教室にて
教室の居心地は悪くない。ちょっと派手めの女子は二、三人いるけど、五組みたいに問題を起こすようなグレてる子はいないし、いじめられている子もいない(小学校の頃にいた何人かのそういう子たちは、みんな私立に行ってしまったのだ)。
東尾くんとか、佐々木くんとか、軽く嫌われている男子のグループはいる(こっそりみどりちゃんを慕っている連中でもある)。というか、アニメージュとかを教室に持ちこんで大声でアニメの話するとか、わたしだってやめてほしいと思う。アニメージュが悪いっていうんじゃなくて、そういうのを男子が喜ぶっていうのが、気持ち悪いっていうか、気持ち悪いって思われているのをわかって欲しいということ。三浦さんとかよっちーとかあと、数えたらたしかに相当な人数になるけど、女の子達がアニメの話題で盛り上がるようになったのは確かだけど、よっちーとかがなまじ男子にも分け隔てしないからって言って、女子の間の話題に入ってこようとするのだけは本当にやめてほしい。わたし自身は、そう、関係ない。でも、みどりちゃんが最近どうもアニメに興味を持ち始めたようなのだ。わたしとの会話では出てこない話題だけど、あいつらとみどりちゃんを橋渡しするようなことにもなれば、わたしはこの町中の書店からアニメージュを全て放逐するくらいのことはやるだろう。
二時間目と三時間目の休み時間が終わりかけた頃、職員室から戻ったわたしを迎えた雰囲気は、あまり気持ちのいいものではなかった。
「ねえ、どうしたの、アカネが職員室に呼び出しとかめずらしいじゃん」
クラスでは仲の良いサチが走り寄ってきてくれたのは嬉しかったけど、職員室で北村先生にした説明をもう一度ここでするの? っていう感じだ。
「それがさあ……」
「種田になつかれちゃったんだってね」
一番後の席にいた金村さんが、長い髪をゆらしてこっちを見ながら、大きな目をきらきらさせた。
金村さんは、お化粧したみたいにくっきりとした目鼻立ちの美少女。背も高くて胸も大きいのに、中二にもなってベストじゃなくて吊りスカートで、男子の視線を楽しんでる感じがある。それでも靴下が隠れるようなスカートを穿いた子達とはつるんでいなくて、そのかわりにやたらと男子に対してなれなれしい態度を取るので、彼女達からはむしろ距離を置かれていた。そのかわり、めだたなくて普通にかわいくて勉強も普通の女子達のグループにはひっそりと受け入れられていた。なんでも大学生の恋人がいて、そういう経験は全部済ませてしまったという。
「アカネって、そういうところ、あるよね」
「そういうところって、どういうところ?」
直前まで頭の中でアニメに対する不信感を煮詰めていたせいに違いない。わたしが珍しく反論したせいか、サチが困った顔でわたしと金村さんを交互に見た。わたしはしまったと思って周囲を見渡した。三時間目のチャイムはもうすぐ鳴るのに、教室はざわついていて、幸い、わたし達の小さな諍いに気づいた子はいないようだった。
「そういうところは、そういうところ。いいと思うよ。救いの手をさしのべてるみたいで」
かちん、と来た。じょうだんじゃない。誰がそんな大それたこと。わたしがは誰かを救うとかできるようなレベルの人間じゃない。金村さんの言葉は、根拠も何もないただの誹謗中傷だ。ただ、種田くんが合奏部の朝練に入り浸っていることが、金村さんにまで知られているとは意外だった。
「さしのべてなんてない。わたし、迷惑してるんだから」
しかし、金村さんはわたしの反論に答えずそれっきり前を向いてしまった。ちょうどその時、休み時間終了を告げるチャイムが鳴り、わたしとサチはあわてて自分の机に戻った。
その間、みどりちゃんは、窓際の席からずっとこっちの様子を見ていてくれた。職員室に一緒に来てくれなかったのは、わたし一人で大丈夫だと思ってくれたからだ。わたしが席に着くと、しっかりした優しい視線を送ってくれた。
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