第一付属書

 大急ぎで寮に戻ると、みんなお風呂を済ませて部屋に戻っていた。明日のフライトは無い予定だったけど、みんな英語の授業の予習をやっていたのだろう。わたしは弥生ちゃんとゆーみんの部屋に行って、風祭くんの提案を告げた。

「いくわ」

 弥生ちゃんが勢いよくジャージを脱ぎはじめたので、わたしは慌てて部屋を出た。みず稀は、もちろん英語の予習なんかやっていなかったけど、「面白そう」と参加を決めた。弥生ちゃんが来ると言えばゆーみんも来る。問題は男子達だ。一階に行ってまでわざわざ声をかける必要はないかとも思ったけど、たまたま葛原くんがロビーに降りてきたところに出くわした。葛原くんが呼びにいってくれて男子達も全員来た。どうせ、「そんなかったるいもん誰が行くかよ」と言うかと思っていた末松が、

「おもしろそうじゃん。教官連中がへこまされっとこ見せてもらえるんだろ」と、最初にやってきて、むしろ森永くんが

「僕らの訓練とか生活には直接関係ないんじゃないかな」と、英語のプリントと辞書を持って現れた。弥生ちゃんは、森永くんの「内職セット」を見て、一瞬だけ、その手があったか、というような表情を見せた。

 お仕着せの黒のダウンジャケットを羽織って、零度近い外気温の中、司令部まで行って、そこで風祭くんとシュテファンさんと合流。自己紹介も早々に二階の会議室に向かった。

 会議室の扉を開けて、窓際の人の顔が霞んでみえるくらいに立ちこめたタバコの煙にたじろいだ。ロの字型に並んだ机に並んだ人達は二〇人以上いただろう。半分以上の人達が自衛隊の制服を着ていて、あとは曽根教官のようにフライトジャケットを着ている人もいた。先に入った風祭くんとシュテファンさんの姿を見て、一瞬でみなさんは姿勢をただし、その後、やや遅れて全員が立ち上がった。半分くらいの人達が、二人の後からぞろぞろと現れたわたし達を見てびっくりしたような表情をしたけど、機先を制して風祭くんが片手を挙げた。「伝刀 若年曹長JWO以下の訓練生を陪席させてください」

 列席の人達が顔を見合わせ、「さすがにそれは」「だめだろ」という声が交わされる。

「わかりました。かまいません」

 そう言ったのは壁側のテーブルの中央に座った窪田さんだった。たった二ヶ月でずいぶんやつれた印象がある。

 窪田さんに反対する人は誰もいなかったので、わたし達は部屋の隅に空いていた椅子を見つけて教官達の後の狭い隙間に身体を押し込んだ。窪田さんや篠原さんたちと一緒に外に食事に行った外国人の大人達の姿はこの会議室にはぃない。

 会議の口火を切ったのはシュテファンさんだった。わたしに対してしたのと同じくらいゆっくり、はっきりした英語で、単語ごとに区切って、それでも半分くらいしかわからなかったけど、多分、こんなことを言った(註:ここには後日補完したものを記している)。

「みなさんお集まりいただき、ありがとうございます。日本地域の政府の代表たる皆さんに、先般、ご質問いただいた事項の回答をお示しするために、我々はやってきました」

「ちょっと失礼」

 窪田さんが片手を挙げて遮った。

「ここにいるのは日本政府の代表ではない。繰り返し申し上げているとおり、我々は自衛隊の一部隊にすぎず、協議会に正式加盟もしていない。国際的な対ジマー防衛戦略への参加を日本の新中核都市コミューンによびかけ、若年隊員の訓練をしているというだけだ。組織率は人口比で六割を超えたに過ぎない。それでも我々は君たちの交渉相手になるのか」

「問題ありません。そもそも連絡協議会LBISには対ジマーの防衛単位である都市コミューンが加盟するもので、日本のような大きな国家単位での加盟は認められません。一方、都市ごとの防衛隊GRAG が発足しなければ連絡協議会LBISへの加盟もできない。この矛盾を解決するための過渡的な組織があなたがた、と、連絡協議会LBISは理解しています」

「やっぱり日本って国はなくなっちゃうんだ」

 弥生ちゃんがつぶやいた。彼女は小学生の頃にイギリスにいたことがあって、わたし達のなかでは一番英語ができる。

「現段階で、組織率が六割というのは大変良い数字です。将来は、都市コミューン間の交通や防貿易、住居の確保に産業の育成、もちろん教育といった分野でも情報交換と制度の共有が行われるでしょう。しかし、現在最も優先すべきは防衛であると、連絡協議会LBISでは一致しています」

「わかった。我々は国会で承認された法的背景を持った会議体で、現在も存在する行政単位としての日本国における対ジマーに対する防衛策を一任されています」

「続けます。回答の内容はお渡しした資料の通りです。すべて読み上げますか」

 会議室が紙をめくる音で一瞬ざわついた。コピーされて配布されていたのだろう。斜め前に座っていた曽根教官が振り向き、自分の持っていた紙の束を渡してくれた。お礼を言う隙もない。紙束を見ると、五〇枚くらいの青焼きの紙に、タイプライタの文字がぎっしりならんでいる。QとAという文字が最初についているので、質問と回答ということは私にもわかった。右隣のみず稀は、いいよいいよ、と、ないないをするので、弥生ちゃんとふたりで見ることにする。予備の資料があったらしく、男子達のほうにも二部の資料が配られた。ゆーみんはそっちをちらちら見ている。

「いいや。その必要はありません。しかし、確認したい項目がいくつかあります。順番にいこうか。篠原技官いや篠原一尉、お願いします」

「はい。ええと」篠原さんは、わたしの方をちらりと見て、口ごもってしまった。隣に座っていた曽根教官が小さな声で「かまいませんよ。彼らは大丈夫」とささやくのが聞こえた。篠原さんはうなずき、とても流ちょうな英語で、話しはじめた。

「若年隊員の男女比率について確認します。我が国においては欧米に比べて女性の社会進出が著しく遅れていました。女性自衛官は少なく、自衛隊には女性パイロットはいません。民間の女性パイロットにも教官資格を持った方はいませんでした。また、体力や運動神経などの操縦士としての適性を考えても、訓練生の採用比率を男女同数とするのは合理性に欠けると思います」

「女性の訓練生を男性の教官が指導することに問題はありません。もちろん、女性固有の心理・生理、身体的な限界事項については操縦教官も十分な理解が必要です。関連する資料があると思いますので、お送りするようにします。訓練生の男女比については」

 シュテファンさんは手元の分厚い紙に目をやって続けた。

「回答に示したように、五パーセントを超える逸脱はみとめられません。ランデュレ波の発現率は女子が男子の三倍ですから、体力や運動能力の差の影響は少なくなるはずです」

「現在のところ、日本でのランデュレ波の発現率は、男子五.三%に対して女子は一四.九%です。わかりました。操縦士訓練部からはもう一つ。最低飛行時間の二〇〇時間は少なすぎるという意見があります。一方でそれを五ヶ月で詰め込むのは短すぎます」

「戦時中の特攻隊の方がましなくらいだ。しかも相手は身体もできていない中学生なんだぞ」

 日本語で大きな声を出したのは、谷口教官だった。五〇歳を過ぎた航空自衛隊のパイロットで、わたしは教わったことがない。谷口教官はシュテファンさんの方に身を乗り出し、あいかわらず日本語で言いつのった。「分かる? カミカゼ! カミカゼ!」

 それに対するシュテファンさんの回答は、それまでにまして言い聞かせるようにゆっくりとしたものだった。

「飛行時間は目安です。欧州でも多くの人が十分ではないと考えています。時間と機材と資源に十分な余裕があるなら、より多くの飛行時間が望ましいです」

「そうだろ! そのとおりだろ? だから何とかしろって言ってるんだよ」

「時間はないんです谷口三佐」

 黒い革のジャケットの襟もとからストライプ柄のネクタイを覗かせた若い男性が鋭い口調でさえぎった。席が遠くてちょっとわからなかったけど、「社会」の授業の那須先生だ。

「われわれはいまから一年以内に一二〇人のジュネスを育てなくちゃいけない。訓練を一〇時間伸ばせば一ヶ月延びる」

「一ヶ月くらいなんだ。質の悪いパイロットを何人出したって、ジマーが倒せるわけないだろ」

「計算上では一個戦隊一二人のジュネスで半径五〇キロ圏内の複数の都市コミューンを防衛できます。一方で人口五万の都市コミューンが一年以内にジマーの空襲を受ける可能性は一五%です、ジュネス一人の配備が一ヶ月遅れると一つ都市コミューンがなくなるということです」

 その日に聞いたことで二番目に印象に残ったのが、それだった。わたしのせいで、訓練全体の進みが五日遅れている。それは人の命にしたら何人分になる、という計算ができてしまう。

「官僚の理論なんぞ聞いている場合じゃないんだよ!」

「工夫をしてください」

 シュテファンさんの低くてよくひびく声は谷口教官の罵声を圧倒した。「ドイツでは、グライダーが盛んで、小学生の頃から訓練をはじめ、一〇代でライセンスを持っている人が沢山います。私もそうでした。彼らがスワロウに最低限習熟するための訓練時間は四〇時間ほどです。かつての戦闘機パイロットに求められていたようなスキルのほとんどが不要だからです。失礼ですが、日本では、決められた科目数や時間数を重視すると聞きました。訓練生の特質に応じて、柔軟にシラバスを工夫できないでしょうか。ジュネスには、正確な計器航法ナビゲーションや、お客さんにとって快適な離着陸をすることが求められているわけではありません。生きて帰ってくればいいのです」

「足りないのは時間だけではないです。燃料はもっと深刻です」

 飛行機の整備全般をとりまとめている領家さんが控えめに、でも上手な英語で発言した。

「海外からの輸入が見込めない今、日本の石油の備蓄を全部帯広に回せというわけにもいきません。周辺の牧草地をアブラナに転換して代替燃料にする計画は進めていますが、最大限うまくいっても、年間三万時間分の燃料を確保する目処が立ちません」

「回答四・二に示した通りです」

 紙をめくる音が会議室に満ちた。わたしもその項目を見つけた。バッテリ? エレクトロ・ロータリー・ジェットエンジン?

「欧州ではスワロウの電動化の目処がつきました。航続性と最高速度は低下しますが、垂直離着陸が可能になり、整備性と経済性は格段に向上します。もう少し頑張ってください」

「どんなプロペラを使うかつもり知りませんが、スワロウを二五〇ノットで飛ばすためには最低でも三〇〇〇馬力が必要です。これは寝台特急の電気機関車二台分です。そんなものを飛行機に積めますか」

「みなさんもすでにご存じのように、撃墜された数少ないフロッグの外殻や弾性爆弾の破片から、籠状単結晶炭素が発見されています。これは構造材として強度が高いだけではなく、極めて小さい電気抵抗を持ち、モータやバッテリを小型にできる見込みがあります。航続距離の問題もバッテリの性能向上で、数年以内に解決するでしょう」

 それはついさっき風祭くんから聞いた言葉だった。フロッグと戦うために、フロッグから作った武器を使うということ。よほどすごい技術なのだろう。暫くざわめきが収まらなかった。シュテファンさんは少し大きな声で付け加えた。

「日本にはまだ、工場や技術開発のインフラストラクチャが多く残っていると聞いています。九月以前に欧州やアメリカから避難してきた技術者集団も、いるはずです。日本でも技術開発を進めてください」

「われわれは対ジマー防衛に関する施策を担当している集団です。産業復興は別の組織が担当します。我々の判断でできることではありません」

「はい。私もジュネスの育成についての担当者であり、他のことは単なるメッセンジャーボーイです。お伝えしたことは、そちらで展開してください。それから問六.一.一に対応する回答ですが」

 問六は最後の方のページだった。図も何もない字だけのページに目が滑る。その中で「Landure」という文字が目を惹いた。Dr. F. Landureというのは名前だろうか。ランデュレ波を発見した?科学者の名前?

「ジュネスの選抜と運用については、現在、データが不足しています。これには個々のジュネスのランデュレ波の一致性コンフォミティが、ジマーを撃退する性能にどのような関係があるか、ということが含まれます。これから日本地域においても戦闘訓練が開始されますが、フロッグとの交戦が予想されるすべての飛行について、可能な限りすみやかに搭乗するジュネスと任務の結果を連絡協議会に送ってください。我々は世界中の一人一人のジュネスの状態を把握し、可能な支援をしたいと考えています」

「すみやかとはどれくらいの遅れが許容されますか」

「飛行計画のオープンとクローズと同時が望ましいです。飛行前に一報、飛行後に一報です」

「それをしないとどうなりますか」

「連絡協議会で集約したデータは全てジュネスのオペレータと共有します。データの提供がなければ、基本的にデータを開示できません」

「人質だな」と誰かが言い、「やめなさい」と窪田さんの低い声がした。

「マイヤー大尉、よろしいですか」那須さんが低く手を挙げる。

「われわれはもちろん連絡協議会との協定を遵守するつもりですが質問状の第一項目にあげたように要求事項をどこまで守ればいいのかがわからない。協定には要求の全てを満たす必要がないとあり相違通告も不要となっているだが、今回いただいた回答をみるにやはり全ての要求を満たさなくてはならない、と解釈しなくてはならないように読めます」

「あいまいな表現についてはお詫びします。具体的な問題がありますか」

「たくさんあります例えば、ジュネスに与えられる俸給や休暇ですが、世の中がこれだけ困窮しつつあるなかで、彼らだけ特別扱いするにも限界がある、現在、われわれはジャーナリストの取材を遮断し、子供達の外出を禁じることでなんとか対応していますがジュネスの存在自体を公表にしている以上限界があります」

「意味がわかりません。なぜありのままを伝えないのですか。外出を禁じているというは本当ですか?」

 シュテファンさんはわたしの方を見なかったのに、日本側の大人達の視線はずわっと音をたててわたしに降り注いだ。風祭くんが首を左右に大きく振ってみせてくれなかったら、わたしは、得意になってありのままを答えていたかもしれない。「ばかなこと言いやがって」と谷口さんが大きな声で独り言を言い、篠原さんでさえ聞こえよがしなため息をついたが、発言した本人の那須さんは我関せずとすまし顔だ。

「われわれはこの国固有の事情この地域固有の事情他に様々な要素を勘案した上で外出を禁じています。これらの背景をすべて説明すればきっと分かっていただけると思いますが」

 そこで口調を強めた。「説明する必要がありますかと聞いている」

 それまでずっと黙ってメモを取っていた風祭くんが顔を上げた。するとシュテファンさんがさっと左手を風祭くんの前に出し、風祭くんは吸った息を止めたようになった。二人はたぶんドイツ語で短くささやきあい、風祭くんが話しはじめた。

「ジュネスは厳しい審査を経て選抜され、要求される任務も大変厳しいものです。ですが、ジュネスに報いることがジュネスに特権が与えられる理由ではありません。これからの世界がそのわずか一握りのジュネスによって守られるということを、世界の全てが理解する必要がある。それが理由の一つです。もう一つの理由は、ジュネス自身が、決して傲慢になることなく、重圧に押しつぶされることもなく、それを理解しなくてはいけないということです。自分達が世界を守っている、ということを」

 あれほど煙っていた空気までが澄んだように静まりかえった。わたしたちと年の変わらない風祭くんがあまりにしっかりと落ち着いた言葉をしゃべったので、おどろいたのだろう。

 それは隣で聞いていた訓練生のみんなも同じだった。弥生ちゃんが眼鏡の奥の目を大きく見開いて、風祭くんを見つめていた。制服の肩が小さく上下しているのがわかった。

「そんなことはもちろんわかっていますよ。確かにそっくり今のお話のまま第二付属書の第一章に書かれていましたから」

 那須さんが低い声で応じた。用心深く上目遣いで窺っているような感じだ。

「では第一付属書アネックスワンの二章もよく読んでください。ジュネスが自ら判断し、大人達の管理から自立して行動できることが都市コミューン防衛にもっとも重要であることと、その理由が書かれています」

「ええ、ですが遵守はできない。質問状でもそう申し上げたはずです」

「わたしたちはそんなことを聞かされていません!」

 凜とした声がタバコの煙によどんだ会議室に響き渡った。きれいな英語の主は弥生ちゃんだった。那須さんが、あっという感じで何かいいかけたけど、きっと英語と日本語とどっちで話していいのかわからなくて、ちょっと口ごもった。弥生ちゃんはいつの間にかわたしの手から資料を取り上げていて、開いたページを高く掲げて宣言した。

第一付属書アネックスワンの全章は、ジュネスに対して提示されなくてはならないと書いてあります。私達はこんな内容を教わっていません」

「まだ訓練生だからだ」

「ジュネスは訓練開始と同時にジュネスとしての権利が保証されるって四章に書いてあります。それに、一から五章までは例外なく遵守されるべきだとあります。これはどういうことなんでしょうか」

「簡単なことだね」

 窪田さんが椅子にもたれかかりながら、力のない笑みをうかべていた。

「ここにいる大人達より、村井さんの方が付属の内容をよく理解できているということだよ」

「村井 曹長JWO、ありがとうございます」

 風祭くんが柔らかな視線を向けると、まだ肩で息をしていた弥生ちゃんは、大きな息をついて、すとん、と椅子に座った。

「すごいね弥生ちゃん」

 それは本心だったけど、皮肉っぽくきこえたらやだなと思ったけど、言ってしまった。弥生ちゃんは、小さく頷いた。

「私、頑張るから。絶対、立派なジュネスになるんだ」


 「立派なジュネス」って、なんだろう。

 会議が終わったのは二二時過ぎ。それからさらに一時間近くも、司令部の一階ロビーで、わたしたちは風祭くんとシュテファンさんを囲んでもりあがった。わたし達は、二人に会議の中でわからなかった言葉や議論を聞いたり、ヨーロッパでのジュネスの生活ぶりを教えてもらったりして、ジュネスが兵士ではない、ということの本当の意味を理解しつつあった。ジュネスは未成年なので社会的な力はない。でも世界をジマーから守るのはジュネスの役目だ。その役目を果たすことでジュネスにはさまざまな問題に対応できる能力と「社会に対する貸し」が蓄積される。その力をたくさん蓄えて正しく世の中のために使うのが、「立派な」ジュネスということなのだ。そのことを、会議の席上、英語の議論の中で見抜いた弥生ちゃんはすごかった。

 それに比べると男子達の盛り上がりはちょっと方向が違っていて、わたしがいうのもどうかだけど、つい風祭くんと比較してがっかりしてしまう。男子達は、もっぱらジマーとは何か、ランデュレ波がどういう仕組みでジマーの攻撃を防ぐのか、どういう戦術や戦闘機を使ってフロッグと戦うのかというような話ばかりしたがった。末松の態度は、それでもふだんよりはずっとマシだったけど、最後にはやっぱりこんなことを言って、皮肉をこめた視線を風祭くんに向けた。

「でも、このままいったらアメリカはジマーを全滅させるんじゃないですか。そしたら俺達、来年の四月からは中学三年生に戻るんじゃないですか」

「うん、そうであれば、いいと思うよ」

 風祭くんは、深く頷いて、それから、なぜかわたしを見つめた。

 わたしは、彼の無言のメッセージを正しく理解したと思った。

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