コーポレーション・オブ・ザ・デッド
ちびまるフォイ
腐臭ただよう素敵なゾンビ株式会社
2019年、なんやかんやあって世界はゾンビに包まれた。
人肉をくらい、感染拡大を広げるゾンビに世界は恐怖した。
――のは最初の数日だけだった。
毎年どこに需要があるのかわからないほど量産されるゾンビ映画で
すでにゾンビへの対策がばっちり済ませた世界にとって
今さら歩くゾンビなどなんの脅威もなかった。
街を歩くゾンビたちは、さすまたで捕らえられ、あっさりお縄についた。
一方で問題になったのはその処分方法だった。
「うちの子を燃やすなんて!! それでも人間!?」
「奥さん、残念ですがその子はすでにゾンビです」
「ゾンビだっていいじゃない! 歯を抜いて噛まないようにすれば無害よ!」
「引っ掛かれたりしても感染するんですよ」
「だったらベッドに固定させればいいじゃない!!
歯を抜いて、爪をはいで、動けないようにすれば問題ないでしょ!?」
「それなんて拷問……」
ゾンビの遺族たちは腐臭こそすれ、見てくれに遺族の面影のあるゾンビを
焼却処分されることには断固として反対していた。
結局、どうすることもなくゾンビは隔離されて放置され、
それすらもゾンビ人権的にどうなんだと問題視されはじめたころ。
「よし、ゾンビで会社を運営します!!」
俺という名の敏腕ビンチャービジネスメディアクリエイターが立ち上がった。
核廃棄物以上に処理に困るゾンビたちを一手に引き受けて、
小汚い服を脱がせてスーツを着せて社員として雇った。
「ふっふっふ。ゾンビだから給料も休みも不要だし、辞職も退職もない。
こんなに素晴らしい労働力に身を付けた俺はやはり天才だな」
だてに英検5級を大学生で取っただけははある。
さっそくゾンビに仕事をさせようと、
ゾンビ数ぶんのパソコンを用意して、簡単な文字入力作業を行わせることに。
「あ゛あ゛……」
「う゛ん゛……」
ゾンビたちには指示も出したし、作業方法も教えた。
けれど、のらりくらりと動くばかりでまるで使い物にならなかった。
「事務作業は無理か……。まぁ、これはわかっていたけど……」
だったら、営業をかけてみることに。
社員ゾンビたちはすでに無害化されているので、人前に出ても問題ない。
スーツを着させたのもそのためで、商品を持たせて1軒ずつ訪問販売させることに。
「訪問販売なら難しくないはずだ。インターホン押して突っ立っていれば、
あとは自動音声が商品の説明をしてくれるだろうし」
安心して31階の会社の窓から飛ばしたドローンで、ゾンビたちの様子を見ていた。
どのゾンビもちゃんと指示通りに1軒ずつ律儀に回っていた。
簡単な作業なら問題ないようだ。
安心した矢先、会社の電話がひっきりなしになった。
『ちょっと、あんたがゾンビコーポレーションの社員?』
「ええ、そうです。全自動卵粉砕機のご購入ですか?」
『違うわよ!! 腐臭まき散らして迷惑だって言ってんの!
自慢の勝負服ににおいが移っちゃったじゃない!!』
「す、すみません!!」
真夏の炎天下にゾンビ営業をかければ、
いくら人間用のスプレーでにおいを隠してもゾンビ本来の腐臭までは隠せない。
臭害をまき散らすテロ行為として近所から熱い苦情が届けられた。
「営業もダメか……。肉体労働なら使えるかな」
今度はゾンビたちを工事現場などに派遣した。
物を移動したり、運んだりする簡単な作業ならできると思った。
しかし、現場からはすぐに突っ返された。
「あんたンとこのゾンビ、やっぱりいらないよ」
「でも、文句ひとつ言わない労働力ですよ!?」
「ゾンビたちは急ぐってことがないだろ?
親方がいくら呼びつけてもゆっくり歩いてくるからおかんむりさ」
「そう、ですか……」
ゾンビに空気を読むことはできない。
シャワー中の女性の後ろからかみつくぐらいデリカシーはゼロ。
そんなゾンビたちなので、現場が急ぎで必要なものでもゆっくり運ぶ。
融通の利かない労働力はストレスをためるだけだった。
調子こいて始めたゾンビ企業だったが、すでに暗雲が立ち込めていた。
「どうしよう……このままじゃ、ただゾンビを引き取った物好きな里親じゃないか……。
なんとかして、ゾンビの有効活用法はないものか……」
一攫千金を狙ってアイドルオーディションにゾンビを応募して
出禁になったのもあり、ますます俺は追い詰められていた。
どんなに考えても、お湯の蛇口をひねったときに水が出る対策を思いつかなかったので
ここはゾンビの目線になって考えてみることに。
「うう……確かにこれはすごい匂いだな……」
体中にゾンビと同じ死肉をまぶして、会社の地下倉庫、ゾンビ格納先に足を踏み入れた。
ゾンビたちは行く当てもなくふらふらと歩いては、
「ああ」とか「うぅ」とか言っている。
それを見て、頭の中に何かがひらめいた。
「そうだ! これでいこう!!」
この日を機会に、ゾンビ・コーポレーションは事業内容を大きく変えた。
・
・
・
プルルルル!!
会社では毎日ひっきりなしに電話がかかってくる。
ゾンビたちは自分の机に備え付けられた受話器を取った。
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『もしもし? ゾンビさんかぇ?』
「あ゛あ゛」
『ちょっと時間できたからおしゃべりしたいなと思ったのよぉ。
実は明日、うちに孫が遊びに来るんだけどねぇ』
「え゛え゛」
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『もしもし! 聞いてよゾンビさん!! 彼氏にフラれたの!!』
「う゛ーー」
『私が必死に働いている間に外で女を作ってたのよ!! 信じられないよね!!』
「あ゛あ゛」
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『もしもし、ゾンビさん。ちょっと聞いてくれるかい』
「あ゛あ゛」
『実はさっき放送されていたアニメの22話が最高だったんだよぉーー!
主人公の親友と敵対したときにはじめて会うんだけど、そこでの会話が最高で――』
「う゛う゛」
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「ゾンビ・コーポレーションは、愚痴から悩みまでなんでも聞きます!
あなたの"誰かに話したい!"を解消しましょう!」
CM効果もあり、承認欲求で飢えまくりの現代人はますます電話をかけた。
今日もゾンビたちは受話器の向こうでうめいている。
\ ゾンビ~♪ コーポレーション~~♪ /
提供: ゾンビ・コーポレーション株式会社
コーポレーション・オブ・ザ・デッド ちびまるフォイ @firestorage
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