6(そして、旅は)
エントの前には今、茫漠とした海が広がっていた。薄まりかけた夜の下で、その海は白い波濤を翻し、強い風が耳を裂くような音を立てて吹いていた。砂浜には絶えず波が噛みつき、得るものもないまま空しくそれを繰り返していた。
東へと向かうことは、もうできなかった。
エントは海岸線に沿って、しばらく歩いてみた。砂浜はどこまでも続き、はるか彼方で崖によって遮られていた。けれど、それが東へと向かう様子は見られなかった。
ただ疲れた人のように、エントは波打ち際に座りこんだ。足は傷だらけになり、痩せ細った体は思うように動かなかった。これまでの道筋がまったくの無駄だったことを思い、エントは大きな脱力を覚えていた。
波音が、飽きもせずに繰り返している。手の下で、砂は柔らかく崩れた。雲は急な速さでどこかへと流れていく。
エントはただ、自分の中の空疎を感じていた。それは埋めることのできない空洞であり、不可触の質量だった。
それからしばらくして、エントはふと何かに気づいて立ちあがった。自分でもよくわからない衝動に従って、彼はなお病みつかれたもののように足を踏みだした。覚束ない足どりで、彼は数歩の距離を進んだ。
そこには、星が埋まっていた。
エントはその星を拾いあげ、手の平に乗せた。砂を払い、じっと見つめた。それは黒茶けた、何の変哲もない岩石にすぎなかった。夜空を流れたときのように光輝いてもいなければ、貴石のように美しくもなかった。それはただの――石ころだった。しかし、それがあの時に東の地へと流れた星に間違いなかった。
海岸の向こうから、太陽が昇りはじめていた。それは生まれたばかりの光であたりを照らした。石を両手に抱えたまま、エントはただ静かにその石を見つめた。
だが、石は何も語らなかった。
星の海で誕生したときのことも、漆黒の闇の中をはるかに旅してきたことも、最後の瞬間に美しい光輝を放ったことも、いかなる運命によってこの地にやって来たかも、何も。石は何一つ語らなかった。
エントはじっと立ちつくしたまま、ただ静かに石を見つめた。石はただそこにあるだけだった。何の変化も、予兆もなく。
夜明けがゆっくりと広がりつつあった。海と空は青さを取り戻し、雲と砂浜は白く変わろうとしている。
それから、エントはこれ以上ない明確さで悟った。
フィージョはまだ、終わってはいないのだ。星を探しあてることは、決してその終わりを意味するものではなかった。自分はまだ何も変わってなどいない。ここまでの旅は、ほんのきっかけにすぎない。むしろこれから、フィージョははじまるのだ。
エントは顔を上げ、昇り続ける太陽を見つめた。それは白い光でエントの眼を貫き、新しい力をその体に与えた。
――エントは再び、旅を続けることにした。
星を探して 安路 海途 @alones
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