第15話 ヴンダール迷宮 第5層 宝物庫 ⑫
「ううん……どうしたんですか?」
目を覚ましたカレンシアが、おれの背に手を這わせながら起き上がるのと、見張り番をしていたはずの探索者数人が、剣や盾を打ち鳴らしながら中継地点に飛び込んできたのはほぼ同時だった。
「問題が起こったみたいだ」
おれはすぐさま立ち上がる。周囲を見ると状況を察した勘のいい奴らが、既に何人も武器を携えて中継地点を守る柵の前に立っていた。
「ロドリック、スプリガンとゴーレムだ。ゴーレムが5、スプリガンが20、かなりの数だぞ」
スピレウスが焦った様子で駆け寄ってきた。
「戦列を形成しろ。おれも盾と槍で戦う」
おれは飛び起きると、そこらに立てかけられていた盾と槍を拾って構えて見せた。
「なかなか様になってるだろ?」
「装剣技で一掃しないのか?」
スピレウスが眉をひそめた。
「魔力残量が心許なくてな」
スプリガンはともかく、ゴーレム5体を倒すほどの魔力を使えば、メロウの涙に貯めてある魔力は枯渇するだろう。今夜が終わってもギルドレイドは続く、できるだけ魔力を温存しておきたかった。
「それなら仕方ない。でも、勝てるのか?」
「なあに、アイラとカレンシアが居るんだぞ。むしろおれの出る幕なんてないさ」
おれは柵の前に作られた戦列を見た。後方に居るアイラが、既に詠唱を始めている。
「カレンシアはアイラの補助に入ってくれ」
「はい!」
おれは盾と槍を構えて戦列に加わる。柵の一部が破壊され、そこからスプリガンがわんさか現れた。小さい体に見合わぬ棍棒は、人の脛を打ち砕き、頭部をいとも簡単に粉砕する。
おれたちは密集隊形を取ると、盾を構えて通路を塞いだ。これが対スプリガン対策として燈の馬の連中が編み出した戦法だ。隙間なく並べた盾で簡易的な壁を作り、後衛を守ると同時に小さな体躯のスプリガンにかき回されるのを阻止するって寸法だ。
おれは盾と盾の間から槍を差し込み、鬱陶しくおれの盾を叩き続けているスプリガンの胴体を突き刺した。周りの奴らも二日目となると慣れたもんで、同じように槍でスプリガンを撃退している。
ここまではいい、だが奥からゆっくりと近づいてきているゴーレムの攻撃は、この戦法では防げない。
「時雨!」
そこで魔術師の出番だ。
カレンシアが柵の向こう側に雨を降らせた。
「氷柱――」
それをアイラが鳴動と共に氷に変え、冷えた空気を周囲に漂わせた。
「始末したか?」
ゴーレムの足音が止まった。おれたちは最後の一匹であろうスプリガンの息の根を止めると、盾を下ろしアイラたちの方を振り返った。
「どうかな、手ごたえはあったけど、アイアン以上ならコアは無事かも」
「だそうだ男ども! 無傷のコアを確保すれば小遣い稼ぎになるぞ! もちろん早いもの勝ちだ!」
おれはまだ戦い足りなそう奴らを鼓舞し、柵の向こうへと走った。アイラの氷で動きが止まっているうちにゴーレムを5体とも片付けたいところだった。
おれはスプリガンの死骸を蹴り飛ばしながら壊れた柵をくぐり、そしてそこで、ゴーレムの姿を目にした。
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