第31話 ヴンダール迷宮 第5層 第3休息所 ①

 思いのほか早いおれたちの帰還に、第6層に最も近い休息所である第5層第3休息所で待機していた班員たちは、どういった反応で出迎えるべきか戸惑いを見せた。


「大丈夫だった? どこも怪我してない?」


 そのため最初に話しかけてきたのはニーナを中心とする数名の治療師だった。彼女らは全員既に巫女服に着替えており、いつでも治療を行える状況を整えている。


「ああ幸いにも、直接的な接触は誰もしていない」


「あら、その割には帰ってくるのが随分早かったわね」


 ニーナがおれの腹部辺りを指でつつきながら、挑戦的な笑みを浮かべる。普段とは違うニーナの蠱惑的な服装と、うなじから漂う芳香も相まって、ひどく男心をくすぐられた。人目がなければ今すぐにでも無茶苦茶に抱いていたところだ。そんなことを考えてしまうくらいにはくたびれていた。


「詳しくお聞かせ願いますか?」


 次に訪ねてきたのはイグだった。おれは用意されたスツールに腰掛けると、水と簡単な軽食を取り巻きたちに頼んでから口を開いた。


「予想どおり、第6層に立ち入った瞬間攻撃を受けた。何とか防いで、もちろん反撃もしたが、多勢に無勢で戻ってきたってところだ」


「攻撃を仕掛けてきたのはどういう生物で?」


「その説明はおれより、こいつらのほうが適任だ」


 おれは傾いだテーブルに置かれたパンとデーツのコンポートを頬張りながら、しつこいイグに新たな話し相手を斡旋した。


「生物というには、かなり曖昧な存在だった」


 述べたのはリンタキスだ。


「曖昧な存在? 不定形ということでしょうか?」


「貴方が想像しているものが、フェアリーやスライムあたりだとするなら、乖離に苦しむだろう」


 魔術師っぽい苛つく言い回しだ! こいつ、人目があるとこんな話し方になるのか。そりゃあフォッサ旅団の食客という立場の割には軽んじられるわけだ。


「とすると、どういう妖精種を連想すればよろしいのでしょうか……」


「妖精種というよりも、あれは、魔術に近い……」


 リンタキスは自らの言葉に誰よりも驚いたように目を見開いた。


「そうだ、一番近いもの……あれはもしかして、誰かの魔術なんじゃないか?」


 そしてアイラに向き直りながら言った。


「うーん、魔術か……言われてみれば、そうかもしれないね」


「だとすれば、どこかに術師が居るのかもしれない」


 しかし声高に主張するリンタキスとは対照的に、アイラの顔は浮かないものだった。


「どちらにせよ、あれを防ぐ方法を考えないと、私たち一歩も進めないよ」


 確かにそのとおりだ。だがリンタキスの言うようにあれが何者かの魔術なのだとしたら。付け入る隙はあるかもしれない。


「もう一度やってみるか……もし術師が居るのなら、そいつが何であろうと魔力には限りがあるはずだ」


 おれは言った。


「では、次は私も同行させてもらいましょう」


 イグが言った。

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