002 生存は因果性

[Broadcasting...]

 定刻を迎えたので放送を開始する。

 状況報告からいこう。4日前、GJ 1214 bにあったコロニーの探索中、GJ 3021 bに何か使えそうな物があるというログを発見し、そこへのワープドライブを行った。いい加減このハッカーみたいな生活を脱出するためにスキャナを直す必要があるからだ。

 結果から言おう。まだ見つかってない。

 コロニーの特性上、拡張を繰り返すことで人数超過を防ぐせいでバカみたいに広い。まあ、居住区にスキャナの部品が転がっていることは考えにくいから、ある程度は絞れる。

 現時点での成果をまとめると、

 探索開始30秒で見つけたいい感じの住居モジュール

 コントロールルーム

 倉庫(内部未探索)

 第1GCR

 デッドメディア50個

 とまちまちだ。まあ探索3日目だからこんなもんだ。

 今は探索を一時中断してこの放送をしている。システムが生きてるということは確認したので、検索に引っ掛かるかどうかを明日試すつもりだ。

 そうそう、実はあと10個くらいでグリーゼ近傍恒星カタログをコンプリートすることになるんだ。これまで調査してきた惑星は全て報告書に纏めてあるから、後でお気に入りの惑星のヤツを引っ張り出して発表しようかと思っている。多分、次にはヘンリー・ドレイパーカタログシリーズと思われるが、そうなると彼女Rainyと一旦接触ミートする必要がある。彼女がこの放送を聞いてくれてると話が早くて助かるのだが、あまり期待は出来ないだろう。何せ放送を行う奇特なヤツは私くらいしかいないだろうから。

 話を戻そう。

 コロニーの探索は5週間を予定している。だからこれから5回分の放送では探索しながら放送を行う可能性もある。これが何を意味するのかというと、放送の送信元が[Bolux F115 #SSBC4482]から[GJ 3021 b uc008 mcr]に変わるということだ。ホワイトリスト型の場合は、予め追加しておく必要がある。

 さて、コロニーの探索について述べたが、そもそもどうやってやるのかという方法についての言及をしていなかったため説明しよう。先に断っておくが、これから話すことはある程度技術的、理論的整合性を持っているが、完全とは言い難い。経験則から編み出された未完成なものであるということをご了承いただきたい。

 まず、そのコロニーがを確認する必要がある。できる限りコロニーに接舷する前に確証を得ておきたい。コロニーの生死の確認によって探索の難易度が大きく変わるからだ。確認方法は基本的には5つの方法から状態を判定する。

 ・IFF(識別信号)による判定。IFFシステムの稼働、基本的な情報BIの開示(IFFに成功した場合)、防衛装置の誤作動防止(Transporterの使用の必要性が無くなる)、正規ルートによるメインシステムへの連絡の試み等。IFFの必要性はそこまで高くなく(他で十分に代替可能、かつIFFの情報は信用性が高くない)、優先順度は低い。

 ・入港要請による判定。ドックシステムの稼働、気密状態の確認、部分的電力の供給、正規ルートによるメインシステムへのMAI主AIへのアクセス等。MAIのアクセスが重要。コロニー内での活動を許可するためのパスを発行するためには必要なプロセスであり、ないとシステムを騙すクラックかダウンさせる必要が生じ、手間が増える。

 ・情報開示要求による判定。アクセス権限、コントロールルームの稼働、コロニーの情報等。私が乗船している船が軍船であることから利用可能ではないかとの仮定をもとに手法が確立された。コロニーの設定によって開示される情報は様々だが、近傍惑星や交通の要所、商業都市、アステロイドベルト付近、軍駐留基地の場合は有効。運が良いとアドミニストレータ権限を入手できる。

 ・パスポート発行要請による判定。ほぼ全てのシステムの稼働をこれで確認することができる。何故かというと、このパスポート発行要求時、そのコロニーに存在する人間が1人であった場合(勿論防犯上他に様々な条件があるが割愛)Lv10パスが発行されることにある。

 ・システムの脆弱性を突いたハッキングによる判定。これはかなりハードな場合の手段の1つだが、使用頻度を見るに無視できない数なのでここに載せている。昔発見したデータメディアに保存されていたウイルスがかなり使い勝手の良いものユーザーフレンドリーなだったので、この手段が実用的なものになっている。これによってパスポート発行時と遜色ない権限を入手可能だが、仕様として自己修復プログラムを誤魔化すことは出来ない。そのため、探索できる時間は24時間と限定される。その間に正式な権限を入手することが望まれるが、それも安全性の保障は出来ない。

 以上の5つを組み合わせることでコロニーの生死を判定し、活動許可を得る。

 これらの手段が全て通じないときはざらにあるのだが、そのことについてはその時に説明しようと思う。

 次に、コロニーの探索方法についてだ。

 統計上、パスポートが発行できたとき90%以上の確率でI Search Youが利用可能であるため、それを活用することが基本的である。

 まず真っ先に確認すべきは、ハザードエリアの存在の有無である。

 これはLv4"観光者"でも利用可能なため、常にフィルタを起動しておく。

 続いて、倉庫内の情報開示要求である。

 宇宙建設基本法により使用しない物は倉庫に保管し、常にデータベースとの情報の合致を確認することが義務付けられているため、倉庫の情報が一番新鮮で信用性が高い。また同じ理由によりコロニー内での物の移動はロジスティックパイプで行われているため、それが生きている場合非常に安全に探索を行うことが出来る。

 そして、ロジスティックパイプが故障している場合、Lv6+"システムエンジニア"以上を取得しているならば自己修復システムを起動すると直る可能性がある。

 自己修復システムが稼働しなかった、あるいは直らなかったとき、倉庫から目当ての物を物理的に取り出す必要が出てくる。ロジスティックパイプの故障は末端部で多々あることだったらしい(ログファイルより推測)ので、その手のQ&Aすら用意されている。


 Q:外周部での作業を行おうとしたとき、エンドポイント付近のロジスティックパイプの故障を発見しました。自己修復システムの稼働は確認しましたが、直っていません。どうすればよいのでしょうか?(原文)

 A:ご質問ありがとうございます。そのような場合は、「システムコール」より「ロジスティクス」の項目に移動して頂き、「取り出し」をタップすると故障地点の付近のターミナルに転送されます。


 ターミナルが軒並み死亡していることはあまり考えられないが、そのコロニーがロックダウンされていたQuarantinedときはターミナルへのアクセスが難しい。そうなると倉庫に直接出向く必要が出てくる。

 まず、ハザードエリアフィルタをかけた状態で倉庫へのルート検索を行う。2か3種類ほどのルートが出るので、そこでシステムコールからプローブを射出させて探査を行う。帰ってくるまで待つのが重要だ。存在するかもしれない敵はそんなに馬鹿じゃない。

 勿論内部スキャンもやる。徹底的にやる。具体的には30分かけてオルト・ハインラインアルゴリズムを200回繰り返す。スキャンを何回も行うことでそのルートに存在するあらゆるものを検知し、周期を算出し、正常な状態を規定し、異常を発見することが出来る。

 さて、安全を確認したら倉庫に向かうのだが、そこでロックダウンの部分的解除を行う必要がある。扉をいちいち手動操作で開けてもいいのだが、敵と遭遇したときはそんな悠長なことは言ってられない。スキャンは安全性を高めてくれるが、決して保障はしない。ロックダウンの部分的解除(完全解除は時間がかかる)は幾つかの条件を満たしている必要がある。

 ・十分な時間が経過していること

 ・解除したい部屋が一回以上生物生存条件を下回っていること

 ・スキャン結果がグリーンであること

 ・解除したい部屋が独立していること(隔離システムの生存)

 ・Lv7以上の権限を有するものからの許可

これらの条件を全て満たしているのならば、解除したい部屋の付近のターミナルにアクセスすることで解除できる。Lv7というのは結構高めだが、Lv4とか5で隔離コロニーになんて乗り込みはしない。

 さあ、これで晴れて倉庫への道は開けた。後は行って、取って、帰ってくる―――なんてそんな甘い話は7年前に終わった。

 実は倉庫だってかなり危険地帯だ。宇宙空間での最悪の出来事をリストにするなら、火災やら減圧やらがあげられるだろうが、倉庫内の物が滅茶苦茶に動き回るのも恐ろしい事態だ。宇宙に慣性の法則を妨げる摩擦は存在しないから、レンチ1つとっても凶器どころかになる。そのため倉庫もアクセスがかなり限定される。というか、倉庫に何があるかはターミナルから簡単に確認できるし、取り出すのも簡単(システムが生きていれば)だからあまり開ける必要はないのだ。それでも開けたいと思うふざけたトレジャーハンター命知らずのために用意されているのかは不明だが、Lv6+以上の権限保持者かつ高度な電子機器を保持していない場合、又は軍所属であることが証明できれば(正式な理由を提示した上で)倉庫への物理的な侵入が可能になる。

 倉庫に入れたら、慎重に内部専用ターミナルまで進んで目当ての物を見つけ、取り出しを行う。ロックダウンを部分的に解除しただけのためコロニー全体に危険が及ぶ可能性のあるロジスティックパイプは勿論使えない。

 さあ、今あなたは背中に目当ての物を背負っていい気分になっている。だがそこで”船に戻るまでが探索”を忘れてもらっては困る。船に戻るときは、来た時と別のルートを通って帰らなければならない。先ほど言ったプローブと同じ理由で、驚異的な忍耐力でスキャンの魔の手を逃れ、執念が服を着て待っている敵がいることは――残念ながらまれに――あり得る。別のルートにいる可能性も勿論考えられるが、そいつはあなたを見かけるのは1回目の筈だから観察段階にある。敵はゲリラ戦を好むが、未知のものにいきなり襲撃をかけるほど短絡的ではない。それで本当に敵と遭遇せずに帰れるかはともかく。

 じゃああなたは運命の女神ビッチが微笑んで運よくドックまで帰ってこれたとしよう。しかしそこで安易に船に乗り込んだりしてはいけない。

 持ち出し許可は得たか?

 間違えて船外作業権限を取得しただけで船に足をかけたりしていないか?

 まあその足はレーザーで焼き切られているわけだが。

 そしてそれに気づく前に頭を撃ち抜かれるわけだが。

 システムを完璧に理解するんだ。守るべきルールを知らなかったで許されるほどコロニー管理システムは甘くない。

 そういった確認の漏れによる不要な被害を被りたくなければ――少なくとも私は御免だが――、するべきことのリストを作って全てチェックが入るまで迂闊なことをしないようにするんだ。

 これにて、コロニーの探索はひと段落つくことになる。

 だが、ゆめゆめ忘れるなよ、これは倉庫を探索するときの方法であって、正直この方法は幾つも得られるはずの利益を放棄している。トレードオフの天秤の片方にかけたのは命とスピードであり、もう片方には大量の利益が乗っているんだ。

それを回収するにはどうすればいいかって? そうだな、類まれな幸運と文字通り全てを使うエンジニア精神だ。クソだってシステムを騙すために使うんだ、”クソの役にも立たねえ”なんて言葉はこの際忘れておくといいだろう。

 おっと、もう放送終了の時間が近づいてきたようだ。次の放送は1週間後、[GJ 3021 b uc008 mcr]から行う。放送を終える。―――[EOF]

[Log archived 5546:9:4:20:00:08]

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