第85話 風呂は偉大なり2

それから石材屋に戻り、職人の手伝いをして開始から僅か数時間で数十個の大理石ブロックになった。


それをバレないようにアイテムバックに放り込み何個かは台車で家に運び込む。



風呂場には排水口が元よりあるのでそこを中心にして平たいブロックを先ず並べていく。そしてそのブロックを囲むように四角いブロックを並べる。深さは肩まで浸かれる場所と少し段差を上げて浅くした場所を作る。



力の指輪があるから一人でひょいひょいブロックを抱えて並べていると、フーカがズラす程度の加勢をしてくれ、更にトチ狂ったリリカが加勢しようとするがリリカに持てるはずがなく、落とした大理石に足を潰されルナとリムリに治療して貰っていた。



そんなこんなで大理石の浴槽が完成。横が2m縦が1.5m深さが50cmと浅めの所で40cmほどだ。足を伸ばして横に並んでも四~五人はゆっくり入れるだろう。


試しにルナに水を入れてもらい漏れを確認するが問題はなかった。排水もきちんと流れていたから問題ない。



「ジン、出来たわよ。確認してくれる?」


完成した浴槽を見ながらフーカ達とはしゃいでいるとフィロが来た。

浴槽を見て、「なにこれ? え? クリーア原石? ちょ! これ幾らしたの!」と驚いていた。


金額は全部で金貨五十枚ほどだったから店にあった水入れより安上がりだぞ? 



ちなみにクリーア原石は加工すると光沢が出てツルツルしていて品が良いらしく、貴族の屋敷なんかで使われる事が多いそうだ。クリーア石の特徴はとても硬く、一面を切断するだけで数時間掛かるらしい。

その為料金が高くなるらしいのだが、俺は全部フルンティングで斬ったし、残った切れ端も製品に使えるとの事だったので返したから大幅に値下げしてくれた。


もしこれを一から注文したなら料金は十倍になってもおかしくないとフィロが言っていた。



そしてフィロとアオイの元に行くと二mほどの正方形な鉄箱があった。


「おぉ、早かったな。つか早すぎだな」


鉄箱の横には蛇口もちゃんと付いていたが、なぜかアオイの表情が優れない。



「どうした? 失敗したのか?」


「――完璧よ。完璧に作ってしまったのよ。――ここで」


現在地はアオイ工房の地下二階にあるアオイの工房にいる。紛らわしい!



入口は通常の扉で上がるには階段を使う必要もある。廊下の幅は狭い所は一m程度だろうな。うん、普通に考えて運べるわけないね。……しょうがないか。フィロとアオイなら問題ないと思うことにしよう。



「――安心しろよ。俺はアイテムボックス持ってるから」


「アイテムボックス? それでどうするのよ」


アイテムボックスじゃ通じないか。なら実際に見せるとしよう。



アイテムボックス、真の名を空間の指輪。亜空間を広げてアイテムを収納できるわけだが、何もアイテムだけとは限らない。実は魔物を放り込んだ事もある。数時間入れたままにして解放してみたが弱ったりすることもなく元気一杯だった。そして空間の入口は最大で四mほどまで広げる事ができる。これを使って鉄箱をアイテムボックスに放り込む。



「あなた、無茶苦茶ね」


「アンタにだけは言われたくなかったな。葵さん」


「私は普通だと思うけど? 仁君?」


ニヤリと笑い合う俺達をフィロとルナが黙って見ていた。




「そんなこんなで! はい! 完成っ!!」


風呂に戻って鉄箱を浴槽の隣に設置完了した。


そして早速ルナの魔法で水を満水にして、火炎をぶち込もうとした所でアオイから待ったがかかり、鉄箱の性能を説明された。



この鉄箱はアオイ式貯水湯沸しタンク一号君と言う名称らしい。どうでもいい。そう思ったたけなのに殺気を振りかざして、以降はタンク君と呼べと睨まれた。


それで、このタンク君だが魔力を注入することで沸かすことが出来るらしいのだ。タンク君の側面に渦巻き状の線が書かれている箇所がありそこに魔力を送ることで電磁力を発生させ中のお湯を沸騰させれると言っていたが良く分からん。要は魔力を燃料にした湯沸し機能だろう。



「絶対に本気で魔力を送らないでよ。温度計は付けてあるからそれを見ながら徐々に魔力を送りなさい。一気に魔力を送ったら爆発する可能性があるからね」


何だか怖いこと言われたが、ルナの監修の元魔力をタンク君に送ること十数秒。温度計が四十度まで上がった。早いな、おい。



「では、蛇口を開けますね。……わぁ! 湯気が! 温かいです!」


蛇口からお湯が出ることに俺とアオイ以外はかなり驚いていた。この世界にはないからな。


ただ勢いが弱いな。蛇口をもっと大きくすれば勢いも増しそうだがそこまで贅沢は言えないか。



「それじゃ、いよいよ本命行くぞ?」


タンク君の浴槽側には筒状の注ぎ口が付いており、バルブを回すと開栓することができ、タンク君に溜まっているお湯を浴槽へ流し込めるのだ。


バルブの開栓はアオイに頼んだのだが、アオイはフィロに頼み、フィロが呆れた顔でバルブを回すことになった。



「それじゃ回すわよ。……おぉ、って熱ッ!」


バルブと注ぎ口が近い為湯気がモロにフィロを襲っていた。まぁ火傷するほどの熱はないけど。


アオイに笑われフィロはご立腹のようだ。


こちらの排水は浴槽を貯める為の物だから大きくしてある。その為ドドドと勢い良くお湯が注がれていく。



それから浴槽が貯まるまで数分待ち、遂に湯船を用意することが出来た!


「出来たな。あの店行ってもう無理だって思ったけど、やれば出来るもんだな」


「半分以上、仁君のチートのお陰な気がするわね」


「もう半分は葵さんのチートだろ? 何だよこのタンク君は。自分で風呂作れたんじゃないのか?」


このタンク君が作れるってことは鉄の浴槽も作れるってことだろ? あとは水を汲んでくればいいだけじゃね?



「そんな簡単なことじゃないのよ? 設計図があったからその通り作ったけど、私じゃこれを思い付けなかったし、そもそもタンク君に魔力を送る事も私にはできないわよ」


この魔力を送るやり方はリリカとダンジョンに潜った時にやっていたフルンティングや矢に魔力を込めるやり方と同じだ。適正がない物には魔力を込めることが出来ないのだ。



「ならこれの湯沸しは俺かルナにしか出来ないのか?」


「そうなるわね。元から沸かすのはあなた達の役目だったんでしょ? なら問題ないでしょ」


まぁ、火炎ブチ込むより安全で効率的だけど。



湯船はもうタプタプだ。タンク君の放出も止めている。水量は三割程度残っている。蛇口の分を考えると毎回満水にしないと足りなくなりそうだな。


「それでジン、入らないの?」


待ちに待った風呂だ。入りたいが。



「葵さんが先に入るか?」


レディーファーストじゃないが、一応報酬として入る許可を出したからな。


「私達はあなた達の後でいいわ。上がったら教えてくれる?」


「了解だ」


「……一緒に入らないの?」


リムリが葵とフィロをつぶらな瞳で見ていた。おい、止めとけ。流石に葵と一緒に入るのは色々マズイぞ!



「……止めとくわ。家族水入らずで入りなさい。私もあとでフィロと一緒に入らせてもらうから」


「そう言うことだからまた今度ね。……アオイもリムリ達だけなら一緒に入ってくれると思うから」



そらそうだ。俺が居ても気にしないとか言われたらちょっと男としての自信がなくなるぞ。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界ダンジョン制覇 ~目指せ楽園ハーレム~ 夜桜 蒼 @yozakurasou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ