第14話 ヴンダール迷宮 第5層 宝物庫 ⑪
おれたちは1日目と同様、ここでも助太刀と称して様々なチームを助けて回った。
比較的フリーの探索者をかき集めたチームが多いこの区画は、ヘイルが仕切っていた中継地点と違って、夜の集いもどこか互いに遠慮がちな、厳かな宴となっていた。それなりの死人と怪我人を出して意気消沈しているってのも理由の一つだが、この中継地点は他のものと違って、ギルドレイド終了後には休息所として運用されることとなっている。垂れ幕の奥からはヴェステの巫女たちが祭壇を建設するための、辛気臭い祈り声が昼夜ぶっ通しで聞こえてきて、酒と会話を楽しむって雰囲気ではなかった。更に言うと、おれはまた別の問題にぶち当たっていた。
「どうしてアイラさんと二人で行動しているんですか?」
食事のあと、カレンシアが先ほどの続きをやろうと、おれの隣に腰を下ろした。タイミングが悪いことに彼女の右手には葡萄酒がなみなみと注がれたばかりである上、アイラは祭壇を作る様子を一度見てみたいと、治療師たちの居る垂幕の中に入っていったばかりだ。ちなみに祭壇建設中の治療師に近づくのは御法度とされているため、アイラの後に続く者は誰も居なかった。
「アイラもおれも、第5層の探索には慣れてる。でも君は初めてだろ? 未経験者を少人数で行動させるわけにはいかない」
おれは垂幕の方向を眺めながら言った。
「だったらせめて3人でも良かったじゃないですか」
「レンの班は戦力不足だった。それにこの区画の戦力を鑑みても、君を連れて行くわけにはいかない」
「何か隠し事、してません?」
カレンシアがおれの顔を覗き込む。おれは目をそらした。
「秘密のひとつやふたつくらい、誰にだってあるだろ」
「私にはありません」
「私にもないよお」
いつの間にか垂幕から出てきたアイラがカレンシアの隣に腰を下ろした。
「ちなみに、ニーナも無いって言ってたよ」
アイラの視線は垂幕の向こうを指していた。
「まさか、ニーナも来てるのか?」
「騙されたね。来てるわけないじゃん。何そんなに焦ってるの?」
アイラがけたけた笑いながら、おれの頬を指で突く。こいつ……目を離した隙にどれだけの酒を飲んだのか。その表情から推し量ることはできなかったが、素面でこれだとも考えたくなかったので、おれは問いただすのをやめた。
「とにかく、今さら班の再編成はできないでしょ、ごめんねカレンシア、今回の主役は私に譲ってよ」
これ以上ゴネても無駄だと悟ったのか、それともアイラに面と向かって逆らうことに戸惑いがあるのか、カレンシアは小さく頷いた。そしてその代わりと言ってはなんだが、彼女はおれの体に密着するくらい近づき、そっと肩に寄りかかった。
「一緒に行くのが無理なら、せめて今くらいは、いいですよね」
おれは目を閉じた。幸福な思い出が、心にいくつも映っては通り過ぎてゆく。そしてその思い出の主は、確かにおれの隣に存在しているのだ。それがにわかには信じがたかった。
アイラが立ち去ったことに気づいて、おれは思い出から目を覚ました。気を使ってくれたのだろう。
この中継地点は比較的広範囲の廊下を封鎖して作った拠点だとは言え、集まった探索者は祭壇を建設中の治療師を含めれば50人を超える。宴もそろそろお開きという段階で、プライベートな空間を確保するのは難しい。おれとカレンシアは寄り添うように横になった。他の奴らも気を使って、おれとカレンシアには一定の距離を保ってくれているようだが、それでもさすがに、この状態で愛の存在を確かめる気にはなれなかった。
まどろみの中で、おれは夢を見た。夢の中ではまたシアが現れ、おれに向かって杖を掲げているところだった。何を言ったのかは覚えていない。ただ数度言葉を発したあと、彼女を取り巻く黒いエーテルがおれに襲い掛かり、そこで目を覚ました。
瞼を擦りながらエーテル時計に目をやると、針は第2夜警時を回ったところだった。
どこか遠くで笛の音が聞こえた。衣擦れとガチャガチャとした金属音も。
おれは体を起こした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます