サリフォート公爵令嬢【夏男神の百合】と称えられるグネギヴィットには、悩みがあった。交際中の王太子ユーディスディランに求婚されているが、現公爵の兄シリンモールの病が重く、明日をも知れぬ生命なのだ。まだ幼い妹に全てを任せ、王太子妃となるか。女公爵として兄の跡を継ぐか――。男装の麗人は、決断を迫られる。
『緑指の魔女』を先に拝読して、結末を知っているというのもありますが。緻密に組み立てられた世界設定と人物描写に、安心感がありました。男性社会で気を張って生きる女主人公は好物ですが、彼女の周囲にいる一癖も二癖もある人物たちも興味深いです。
結果的に自分の生まれ持った責任を果たす道を選ぶグネギヴィットですが、その決意、傷心、新たな恋へ傾く心情の変化には、心を打たれました。
華麗な王侯貴族の暮らしの描写はお見事で……途中から、「宝塚、宝塚だわっ、これっ。どうしましょう💕」なオバハンになり果てていたことを白状します。
気丈なくせに自身の気持ちに鈍感なグネギヴィットと、朴訥さが魅力のルアンの恋の行く末にハラハラし、最後には、すっかり彼等を見守って来た衛兵たちの気分になっていました。ちょっぴり不憫なユ―ディスディランを含め、(一部を除いて)救いようがないほどの悪人がいなかったことも、物語全体を明るくしてくれていたと思います。
男装の麗人、身分差の恋、中世王宮もの、大団円がお好きな方にお薦めします。