第一章 一九八〇年五月(プレリアール)
朝練に来る彼
第一音楽室に着いたのは、いつものように七時一五分。誰もいない教室の半分らへんにくっきりと線を引いて、窓から差しこんだ朝日が金色に照らしている。窓を開けると、冷たくて清々しい空気が遠慮がちに入ってきて、夜の間にたまっていた淀みを廊下の方に押し流した。朝練のある部活は多くないし、早くても七時半とかからだから、まだ校庭は静かだ。
椅子は昨日の合奏練習のまま、廊下を向けて半円形に並んでいる。わたしのパートはセカンドバイオリンで、教室の廊下側の中央におかれた指揮台に向かって、真ん中より少し右のあたりに、六つの席が二列に並んでいる。椅子はそのままで譜面台を三つ、合奏の形態に並んだ席の後に持ってきて立てる。それから弦楽器パートの後に並んでいる木管楽器の子達の椅子を三つ借りてきて、持ってきた譜面台の前に並べる。朝練は全員来るとは限らないので、あとは各自が用意すればいい。
楽器は音楽準備室のロッカーに入っている。白いマジックで8と書かれたのがわたしに割り当てられた楽器だ。二年生のバイオリンで自分の楽器を持っている子は七人中二人だけ。わたしは、自分の楽器が欲しいかっていうと、まあ、欲しい。お母さんもちゃんと説得すれば、「じゃあ、中間テストの成績がよかったら考えてもいいわ」くらいは言ってくれるだろう。というか、言ってくれた。でも、今年入った一年生の人数が少なかったせいで楽器はぎりぎり数が足りているし、休みのときには家に持って帰って練習してもいいし、なにより一目で自分の楽器とわかる茶色いケースにはいったバイオリンを抱えて学校に通うのは、ちょっといやだった。わたしより上手な(工藤くんみたいに部活に入る前からやっていた人を除いて)子が自分の楽器を持っていないというのも、いやな理由のひとつ。
音楽室に戻り、教室の端に寄せられた机の上でケースを開き、楽器を取り出す。弓の根本のつまみを回してゆるんでいた毛を張って、松ヤニを塗る。あ、この松ヤニは自分で買ったものだ。わたしの松ヤニは琥珀色というより濃く淹れた紅茶色。表面はもちろん白くなってしまったけど、光にかざすと内側からとてもきれいな光が返ってくる。
それから、指揮台の上に置かれたままのチューニングメータを借りてきてA線を弾く。よかった、合っている。実はわたしは調弦が苦手だ。というか、楽器が古くて糸巻きの滑りが悪い。いくらチョークを塗っても、固くて動かないかつるつる滑るかしてしまうのだ。A線とG線、A線とD線、D線とE線を同時に弾いて和音を確認する。これも一年前は全然ダメで、一弦ずつチューメーで合わせたり、先輩にやってもらったりしたけど、今はどうってことはない。そして、教室の一番後、大きな鏡の前に立ってボーイングの練習を始める。
紺色の襟のないブレザーに白いブラウス、膝まで隠すプリーツのジャンバースカート。せめてリボンくらい付いていればと思うこともあるけど、公立中学校の制服に可愛らしさを求めるなんて発想はわたし達にはない。髪は先端が肩につくくらいの長めのおかっぱ。背は中くらいだけど伸びが止まって久しいので、いずれ低い方になるだろう。顔は眉が太いのが気に入らないくらいで、あとはそれほどおかしな部位はない。もちろん間違ってもかわいいとか美人とか言われることはない。でも、それでよかったと最近は思うようになった。見た目と中身のバランスは重要で、外見の整った女の子は、性格や頭の中身も期待にそえるようじゃないと悲劇的だ。そういう意味では、わたしの外見と中身は良好な釣り合い状態にある。唯一の存在感を放っているのが、左胸の校章と組章の下に付いている名札に書かれた名字で「伝刀」という。伝刀茜、がわたしの名前。
自分の姿を見ているのは楽しくもなんともないけど、こうやって一日の最初に、ちゃんと弓を弦に直角に当てて弾けているかどうかを確認するのは大事だと思っている。顧問の穂積先生は、みんなに鏡を使うように言うけど、誰もいないときとかでないと、 気恥ずかしくてできやしない。みんなは、「アカネはまじめだから」っていうけど、早めに朝練に来るのは、音楽室の大きな鏡を遠慮なく使えるからっていうのもある。
全弓を使ったボーイングから、四分音符や八分音符の刻みをやって、音階練習を始めた頃、音楽室の入り口に種田一郎くんが姿を見せた。詰め襟の学生服はわたしより小さなからだには少し大きめ。度の強い黒縁の眼鏡をかけていて、素顔がどんななのか、わたしはよく知らない。種田くんは、挨拶をするでもなく、そして、わたしも練習を中断するでもなく、わたしの後を横切って窓際まで行き、窓の手前の段になっているところに腰掛けた。
そして、たぶん、足をぷらんとさせて、わたしが練習しているところをじっと見ている。
なぜなら、今、音楽室には種田くんの他にわたししかおらず、他にすることがないからだ。
種田くんが、こうして合奏部の朝練に顔を出すようになって、もう二週間になる。最初に彼が朝練に現れたとき、わたしは不安をかかえながら「見学?」と訊いた。
「うん」
彼は、ゆっくりした口調で頷いた。わたしはつばを飲み込み、覚悟を決めた。
「入部希望、とか?」
「ううん」
最大の懸念が解消されたので、わたしはほっとして、笑顔を浮かべて「そう」と言った。笑顔はまずかったかと直後に思ったけど、種田くんは何の含みもない笑みを返してくれた。
最初のうち、種田くんは一〇分もせずに音楽室を出て行ったし、毎朝来るわけじゃなかった。あるとき、わたしは彼に、なんで見学しているの、と訊いてみた。
「綾瀬先生に、早起きは三文の得って言われた。だから早起きして、学校にくることにした」
舌打ちしなかった自分を褒めてあげたい。綾瀬先生は、少し前まで四組に来ていた教生の女の先生で、男子にも女子にも人気があって、担任だった生徒一人一人にメッセージとかを残したというのは聞いていた。他に誰もいなかったので、わたしはすこしきつい口調になった
「早起きって、ただ起きただけじゃダメだと思うよ。勉強するとか、運動するとかしないと」
種田くんは、「うん」とだけ答えた。そして、次の日の朝もただ見学するだけのためにやってきた。
七時半を回ってしばらくした頃、北園碧ちゃんがきた。その頃には、わたしは鏡の前から離れて、並べた椅子の一つに座って自分のパートを練習していた。みどりちゃんは、落ち着いたよく通る声で、おはよう、と言ってくれ、わたしは手を止めて、挨拶を返した。長い髪を古風にお下げにして、縁の細い眼鏡をかけたみどりちゃんは、わたし以上に地味な外見だ。でも、勉強はできるし、べたべたしないけど実は面倒見もいいから女子には好かれてるし、眼鏡をはずせば、きれいな二重だし、大学生とかになってコンタクトにしたらすごいモテるという確信がわたしにはある。いや、今でもちょっと気の弱いタイプの男子の間では相当な人気なのだ。みどりちゃんは、そういう男子を差別したりしないから。
みどりちゃんが楽器を出してチューニングをはじめたころには、ぽつぽつと他の部員達があらわれはじめる。トロンボーンの堂本くん、トランペットの塩田くん、コンサートマスターの長柄先輩、部長の西村先輩。コンクールに向けた練習が本格的に始まっていないこの時期、朝練の集まりは悪い。それでも五〇人の部員のうち、三分の二くらいは顔をだす。
楽器ごとの性格の違いは分かりやすい。管楽器の男子達は、にぎやかでやんちゃで、先輩達にはかっこいい人が多い。それは女子も同じで、顧問の穂積先生がいないときは(穂積先生は弦楽器が専門で、管楽器のトレーナの先生がくるのは週に一回だけなのだ)、おしゃべりしている時間の方が長いくらい。弦楽器の男子達は、どちらかというと線が細くてまじめで勉強ができる子が多いけど、種田くんみたいに、気弱でおどおどした感じとは違う。
弦楽器の女子達も先生がいないところではにぎやかだ。茶色の布ケースに入ったバイオリンを肩にかけて音楽室に入ってきたのは、二年生の是永由美子で、「おっはよー」ときらきらした声を音楽室中に響かせた。
「三年の先輩達だって来てるんだし、そこは『おはようございます』だよねぇ」
フルートの早苗ちゃんがひそひそ声で耳打ちしてくれ、わたしは素早く頷いた。弦の女子で由美子のことを口に出して悪く言う子はいない。
そのあと由美子は「ねえねえ観たぁ?」と続いて、お気に入りのテレビの話をするのがいつもの流れだ。月曜日と木曜日は歌番組で火曜日はドラマのこともある。ところが、今日は違った。「ねえ宿題全然わかんないんだけど三組ってもう終わったんでしょカマキリの図形と方程式」
カマキリこと中谷先生は二年生六クラス全部の数学を受け持っているけど、一クラスしか進んでいない授業のことでは共通の話題にはなりようがない。三組の坂本さんは、ええっと、と言いながら不安げに周囲に目を走らせている。由美子は、じゃあ、あとで教えてよ、とあっさり坂本さんを解放して、窓際の方、つまりわたし達セカンドバイオリンが集まって練習しているところまでやってきて、窓際の台の上に通学鞄とバイオリンを置いた。でも、ケースを開いたところで、手をとめ、わたしの方に近寄ってきた。
「ねえ、種田、今日も来てるじゃん」
「え、うん」
わたしは練習する手を休めて、由美子の方に身体を向けた。由美子は少し声を潜めた。「アカネが見学に誘ったってほんと?」
わたしは持っていた弓ごと手を顔の前で何度も振った。「ちがうちがう、そんなことない」
「合奏部に入部希望出すんじゃないかって、言ってる子もいるよ」
入部希望を出せば入部はできる。でも、そんなことありえない。経験者ならともかく二年の途中から初心者ではじめてなんとかなるような楽器なんてないし。
いや、そうじゃなくて、なんでわたしにそれを言うの?
「他の部活の朝練にも行ってるらしいけど、みんな追い返したってさ。だって、ボールとかぶつかったら危ないじゃない?」
「じゃあ、わたし達もボール投げする?」
みどりちゃんの声が後から聞こえた。ふりむくと、楽器を持ったまま立ち上がったみどりちゃんが、わたしをはさんで由美子に向き直っていた。
とっさに何も言えない由美子に向かって、みどりちゃんは大人っぽく顰めた声で「由美子だけじゃなくて、私も心配してる。アカネちゃんもそうでしょ? 北村先生に相談しよう」
由美子はほんの一瞬だけ黙りこんで、わたしとみどりちゃんを見た。そして、
「北村先生か……」
低い声で言ったあとで、「じゃあ、そうしようか」と、軽く笑みまで浮かべて、自分の楽器の方に戻っていった。わたしはゆっくりと長い長いため息をついて、席に座り直した。
少なくとも今みどりちゃんにお礼を言う必要はなかった。そのかわり、わたしたちは一瞬だけ目配せしあったあと、二人同時に曲の冒頭からバイオリンを弾きはじめた。
グリンカ作曲、ルスランとリュドミラ序曲。
とにかく、速くて元気のいい曲。そしてめちゃくちゃむずかしい。全楽器がユニゾンでちゃんちゃかちゃんかちゃん、と合わせた後に続く一六分音符の山なりの音階。四小節目にしてずっこけるのが定番なので、現在の練習は本来のテンポの一.五倍くらいでやっている。でも、今、わたしたちはギョクサイ覚悟で本来のテンポで弾きはじめていた。二分音符や全音符は大きく弓をつかって気持ちよく、問題の一六分音符は、鼠が駆け足するみたいにほとんど弓を動かさないで。とりあえずテンポを守るためにわたし達が考えたのがこの奏法だった。穂積先生の前では絶対にできない。
バイオリンがお休みになってオーボエとティンパニの掛け合いのところは、大げさに足踏みをして休符を数える。足でリズムを取るのももちろん御法度だけど、パート練や個人練ではみんなやっている。なんとなく楽しいのだ。チェロが歌うように第二主題を弾くところ。わたし達はピチカートで裏泊を打つ。ピチカートは大好きだ。なんといってもかわいい。メロディなしで裏拍だけ弾くのは難しい。でも、そこにさしかかったとき、教室の反対側から、ビブラートを派手にきかせたチェロの音がきこえてきた。小村先輩だ。ハイポジションの音程はちょっと怪しいところはあるけど、わたし達と息はぴったりで、思わずみどりちゃんと顔を見合わせてにやりとしてしまう。
視界のはしに種田くんの姿が見えた。窓際の壁に立って、こっちをじっと見てる。音合わせとか音階練習をしているなかで、通しで曲練習をしているのはわたし達だけだからそれはいい。今は弓と指を動かして休符を数えるので必死だ。でも、それもだいぶ楽になってきた。小村先輩以外にも、わたし達の演奏に合わせてくれる人がひとりふたりと出てきたからだ。音楽準備室で練習していた(ふざけていた)金管楽器の人達と、本来の練習場所に行っていなかった木管の子達がはいってくると、急に曲らしくなる。そして極めつきがティンパニだった。オーケストラと言っても小規模な曲が多い合奏部で打楽器の出番は少ないけど、北条先輩は三年生の中では一番まじめに練習に出てくる。転調や変調が続く展開部をどうにかくぐり抜けて、第一主題の再呈示の直前、クラシックというよりは映画音楽みたいにあざとく盛り上がる部分、一六分音符の細かいパッセージに遠くから呼応するように、ピアニッシモのティンパニが響きはじめた。作曲者がふざけているとしかおもえないような一八小節のユニゾンの音階をどうにか弾ききって、嫌がらせとしかおもえないような第一主題に戻ってきた。
やっぱり打楽器の力はすごい。それまで個人練習は個人練習とまじめにやっていた人達も、譜面をめくりはじめた。このテンポで通して自分のパートを弾ききる人は、三年生でも半分程度だろう。それでも再呈示された第一主題は「オーケストラ」っぽい音の厚みがあった。どうがんばってもテンポに遅れ気味になるバイオリンとビオラ、マイペースで突っ走るチェロ、バイオリン以上にぐだぐだな木管女子達のなかで透き通った音をこだまのように響かせるのはオーボエの大堀くんだ。淡々と、しかし嫌でもドラマチックに北条先輩のティンパニが要所を締めると、どうにか曲らしくきこえてくるから不思議。バイオリンの「子ネズミ奏法」も一〇人も重ねれば迫力が出てくる。本来は合奏に参加できない一年生達も、先輩達の譜面を覗き込みながら弓をうごかす。ティンパニと掛け合いながら、最後のクレシェンドと音階地獄をくぐり抜け、わたしたちの合奏はコーダに入った。たたきつけるように元気よく不安げな半音階で降下するトロンボーンや低弦のかっこよさ。その間、高音と低音をいったりきたりする一六分音符の刻みで、最後の盛り上がりを待ち構える。ティンパニと、残りの全ての楽器がかけあいを重ね、ピアニッシモからフォルテッシモまで、刻みではなくひと弓で二オクターブの音階を駆け上がる。何も考えなくていい八分音符の連打。 最後の音はブリッサンドで下ろして弓を往復させた後で、剣道の残心のようにふわっと弓を持ち上げる。
一瞬の静けさの後に、笑い声とざわめきが一気に立ち上ったので、種田くんの力一杯の拍手は誰にもきこえなかっただろう。まだ、みんな半分も弾けていない、わたしも展開部のところは全然音が出ていないところもあった。チェロや金管のテンポはめちゃくちゃだ。それでもなんというのか、みんなで音を合わせることの楽しさは、穂積先生の指揮でのちゃんとした練習よりも、こういういいかげんな練習の時に一番感じてしまう。合奏部に入ってよかった、と感じるときだ。
一年生を交えて音階練習を再開して一〇分くらい、朝練の時間はあと一五分も残っていないというとき、わたし達の後で、よく透る男性の声がした。
「今日は出席率いいね。じゃあ、集めてくれる」
穂積先生だ。長身を真っ黒なスーツに包み、赤系統のストライプのネクタイをぴちっと決め、長めの髪の毛はきれいに整えられている。一部の女子の間で「プリンス」というあだ名をつけられているものの、それさえも微妙なニュアンスが含まれていることは周知のとおり。ただし、合奏部員の間では穂積先生の音楽指導について表だって異論を口にする子はいない。それは、本来の受け持ちが社会科で副顧問の北村先生とは正反対だった。
コンクールが近い時期でなければ、穂積先生が朝練に来るのは週に一回くらい。二年生と三年生、それにごく数名の経験者の一年生が譜面を持って音楽室の真ん中に移動し、一年生は二音(第二音楽室)に移る。音楽準備室から管楽器の子達が再び出てきて、わたし達が使っていた譜面台を自分達の椅子の前に並べなおす。
由美子はファーストで、コンサートマスターの長柄先輩の隣、わたしとみどりちゃんはセカンドバイオリンの二プルート目に並んで座る。穂積先生は、
「ファーストとセカンドの違いはうまい下手なんかじゃない。大事なのは性格だよ」
と、よく言う。そういうのを学校の先生が言うのってどうなんだろう、と思うこともあるけど、何がどうなのか、わたしには分からない。穂積先生は、一年生でも経験者だったり上手な子にはソロやパートリーダをやらせる一方で、まじめで努力している先輩達には「がんばってるね」というだけで、がんばってることを理由に表舞台に立たせるようなことはしない。「ひいき」とか「差別だ」とか言う生徒も合奏部以外からは聞こえてくる。
「じゃあ、一回通してみようか。ゆっくりと、でもテンポは守ること。たんたたたんたたたん、これぐらいで」
さっきのちょうど二倍くらいの遅さだ。繰り返しなしで通して、予鈴までに終わるだろうか。わたしは椅子に座る位置をなおし、背筋を伸ばして先生の方に目をやった。穂積先生の目が全員をひとなでし、指揮棒を持った右手と左手がすっと上がる……と思ったら。
「ちょっと、なんで!」
穂積先生のうわずった声が響いた。「どうして種田がいるんだ」
わたしを含めて全員が後を振り向き、窓際に佇んでいた種田くんに八〇本近い視線が突き刺さった。
「誰が連れてきたんだ?」
誰も答えなかった。誰が連れてきたわけでもないことは、わたしの説明を信じてくれているなら、みんな知っていたから。でも、みどりちゃんやひょっとしたら由美子にも迷惑をかけるわけにはいかない。わたしは答えになっていない答えを口にした。
「見学です」
穂積先生の大きく鋭い目がわたしをみすえたけど、何もいわなかった。その代わり、視線を種田くんに転じると、聞いたこともない優しい声で言った。
「これから合奏するんだ。大きな音が出るから、出て行ってくれるか?」
「はい」
種田くんは小さな声ではっきり答え、管楽器と弦楽器の小さな隙間をぬって音楽室の出口に向かった。北条先輩が、視界の隅で、スティックを持った手で楽器を押さえようとしていた。
「音を出さないで!」
穂積先生の鋭い声に、わたしはほとんど呼吸も止めて種田くんの姿が音楽室の扉の向こうに消えるのを見送った。
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