第22話 ヴンダール迷宮 第4層 冥王の間 ④

「嘘だろ……」


 丁字路の左側では、デイウスが床に突っ伏している。背中には刃幅の広い手斧が深く突き刺ささり、助かりっこないことが一目で分かった。


「リーダー、遅かったな」


 丁字路の反対側にはダルムントが居た。半裸でところどころ巻かれている包帯には大量の血がにじんでいたが、このくらいの傷はダルムントにとってはかすり傷のようなものだろう。


「やったか?」


「手ごたえはあった」


「奴を殺せば、仲間がニーナを殺すと脅されたんだが」


 ダルムントは首を傾げた。


「ニーナは王宮には居なかったぞ」


「そうなのか?」


 てっきりニーナは王宮でおれの帰りを待っているものだと思っていた。


「それなら、治療師たちはどこへ?」


「王宮の祭壇に居た治療師の大多数は、テオ達と共に既にキャンプへ向かっている。逃げるのを嫌がった治療師は捕らえられてしまったようだが、それも片手で数える程度だ」


「おれが受けた報告では、お前が治療師を逃がして、テオがデイウスと戦っているということだったんだが」


「そのとおりだ。最初テオたちは、俺が治療師を逃がす時間を王宮警備中の探索者たちと一緒に稼いでくれていた。しかし、交戦中にパルミニア連合の別動隊が治療師を追っていることを察したらしくてな」


「デイウスから逃げて、お前と合流したってことか」


「そうだ、テオたちのおかげで治療師のほとんどは無傷で逃げることができた」


「意外だな、テオはデイウス憎しで、自分を見失っていると思っていた」


「俺たちが思っているよりも、若者の成長はずっと早いってことだ」


 そういうもんか。おれが感慨に浸っていると、ダルムントが何かに気づいたかのように倒れたデイウスに近づき、斧を引き抜いた。うめき声を上げるデイウス。危なかった、まだ息があったのか。


「ところで、お前はなんで戻ってきたんだ?」


「ん? ああ……」


 おれが尋ねると、ダルムントは斧を片手に照れくさそうに口角を緩ませた。


「決まっているだろう、こいつと少し、楽しもうと思ってな。性格は置いといて、顔は割と好みなんだ」


 そういうと、ダルムントはデイウスの服をおもむろに脱がし始めた。


 おれは怖くなって、アイラのところへ駆け出した。

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