第6話 ヴンダール迷宮 第5層 宝物庫 ③

「計画書どおりなら、この先にソニアたちがいるってこと?」


 中継地点から歩くこと30分。いくつかの分岐を過ぎ、発光魔術の間隔が遠くなり始めたころ、近くで人の気配を感じ取ったアイラが言った。


「そのはずだ」


 このルートにはもうソニア班以外の探索者は居ない。中継地点からそれほど離れてなくてよかったが、だとするとまた別の問題も浮上してくる。


「気をつけろ、何かトラブルでもあったのかもしれない」


 おれが身をかがめながら立ち止まると、アイラもピタリと足を止めた。


「何か聞こえる?」


「逆だ、聞こえなさすぎる」


 ソニア班は全部で15名だ。休憩中だとしても、全員が健在なら息遣いや衣擦れなど、もっと賑やかでもいいはずだった。なのに今聞こえる気配は、どう見積もっても2,3人程度のものしかない。


 おれは飛び出そうとするアイラを押しとどめながら、曲がり角から身を乗り出して通路の奥を覗き見た。


 目に映ったのは、壁に寄りかかりながら、ゆっくりと引き返してくる探索者だった。


 ソニア班のメンバーの男だった。無所属の探索者だが、根性がありそうな奴だったのでソニアの班に組み込んだのを覚えている。


「何があった? 他の皆はどうした?」


 男の負傷は激しかった。左足に巻いてある包帯の隙間から、折れた骨が突き出している。男はおれの姿を見ると、安心したかのように床にへたり込んだ。


「この先で、皆さんは戦っています。俺は中継地点に戻って、応援を呼んでこいって」


 その足じゃあそうなるだろうな。


「場所は?」


「本日の探索終了予定地点より、少しだけ先です」


 邪魔が入らなければ数十分程度で追いつける距離だ。


「アイラ、急ぐぞ」


「はいはーい」


 駆け出そうとしたアイラは、ふと何か思い出したかのように振り返った。


「ちなみに、敵は何?」


 男はためらいがちに答えた。


「ナックラヴィ―です」


 アイラはにんまりと笑みを浮かべて、おれを突っついた。


「ほらね、私の言ったとおりだったでしょ?」

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