ナンテコッタ・コール!

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第1話【ACT①】天使長座継承トーナメント戦


 僕の能力は固定流出エマナチオできません。いつだって手当たり次第ランダムです。



 僕は天使です。平均点のちょっと上をうろうろしているような天使です。家族はいません。孤児院出身です。憧れるような美形でも無いし、二度と見たくないような醜形でもありません。一応、性別は♂です。一応と書いたのは、天使にはそもそも性別なんてどうでも良い事項だからです。

僕には友達が一人います。一人だけですけれど、本当に良いヤツで世界一の親友です。

親友は前天使長だったラファエル様と四大天使のお一人、ガブリエル様との間に生まれた、本物のサラブレッドです。本来なら僕みたいなどこの誰の馬の骨とも分からないのとは格が違うんですけれど、一緒に馬鹿なこともするし、一緒に同じ事で笑い合えるし、僕が虐められた時は激怒していじめっ子達の所にカチコミに行ってくれた(負けましたが)、孤児でも僕がまともでいられるのはコイツのおかげだって断言できる親友です。

あ、自己紹介が遅くなりました。

僕の名前はゴンベエ、親友の名前はソッピーことソペリエルです。


 今の天界の一番の話題は、天使長座を誰が継承するかってことです。天界は基本的に身分と血統、そして実力がものを言います。このどれかでも欠落していると天使長座には絶対に就けません。代々の天使長の方々は全員、身分も血統も実力も凄かったのです。

つい先日、ラファエル様が悪魔との戦いで大怪我を負われて、後遺症も酷かったため、天使長座を降りることを決められました。神様からも許可が出たので、毎回恒例の天使長座継承トーナメント戦が開かれると『天界議会』から告知がありました。

勿論、出場者は志願制です。ソッピーも出ることを決意したので、僕も誰よりも応援することを決めました。

「俺、親父のこと、嫌いだったんだよね」ソッピーはエントリーシートに署名してから、ふと、言い出しました。「仕事仕事でちっとも俺のこと構ってくれなかったしさ」

「……」

「だけど戦況不利の中、あんな大怪我を負ってまで、部下を撤退させてどこまでも悪魔と戦った親父のこと、初めて誇らしく思えたんだ」

「うん」

「なれるか分からないけれど、俺は親父みたいになりたい」

「大丈夫だよ、必ずソッピーならなれる」

僕は、おべっかとかそう言うの一切抜きに率直にそう言いました。

するとソッピーは少し照れくさそうな顔をして、

「……ありがとな」

嫌味でうっとうしい声が響いたのはその時です。

「おやおやソペリエル君、そんなゴミとまだ友達ごっこをしているのかい」

いじめっ子で鼻だけ高いザフィエルが悪魔みたいな体躯の手下共を連れてやって来ました。

「あ?誰がゴミだって?」

ソッピーが一気にキレました。ソッピーの悪いところは僕をけなされると一切の制止抜きにぶち切れる所なんです。

「駄目だよソッピー、喧嘩は駄目だよ!僕は大丈夫だから……」

「ハッ、意気地無しだな」

「んだとテメエ!」

「だ、駄目だってば!」

今の状態じゃ仮に喧嘩したとしても、多勢に無勢で負けてしまう!

「止めるなゴンベエ!俺はお前を馬鹿にされるのが一番とさかに来るんだよ!」

そう言ってソッピーは『流出エマナチオ』させました。『流出』と言うのは、天使固有の能力を発動・行使することです。

「行け!炎電の雲ファイアーボルトクラウド!」

ソッピーの背後から急に雲が湧き上がりました。それは見る間に雷雲となってザフィエル達に襲いかかります。

けれどザフィエルの手下達が『シールド』の能力を使った所為で、雷雲は一瞬足を止めました。ザフィエルはその瞬間にソッピーに迫って殴り飛ばしていました。

「グッ!」

「ソッピー――!」

僕はソッピーを助けようと、咄嗟に『手当たり次第の流出ランダム・エマナチオ』をしようと――

「ナンテコッタ・コール!」と声の限りに叫んでいました。


 僕には固有の『流出』がありません。

その代わりに、本当に手当たり次第に『ナンテコッタ・コール』と叫ぶことで――『流出』を切り替えることが出来るのです。勿論、制約もあります。一度切り替えると十分間は切り替えることが出来ないし、桁違いに強い『流出』に当たることもあれば、『空き缶を宙に浮かべる』という『流出』に当たったこともあります。本当にランダムなんです。

その時、僕が当たった『流出』は――、


『      』でした。

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ナンテコッタ・コール! 2626 @evi2016

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