5-3

 シモンリールの展墓を終えて州城に戻ると、グネギヴィットは晩餐の為に装いを改めた。

 上品に髪を結い、黒一色の慎ましいドレス姿で現れたグネギヴィットに、ユーディスディランは感嘆と安堵の入り交じった眼差しを向けた。

 喪服は女を美しく見せるという。恋心も、また然りか。焦がれ続けていた愛しい女性ひとに、ようやくここで、巡り逢えたような心地がする。



*****



 晩餐に先立ち、グネギヴィットはユーディスディランに妹を紹介した。

「アレグリットと申します。お初に御目文字致します、王太子殿下」

 アレグリットは王太子を前に初々しく緊張し、頬に血をのぼらせながらも淑やかに挨拶をした。形はまるで違っているが、同じ布地に同じレースや刺繍をあしらい、姉とさりげなく揃えた黒い喪服は、アレグリットを歳よりも数段大人びた少女に見せていた。


「これは噂以上に、見目麗しい蕾姫だ」

 感心したようにそう言って、ユーディスディランは微笑んだ。

 聞き慣れぬ言の葉に、アレグリットはユーディスディランを見上げながら不思議そうに小首を傾げた。

「蕾姫、ですか?」

「そうだ。王宮の雀たちは、どこからともなく色々な風聞をかき集めてくるからね。アレグリット、あなたはそろそろ社交界へ上がるお年頃だろう。マイナールには、白百合に喩えられる女公爵の他にもう一輪、百合の蕾の如く姫君がおいでになるらしいと、王都で既に評判になっている」

「まあ」

 ユーディスディランの説明に、アレグリットは困った様子で赤く染まった頬を両手で包んだ。なるほど王都は平穏らしい。あまりの気の早さに、グネギヴィットも思わず苦笑いを浮かべる。


「どうやら噂ばかりが一人歩きをしているようですね。妹はマイナールを離れたことすらありませんのに」

「本当に。なんだかとても大げさで……、恥ずかしいですわ。過剰なご期待をされてしまっては、王都へ行けなくなってしまいます」

 姉よりも繊弱な印象があるが、アレグリットは少女時代のグネギヴィットを彷彿とさせた。小さな令嬢の可憐な恥じらいを、ユーディスディランは好ましく受け止めて気強く保証してやる。

「大丈夫。あなたならば間違いなく、社交界の新しい華になれるだろう。王都での披露目は、いつ?」


 グネギヴィットはアレグリットの保護者として、妹に代わって答えた。

「アレグリットは先頃十四歳になりました。昨年から内々に計画はしていたのですが、あいにく兄の喪中ですので、来年の春に繰り越しに」

「なるほど。それでは、来年の新緑祭には、お二人に宛てて招待状をお送りしよう。アレグリット、今から一曲、ダンスをご一緒して下さるように、予約を入れてもよろしいかな?」

 思いがけないユーディスディランからの誘いに、アレグリットは瞳を輝かせた。

「勿論ですわ! 王太子殿下にお約束を頂けるなんて夢のようです。御足を踏んだりしないように、わたくしたくさん練習をしておきますね」

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