功罪

第24話 魔道具《アーティファクト》①

 帝国の人間は故人を偲ぶために石を添えたがる。

 だから都市周辺の街道には所せましと石碑が並び、仰々しい碑文と名前でもって死者を讃えるが、人間というのは良くも悪くも前向きな生物だ。いつしか石に刻まれた弔辞はかすれ、名は雑草で覆い隠される。その一つ一つに物語があり、命が息吹いていたなどと誰が信じよう。


 おれたちは一際大きな石碑に花を添えると祈りを捧げた。死に方や立場はどうあれ、ギルドレイドに参加したすべての者はここに証を残す。悲しい現実ではあるが新たなギルドレイドが開かれる度、この石碑に刻まれる名前の数は増え、その度に探索ギルド主催の追悼式が行われたが、参列者の数は刻まれる名前のように増え続けはしなかった。


 しかし今回、パルミニア郊外の街道沿いで正午過ぎから行われた追悼式が、過去最高の参列者を記録したのには、パルミニアを取り巻くある環境の変化が関係している。


「ようやく終わりか、さっさと飯でも食って帰ろう」


 おれは石碑の前に花束を放ると、立ち上がった。ティベリウス門の周辺には所せましとテーブルが並べられ、その上には上流階級の人間も舌鼓するほどの、豪勢な料理がひしめいている。さらには石碑に祈りを捧げた者なら誰でも好きなだけ食べていいという大盤振る舞いだ。


「探索ギルド、最近景気がいいみたいね」


 ニーナが食事に群がる人々を一瞥しながら言った。


「おかしいな、おれはまだ何のおこぼれにも預かってないぞ」


 石碑の脇には誰かが食べ残した骨付き肉が落ちていたが、おれが拾う前に野良猫が持って行ってしまった。


「それは貴方が稼いだ分をすぐ使っちゃうからでしょ」


「そうだっけ?」


「とぼけても無駄よ。第5層に追加で作った休息所、ギルドから引っ張ってきた予算で足りなかった分は、貴方が出したって聞いたけど」


「どうせあとからテリアが払ってくれるさ」


「だといいけど……」


 だが探索ギルドの景気がいいってのは本当だ。先のギルドレイド以降、今まで尻込みしていた探索者たちも、こぞって第5層の探索に乗り出していた。探索者たちは毎日のように財宝を地上へ持ち出し、その恩恵はパルミニア全体に行き渡るに十分な量だった。つまるところ、探索ギルドは空前の好景気に沸いてるってわけだ。


「今日はこれからテリアさんのところへ行くんでしょ?」


「ああ、さっそく金の無心でもしてくる」


「私はアイラと一緒に帰ってるね」


 ニーナにしては珍しく、引き際がよかった。アイラと二人、女同士で内緒話にでも花を咲かせるつもりか? まあいい。ついてこないのならこちらとしても好都合だ。


 おれはテーブルから適当にパンやチーズなどを取ってポケットに突っ込むと、ティベリウス門をくぐり、城壁沿いを上流階級の住む地区に向かって歩いた。

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