気の中教室に戻り、みんな席に座る。そして先生が入ってきて話始めた。

「まーなー結果は残念だったけどな、まだ勝負は終わってないからな!明日の挑戦、絶対勝とうな」

 先生の言葉にみんなの目つきが変わった。


 ついに体育祭当日


 集合時間より早く教室に全員集まっていた。全員で円陣を組むためだ。頭には黄色のハチマキをしめて、みんなで円陣を組む。「昨日俺たちは悔しい思いをした。だがしかーし。今日は違う。今までの練習の成果全力で出して!特に挑戦。クラス一丸になって、絶対優勝するぞ!!!!」

「おおぉぉぉぉおおおお!!!!!」

 女子の声もよく響いていた。勝てそう。そんな気がした。

 

 校庭に移動し、競技が始まる。

 

 全員リレーでは学年二位を取った。俺たちなりに頑張ったと思っている。

 そして色別の綱引き。練習では他の色に散々負けてきた。本番前、俺は一年生、二年生のところまで行き、アドバイスをした。

「なるべく体制は低くして、後ろに倒れる感じで、空を見て。三年がせーのって声かけるから、そしたらその声に合わせて思いっきり引っ張って!」

 俺たちのテンションは最高潮だった。そして、一戦目、二戦目、三戦目すべて勝った。赤団に筋肉ムキムキの体つきの良い男子が多かったがそこにも勝ち、黄色団は綱引きで優勝した。

 そしていよいよ挑戦が始まろうとしていた。

 四組はテント近くに集まり最終確認をする。

「全員一脚も、ムカデも、縄跳びも、笛の音を聞いて、声出して、リズムよく動こう。俺らなら勝てる。絶対勝とうぜ。」

「まもなく競技を始めます。準備を始めてくださーい」放送が流れる。

 

 校庭に並び脚を紐で結ぶ。俺たちの笛の係は俊佑がやることになっている。

 そして先生の合図がかかる。

「よーーーーーーい」

 それに合わせて笛を鳴らす。

「ぴーーーぴ」

「パン!」開始の合図。

「せーの一二、一二、一二、一二…」

 一度も転ばずにゴールした。

 男子はすぐに紐をほどき、次にムカデの紐を足に結ぶ。俺が右の足を結んでいた時、裕希菜が左足を結んでくれた。

「お、さんきゅーー」動揺した。

「頑張ってこいよー」俺は燃えた。

 そして俊佑の笛の音で動き始める。練習では転んでばっかだったが、カーブでも一度も転ばなかった。そしてゴールする。待っていた女子にバトンを渡す。裕希菜の隣を通った時、俺は裕希菜の肩を叩く。

「次はお前だー頑張ってこいよ」

「はいよー!」

 そして女子がスタートする。今のところ学年一位だ。

 女子が回ってる間に男子は長縄の準備をする。「一二、一二、一二」声が近づいてきた。なんと女子も一度も転ばずに戻ってきたのだ。女子が紐をほどき終わり長縄に走る。

 ここまで圧倒的に一位。

 長縄に全員並ぶ。一年生や二年生が応援に来た。時間は残り八分間。

「よっしゃぁぁぁぁあ!!そんじゃ全員声出して、飛ぶぞ!!!!!」

「おぉぉぉおおおおーーーーーー」

「せぇぇのぉぉぉー!!」

「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十…………五十、五十一、五十二………………六十、六十一、六十二、六十三…あぁ。よっしゃぁぁぁぁあ!!!六十三回。」歓喜に包まれた。

「もーーやらなくてよくない?座ってみてよーぜーーー!」笑いながら宏人が言った。みんなすぐに座った。自信満々だ。残りの六分間は座って他の色の団の様子を見ていた。

 すると最後に青団が五十回を超えた。やばい…みんな心の中で思ってる。そう思った。俺らに減点などがあれば負けてしまうかもしれなかった。

 そして、

「パン!」終わったのだ。先生たちが集計にはいった。

 俺たちはその間ただ座って手を合わせ、祈る。

「たのむ…たのむ……」そんな声も聞こえてきた。

 そして、「ただいまの結果をお知らせします。」あたりがシーンとなる。

「一位、得点二百六点……………黄色団」

 その瞬間、男子は狂ったかのように騒ぎ、みんな立ち上がり、走り出した。女子は共に戦った仲間と抱き合い、そして泣いた。

 俺は一位と聞いた瞬間「いぇぇぇぇいいいいい」と叫びながら俊佑と宏人と校庭を駆け回った。今までで一番嬉しい瞬間だ。昨日の合唱のことなんてもう覚えていなかった。

 このクラスでよかった。この仲間と出会えてよかった。頑張ってよかった。そう思えた瞬間だった。

 閉会式で、俺たち三年四組は学年優勝したことを告げられた。この時間がずっと続いて欲しい。もう一回やりたい。みんなもきっとそう思っているだろう。


「ここに、閉会を宣言します。」

 この一生の思い出に残るであろう文化祭と体育祭は裕希菜の言葉で幕を閉じた。

 教室に帰りすぐに賞状を飾った。教室の後ろの壁の一番高いところに。先生が入ってきて驚いた。「おいおい、あんな高いとこに貼ったのか!まーなーお前たちよくやった!!すごいぞーーーーー先生全員に焼肉おご…らないけど、奢りたくなったよーーアハハ。感動したぞーー」教卓のところで話すのではなく、教室に入ってすぐ話し始めた。先生もよほど感動したのだろう。

 先生が話してる間にコソコソと裕希菜の近くに行き、「裕希菜ーおつかれ」と小声で言った。

「ありがとーめちゃ疲れたわー。」

「それなーーー」その時、裕希菜が顔を近づけてきた。

「うち、和亜樹がいなかったらこの文化祭と体育祭終わらなかったと思う。いいクラスになったじゃん」

「そ、そんなことーあーりますかねーえへへ…裕希菜にそう言ってもらえて嬉しいわー」ちょっとにやけてしまった…が素直に嬉しかった。

 この日学校が終わってから俺たちは打ち上げをした。みんなで焼肉を食べに行って、みんなで公園で遊んだ。公園で水遊びをすることになって、みんなで濡れた。たくさん写真を撮った。そこで蒼に話しかけられた。「和亜樹さーゆーちゃんのこと好きでしょ」

「…」

「やっぱねーーーずっとゆーちゃんの方ばっか見てるから絶対そうだと思ったーー」自身満々の顔で言ってきた。嘘をついたところで何もならなかったので素直に言った。

「まーそーだけどー裕希菜には言わないでおいて」

「はいはーーーい」口が軽いから心配だ。

 そして帰り道、俺と裕希菜は同じ方向だったから一緒に帰ることになった。

「和亜樹〜ちょー楽しかったねー!」

「ほんとそれなー!もう一回やりたいなー」

「おいおい!次は受験勉強でしょーー?」

「はぁーそうだー嫌なこと思い出させんなよーー」

「南高。行きたいんでしょ?頑張ろうよ!うちも応援してるからさ!!」

「まーー俺なりに頑張りますよ〜〜」

「うちは和亜樹のことマジで応援してるから!!てかうち、和亜樹と同じ高校行きたいな〜今日みたいにみんなまとめてくれて、頼りになるし!頑張って合格してね!!?」

「あーーーーーやる気出てきたぁぁぁあ!!俺頑張りまぁぁぁぁす!!!!」自転車を飛ばした。今すぐにでも告白したい気分だったが、やっぱり告白は出来なかった。今したら意味がない。逆に合格すれば告白出来る。と思い、勉強に励める気がした。こんなに俺を支えてくれる人他にいないなーーー心の底から思った。

 あっという間に家が近くなった。

「じゃー!また後で連絡する!気をつけてねー!ばいばーーい!!」

「うん!ばいばーーーい!」


 その夜のLINEで


 和「今日はありがとねー」

 裕「えー?何がー!?w」

 和「いろいろー!ありがとねー」

 裕「あーーうん!w和亜樹ー勉強!勉強!!ww頑張ってね👍」

 和「今からやりますよー!」

 裕「うん!じゃ!うちも勉強するから!頑張ろう!」

 和「はーーい!」

 裕「👍」


 今日撮った写真を見返す。裕希菜に対する好意の気持ちが強すぎて勉強出来なかった。俺はまたネットで勉強の仕方を検索していた。すると、朝四時に起きて勉強するといい。睡眠は六時間以上は絶対。と書いてある記事と、勉強を記録するアプリを見つけた。それを俺は明日からやろーと思いこの日は寝てしまった。








 なかなか寝付けない。今日はずっと幸せな気持ちだ。楽しかった。そんなこと考えてたらいつの間にか寝てた。


 あ、今また思ってたなー…今日何回思った事やら…













 絶対に。合格してやる。って

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